神楽舞 (3)
ついに神楽舞奉納の当日がやってきた。
予め用意されてた長椅子は満席となるほど参拝客で賑わっている。
「……やっぱり受けるべきじゃなかった…」
直前まで消極的な思考で出番を待つのは娘伯だ。
「まぁまぁ娘伯さん」
「これも社会勉強だと思って!」
歳下に宥められるが今更逃げる訳にもいかない。
小道具である扇子と小刀を確かめてよしと呟く。
「結局…もう一組の人達って誰なんだろう」
「もしかして寝坊してるんじゃない?」
正体の分からない一行を勝手に予想する風花。
「娘伯様ー神楽舞の衣装に着替えるのでこちらへお願いします」
「ぁ…は…はい!」
ボランティアの手伝いに促され娘伯は神楽殿から離れる。
「「すいませーん!遅れましたー!」」
入れ替わるように巫女装束を来たとある二人が舞台袖へやってきた。
「あれ…ハルとヒセ!?」
「げ…青井と風花!?」
青井も風花もハルとヒセと気付き驚く。
狐耳は変幻で隠しているが確かにその二人だ。
「もしかしてもう一組の担当って…」
「お姉さまも一緒だよ」
「誰が来るかと思ったけどこれなら安心だね!」
「くっつくなー!」
風花はぐいぐいと寄りヒセは慌ただしく離れようと試みる。
「巫女装束姿…似合ってるね」
「もう…私は男だよ?」
茶化し合う青井とハル。
「クリュウさんも一緒と言う事は…神楽舞で狐役やるの?」
「あまり乗り気じゃなかったけど…今日も寝坊して慌てて来た所」
「娘伯さんと同じだ」
そして同じ頃、更衣室では娘伯が着付けを行なっていた。
いつもの巫女装束に千早を重ね煌びやかな髪飾り、
「…絶対似合ってない」
本人が思う以上にその姿は麗しい。
その後ろを袖と狐面で隠しながらはけようとする銀髪の女。
重そうな和装に身を包み足を踏み外し転んだ。
「ぐえ!」
「ぁ…クリュウ?」
情けない声に娘伯は気付いた。
「や…やぁ娘伯」
「その格好…もしかして神楽舞の」
「あーもう!なんで知ってる顔に会っちゃうかなー!」
ただでさえ調子の乗らないクリュウは頭を抱える。
「…娘伯も神楽舞に参加するのかい?」
「…ん」
クリュウは娘伯の姿をじっと見て微笑む。
「よく似合ってるよ」
「クリュウも…似合ってると思う」
お互い乗り気で無い事を知ってか意気投合しだす二人。
「頑張りますか…!」
「ん!」
『娘伯様ー"九流"様ー準備はよろしいですかー?」
ボランティアに再び呼ばれて返事する娘伯とクリュウ。
境内でアナウンスが入りいよいよ神楽舞の始まった……。




