関西御前試合〜序〜 (2)
同じ頃、関東妖滅巫女。
娘伯、青井、風花は新幹線を乗り換え京都は稲荷大社へ辿り着いていた。
一行は私服で訪れたので数多の観光客と違和感なく溶け込んでいる。
トランクケースには巫女装束と三日分の着替えに御札、
そして不測の事態に備えて風呂敷に包まれた武具を担いでいる。
「修学旅行以来だねー」
「あの時はここには来れなかったけど」
風花と青井は一度京都を訪れた事があるらしい。
娘伯の方は巨大な鳥居に豪華な拝殿で気圧されてしまっている。
「凄い…」
「流石は京都一番の神社!」
「そして妖滅巫女の神社…この事は殆どの人が知らないだろうけど」
すぐ脇の土産屋に娘伯が寄ろうとするがある二人に止められる。
「観光気分…早い…と思う」
「アイサ…!」
隣には元気そうなアイカも居る。
「久しぶりアイカ!元気にしてた?」
『おかげさまで』
「青井…弓矢の鍛錬…怠ってないか?」
「やっと実戦で扱えるようになった所だよ」
招待はされたが東北巫女も同じく事を知らない。
"稲荷大社で催しを開く故、手紙をお送り致しました。
ご都合よろしければ是非ご参加ください。小百合"
日時と共に手短な文章が綴られた招待状。
この前日には稲荷大社の妖滅巫女が清天神社に訪れ、
代わりに都会護衛の任を引き受けてくれた。
此処までの施しを貰い断る訳にもいかずこうして稲荷大社に集った訳である。
「それで小百合さんは何処に?」
大社へ来いと書かれただけで詳しい集合場所などは聞かされていない。
一行が辺りを見回すとおよそこの場に相応わしくない巫女に気付いた。
巫女装束を着崩しメッシュの入った金髪。
「おーい!こっちや!」
八幡神宮の巫女、和泉である。
巫女らしくない格好に周囲の観光客はざわついている。
そんな事もお構いなしに和泉は妖滅巫女へ手を振っている。
一行は知り合いと思われたくなかったが渋々和泉の元へ行く。
「えーと…和泉さんがどうしてここに?」
青井が訊ねる。
「今回の"祭り"はウチら八幡神宮も主催やからや」
仲違いしてる筈の稲荷大社と八幡神宮が揃って催しを開く事が不思議でならない。
「んー毎年の事やけどなー」
和泉は楽しげに笑い開催を心待ちにしてるようだ。
「それじゃ会場は此処?」
「これから案内するとこやで娘伯」
拝殿の脇には稲荷大社の深部へ続く道がある。
千本鳥居を抜けさらに進むと地図には無い道を歩き出した和泉。
「大丈夫なんですか?」
「小百合に頼まれてやってんやから心配せんで」
肝心の小百合は会場の準備で忙しいと和泉は言う。
木々を抜け明らかに道では無い所を進む一行。
当然周りに観光客は居ない。
側から見れば遭難した者だ。
「本当に…大丈夫か?」
自然の地を歩き慣れたアイサは念を押すように訊ねる。
「そろそろや」
木々が規則的に並んでいる。
まっすぐ何処かへ導くような木の道を一行は進む。
「よし!到着や!」
視界が晴れると巨大な建物が不釣り合いに鎮座していた。
「大きい…武道館みたい」
青井は声を漏らす。
森の中にそれほどの建物が建っているのだ。
「此処は稲荷大社が管理する特別な場所…まぁでかい稽古場みたいなもんや」
入り口付近には数人の巫女がおり開催までの暇を持て余している。
門構えの入り口へ入ると受付と書かれた机に巫女が立っていた。
「お待ちしておりました…遠方からのご足労お疲れ様です」
受付の巫女が説明をし書類への記入を促す。
「ありがとうございます…会場はあちらです」
「それで…此処で何をするの?」
「まずは小百合に会ってからやで娘伯」
長い廊下を進むと照明で照らされた会場に一行は息を呑む。
バレーボールコート2面分の広さの修練場だ。
少し高い位置に観客席も設けられている。
中心の方で他の巫女に指示を出す小百合を見つける。
準備に追われる中でも小百合は一行に気付くと喜びに満ちた顔で駆け寄った。




