関西御前試合〜序〜(3)
「娘伯様!お久しぶりです!」
恐らく抱きつこうとした小百合の間に和泉が入り止める。
「相変わらず娘伯びいきやな!」
「あら和泉?案内ご苦労様」
素っ気ない態度で視線は再び娘伯の方へ、
「私服姿の娘伯様も麗しいわねぇ」
「ど…どうも…」
近所のおばさんに絡まれたようで娘伯は苦笑いを返す。
「そろそろ…此処で行われる事…教えてほしい」
話が脱線しないようアイサが訊ねる。
「そうねせっかく此処まで来てくれたものね」
咳払いで緊張を整え小百合は言う。
「これから行われるのは妖滅巫女同士による御前試合!名付けて…妖滅巫女特別御前試合よ!」
「そのままやないかい」
御前試合と言われても娘伯達には馴染みがない。
「具体的には何を?」
「選りすぐりの妖滅巫女が一対一での手合わせを行う年の瀬恒例の催しよ」
例年ならば稲荷大社と八幡神宮の巫女のみで行われるが、
夏の関東合同訓練をきっかけに娘伯達にも招待が成された訳だ。
「じゃあ私達も御前試合をやるんですね」
「人に武具を向けるのは気が引けるなぁ」
青井と風花は対人戦で武具を扱う事に抵抗はあるようだ。
「心配は要らないわ」
小百合は二枚の御札を取り出す。
「これを手に貼るとこれまで使った事のある得物を擬似的に召喚出来るの」
それを娘伯の手に貼って試しに使わせてみる。
「娘伯様なら一番手近な武具は小刀かしら?」
娘伯が念じると手から青白く光る小刀が現れた。
「出た」
「それに当たると怪我こそしなくても痛覚には反応してそれなりに痛いわ…最終的に御札を破かれるか戦意を喪失した時点で決着よ」
対戦場所は結界の中で行われる。
トーナメント形式で最後まで勝ち残った者が御前試合の優勝者だ。
「なるほど…」
「まっ遊び半分で気楽に臨めばええで!」
「遊びと思ったら痛い目を見るから気をつけなさい」
少し気になったのか娘伯は二人に訊ねる。
「小百合と和泉は試合に出るの?」
「私達は巫女筆頭でもあるし運営の代表も兼ねてるから試合には出れないわ」
「その代わり…エキシビジョンマッチとして決勝前に一丁暴れるから楽しみにしときや!」
「娘伯…二人と闘いたい…そうなのか?」
アイサの推測に嘘はつけない。
二人だけでなく青井や風花、東北巫女達とも手合わせ願いたいのだ。
『血の気溢れてるって感じ?』
ツクヨミが居れば敵無しだが、
「ツクヨミの力は借りない」
あくまで一人の人間として娘伯は試合に臨むつもりだ。
それなら仕方ないとツクヨミは引っ込んでしまう。
「トーナメントは計32人…でも一人欠員が居るのよね」
「そんならウチの巫女呼ぶで?」
「今から此処へ来るのは時間が掛かるでしょう…警備の巫女を割くわけにもいかないし…」
良い手は無いかと悩んでいたが受付の巫女が書類と共に訪れ事態は変わる。
「今回出場する32人が集まりました」
「……欠員はどうしたん?」
「人数が揃ったなら問題は無いでしょう」
何か引っかかるが和泉はそれ以上言う事は無かった。
「それじゃあ皆には準備してもらおうかしら」
「更衣室はこっちやで」
和泉の案内で一行は更衣室へ向かう。
「……ん?」
「どうしたの風花?」
会場の片隅で怪しいフードを被った人が居る。
気にはなるが話しかける暇は無さそうだ。
「なんか見覚えあるんだけどなぁ…」
「そんな事気にしないで…置いてくよ」
青井に言われ風花は慌てて娘伯達の元へ駆け寄る。
まだ御前試合は始まりの静けさを保っていた……。
娘伯達が到着するしばらく前。
小百合に手を引かれたある者が受付の前に立っていた。
「彼女を欠員の代わりにしてちょうだい」
フードで顔は隠れていて怪しさはあるが小百合のお墨付きならばと受付の巫女は書類を書かせる。
「黒刃…様ですね」
「えぇ…私は忙しいから後の事は任せるわ」
そう言うと小百合は何処かへ行ってしまう。
「はぁ…では黒刃様…開始まで会場でお待ち下さい」
巫女に案内されて黒刃と呼ばれる者はゆっくりした足取りで会場へ向かう。
その顔を見た者は誰も居なかった……。




