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巫女乃禄  作者: 若猫老狐
白と黒
136/182

関西御前試合〜特別枠〜

翌朝。

稲荷大社から徒歩で行ける宿は古風な屋敷だった。

「おはようございます!」

風花の声を合図に皆が起きていく。

小百合と和泉は別室だ。

「おはよう…よく眠れたか?」

『布団ふかふかで気持ちよかったよ』

アイサとアイカは慣れた手つきで寝具を片付ける。

青井も布団を畳んでいると娘伯だけまだくるまってる事に気付く。


「娘伯さん?もう朝ですよ」

「あと1時間…」「どーん!」

風花に毛布を剥がされ娘伯は寒さに身震いした。

「今日は準決勝なんですから寝てる場合じゃないですよ!」

「分かってる…夜は考え事してて寝るのが遅くなったの」

「考え事って何ですか?」

青井に訊ねられ娘伯は頭を起こす。


「クロ…今の私で勝てるかどうか…」

決勝まで進む事は見据えているのだろう。

しかしそれを阻むアイサが居る前で言う事ではなかった。

「娘伯…アイサが負ける…そう思ってる?」

「だって…」

「大丈夫…あまり心配するな」

アイサにも勝機が薄い事は解っている。

それでも表情を曇らせる事なく試合に臨むつもりだ。


「皆起きたかしら?」

戸が開き小百合が声をかける。

片手には襟を掴まれ引きずられる和泉が居た。

「和泉さんどうしたんです?」

「あれだけ忠告してたのに酒を仰いでしまってね…」

つまり二日酔い状態。

よだれを垂らし惚けた顔で眠ってしまっている。

「朝食を用意してるから先に宴会場へ行ってくれる?」

「あはは…分かりました」


娘伯はサラシを巻き一行と共に宴会場へ向かう。

しばらくして部屋からビンタの音が鳴り響いた……。



昼を迎え妖滅巫女達は再び会場へ赴いた。

稲荷大社と八幡神宮の巫女は揃っており準備も終わっている。

戦場を挟んだ観客席にはウェンフーと黒刃も試合開始を待っている。

「いよいよですね!」

「ん…」

まだ眠り足りないのか娘伯はまぶたを擦っている。

『これより御前試合の"特別枠"を開始致します』

小百合に代わって八幡神宮の巫女がアナウンスを掛ける。


昨日とは変わり戦場二面を合体させ全域を一面にした状態だ。

片側には小百合、対するは頬が赤く腫れた和泉。

「小百合ぃ…今朝の分はきっちりお礼したるでぇ…」

「自業自得でしょうに…」

二人が戦場へ入ると結界担当の巫女6人による大型結界が完成する。

『それでは特別戦…始め!』

巫女の号令で先に動いたのは和泉だ。

小百合の方は構えず間合いを測っている。


「いくで!」

無遠慮に殴りかかる和泉に小百合は当たり前に避ける。

そして最後の拳は後ろへ大きく避けた。

何度も相対し体で覚えた一連の動きは会場を拍手で包んだ。

「さてと…此処からは流れね」

手に貼った御札から式神型の青白い炎を出す小百合。

和泉も気合いを入れ拳を打ち付ける。

「おう!どっからでも掛かってきいや!」


2体の式神が弧を描き和泉へ迫る。

連続で飛びかかるそれに素早い突きでいなす。

その間に小百合は間合いを詰めていた。

3体目の式神を和泉の頭目掛けぶつけてかかる。

「よっ…うらぁ!」

身を屈み避けると小百合の袖を引き背負い投げる。

吹っ飛ぶ小百合だが式神がクッションとなり無傷で着地する。


「こうもお互いの手を知っとると盛り上がりに掛けるなぁ…」

「あらそう?なら…これはどうかしら」

小百合は集中すると新たな武具を御札で現した。

一見ただの太刀に見えるが、

鍔には拳銃のような造形が施されている。

「な…何あれ?」

霊的空気銃に長けた青井でも初見の武具だ。


「関東の妖滅巫女に習って稲荷でこさえた霊的空気銃と太刀を合わせた武具…霊的銃刀よ」

小百合は一振りし太刀の感触を確かめる。

「なんや…んなゲテモノ!」

和泉が飛びかかる。

御札で保護された拳に力を込めて小百合へ迫った。


「甘い!」

太刀で受け止めるとそのまま引き金を引く。

弾は和泉の胴で炸裂し後方へ吹き飛ばした。

「うが!?こ…こんなも…ぬわ!」

立ち上がる和泉に弾丸の線が襲いかかる。

紙一重で避けるか拳で弾くが一発で味わう痛覚は相当な物だ。

「ぁ…しまっ!」

和泉の緩んだ片手に当たり御札が破れる。


弾切れをしても下部の弾倉を即座に再装填し小百合は容赦なく連射、

さらに間合いを詰めて和泉を追い詰める。

結界の端を背にしても和泉は打開策が浮かばない。

「この…!」「これで仕舞い!」

自棄になり和泉が拳を振るも霊的銃刀の弾丸に弾かれてしまう。

そして無防備な右手の御札を小百合は太刀で斬りつけた。


「ふふ…ゲテモノに負けた気分はどうかしら?」

小百合は意地悪く微笑する。

潰えた和泉の御札で決着はつき歓声が上がった。

「ぬあー!次は絶対勝つ!」

負け惜しみとばかりに和泉は床を殴った。

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