古き者の決着 (3)
「椿鬼さん!」
声と共に放たれた矢が酒呑童子の腕を貫く。
「離れろ!」
隙を狙った薙刀が酒呑童子を斬り伏せる。
「青井…風花…何故此処に…」
「探査札に反応があって…そしたら椿鬼さんとあの妖怪を見つけたんです」
青井が駆け寄り椿鬼を抱き起こす。
「椿鬼さん!腕が…!」
「儂の事は気にするな…それより大将を」
倒れたままの大将へ歩もうとしたが感じた殺気を睨みつける。
「何で…手応えはあったのに!」
風花が薙刀を構える。
斬ったはずの酒呑童子は黒いモヤと共に立ち上がり妖滅巫女の方へ向く。
「……霊力が効いてない?」
再び矢を射る青井。
胴に刺さっても酒呑童子は物ともせず風花へ迫る。
『奴は屍だ!霊力を持ってしても滅せぬ!』
玄武の忠告に従い風花は距離を置く。
『ぐ…つ…ば…き…』
「どうすればいいのさ!」
策を練る必要に至り青井は御札を取り出す。
「風花!白虎様を喚んで大将さんを連れて!一旦退くよ!」
「相分かった!」
『しっかり掴まっていろ!』
風花は大将を抱え背に乗せるのを見計らい、
青井は閃光札を酒呑童子へ投げる。
「待て…まだ儂は…っ」
「その傷じゃ無理です!」
『妖怪を乗せるのは不本意だが…!』
朱雀を召喚し青井は強引に椿鬼を乗せる。
目眩しが効いている間に一行は清天神社へ撤退した。
『つ…ば……』
残された酒呑童子は天を仰ぐ。
「所詮は屍…」
近辺で観戦していた犬魔と厄狼が酒呑童子の元へ近寄る。
「制御ハ難シイか」
「脳は半分欠け妖力も殆ど無いこいつを黒巫女の力で無理やり動かしてるんだ」
理性の無い酒呑童子は犬魔を敵と見るや襲いかかる。
しかしそれより素早く立ち回り厄狼は彼を地面に叩きつけた。
「大人シク…してロ」
「一度連れ帰ろう…今度はひと騒ぎ起こしてもらう」
厄狼はマトの指示に従い酒呑童子を引きずり去る。
その場には屋台だけが残された……。
椿鬼を連れて清天神社へ撤退した青井と風花。
留守を任された娘伯と元斎は重い顔をしている。
「はい…どうもありがとうございます」
通話を切り青井が携帯電話をしまう。
「大将さんは無事病院に…命に別状は無いみたいです」
「そうか…良かった…」
「椿鬼さんは良くないですよ!腕は大丈夫なんですか!?」
包帯を巻き失った片腕を隠す椿鬼は怒りに似た表情をしていた。
「こんなのとかげの尻尾じゃ…いずれまた生える」
一行を心配させない為に椿鬼は嘘をつく。
「青井…風花…面倒な事をさせて済まない」
「私じゃ対処できなかった…屍が相手じゃどうしようもない」
「…あれは…酒呑は儂に任せろ」
「無茶ですよ一人じゃ…」
「どうせ御主らも足手まといじゃ…一人でケリをつける」
そう言うと椿鬼は立ち上がる。
「もし儂が死んだら…ぶ!」
重い空気を祓うように娘伯が椿鬼の頬をビンタする。
「椿鬼は死なない…私より強いから」
「娘伯よ!だからと言ってこんな事してくるか!」
張り上げたいつもの声に娘伯は笑みをこぼす。
「その調子」
「全く……行ってくる」
椿鬼は最後に笑顔を交わし社務所を出て行く。
「追わなくていいんですか?」
「だいじょぶ…」
ずずっと茶を飲み青井の問いに淡白な返事をする娘伯。
「居候が随分長く居座ったな」
元斎はやかましい存在が居なくなるならそれでいいらしい。
「少し…寂しいかな」
それは娘伯がふと漏らした本音だった……。




