妖怪探しと (4)
「…これで手がかりは粗方揃ったかな?」
公園のベンチで一休みしながら風花はメモを確認する。
青井はただ歩き続けただけだが大分疲れた様子。
「猫の証言なんてあてに出来ないと思うけど…」
『確か狛は木で囲まれた所を縄張りにしてるよ』
『赤い建物が見えるとか言ってたな』
『静かな所だから落ち着くんだって』
『下がれ!これは男同士の闘いだ!』
『今こそ雌雄を決する時!』
「最後の2つは除外」
「思いっきり威嚇しあってたもんね…」
そんな不確定な情報をまとめると多分公園だろうと都会の公園を巡った。
しかしこの手がかりの必ず一つは外れてしまい当然狛も見当たらない。
最後の公園もハズレに終わり青井と風花は途方にくれていた。
「仕方ないから今日は諦めて神社に戻ろう」
「はぁ…疲れた」
がっかりした様子の風花に青井は心底疲れたため息で帰路へ向かった……。
「ただいま戻りましたー」
既に日は落ちて夜を迎えた清天神社。
青井と風花が境内で一声かけると社務所から元斎が出てきた。
「うむご苦労…」
「結局猫又は見つかりませんでした」
報告を受ける元斎はどこか元気が無い。
「どうかしましたか?」
「ぁ…いや何でも…」
『にゃー』
猫の鳴き声が聴こえ辺りを見回す。
「帰ってきたぞー!」
しかし鳥居からやかましい声がして一同振り返る。
椿鬼を先頭に勝一が続き…娘伯は何故か鳥居に隠れている。
「ほれ何しとる早くこっち来い」
「や…やだ…あぅ!」
椿鬼に捕まり鳥居から引きずり出されてしまう娘伯。
その容姿に元斎達は目を丸くした。
「よ…ようふく…どうかな…伯父」
「都会の中心で店を巡って決めたからの!巫女服よりは目立たないじゃろ?」
「巫女服より違う意味で目立ってただろ…」
買い物に付き合った勝一も娘伯に突き刺さる視線を気にしない事は出来なかった。
普段は巫女服で肌の殆どが隠れるが、
ホットパンツと薄着のシャツの組み合わせは柔らかな肌を存分に露出させている。
「とっても似合いますよ娘伯さん!」
「美人だと何着ても綺麗に見えるんですね…」
風花も青井も絶賛の声を上げる。
「ぉ…伯父?」
駄目に決まってる、と言いたかったが猫の鳴き声が元斎の反対を阻んだ。
再び一同が居場所を探す。
『にゃーん』
「あ!あそこじゃ儂の寝床!」
椿鬼が指差した先は社務所の屋根、
瓦の上にまんまると太った猫がこちらを見ている。
「おのれ儂の寝床から離れろ!」
ひとっ飛びで屋根へ行くと椿鬼は逃げようとするデブ猫を捕まえた。
「この猫…尻尾が2つに分かれてる!」
「まさか依頼の猫って…」
写真を見比べて模様が一致し青井と風花は確信する。
脱走した猫又とは椿鬼が抱えるその猫なのだ。
「まさかこんな身近な所に居たなんて…はぁ」
先程まで元気を残してた風花でさえこの結末には落胆してしまう。
「明日にでも遣いを寄越して飼い主の所へ戻そう…娘伯や?」
「…かわいい」
椿鬼に抱えられたままの猫又を娘伯は頭を撫でてみる。
「抱っこしてみるか?」
「…うん!」
重いが言葉に例えられないモフモフが娘伯を襲う。
「あぁ娘伯ってそんな顔も出来るんだな」
子供の笑顔を振りまく娘伯に勝一は少し困惑している
「こは…く…」
元斎はただ一人雷に打たれたような表情である。
今まで妖滅巫女の全てを教えてきた娘伯がどこか別人のように見えてしまったからだ。
『娘伯様は弱くなってしまった』
遣いが言い放った言葉を元斎はやっと理解する。
ただの人間の日常が娘伯に侵食し彼女を妖滅巫女ではなくただの人間に成り下がっていた。
皆が望んでるかは解らないが、
それは元斎にとって一番望まない事だった……。




