【31】関西御前試合〜序〜
「おーい!」
年の瀬が近づいてきた清天神社。
「おーい!」
世間で言えば冬休み。
「おーい!」
今日は珍しく椿鬼が神社に帰ってきた。
「誰かおらぬかー!」
境内には誰も居ない。
鳥居の前でポツンと椿鬼は立ち往生している。
理由は簡単だ、
清天神社に結界が貼られているからである。
「いつもなら風花やら青井が出てくる頃なんじゃが…」
社務所には誰か居るようで話し声は聞こえる。
「仕方ないの…」
手土産を側に置き椿鬼は構える。
「うらぁ!」
石段目掛けて拳を振り下ろした。
当然石段にはヒビが入り衝撃で周囲は揺れる。
「何事ですか!」
社務所から慌てた様子の巫女が三人現れた。
どれも椿鬼は会った事が無い者だ。
「うそ!妖怪!」「こんな真っ昼間に!」「なんだかちんちくりんな姿ね!」
「うお!?なんじゃ御主ら…妖滅巫女の新入りか?」
いまいち状況を理解できない椿鬼。
「妖怪を此処に入れてはいけないのです!」「さっさと巣へ帰りなさい!」「今なら痛い目を遭わずに済みますよ!」
特徴の無い巫女がそれぞれ武具を構え椿鬼と対峙する。
一触即発な態度に椿鬼は頭を掻いてしまう。
「うへぇ…なんなんじゃこれ…」
勝手に臨戦態勢を取られる最中に社務所から元斎が出てきた。
「全く何の騒ぎだ…」
見知らぬ巫女にも動じない様子から事情は知っているらしい。
「何のとはこっちのセリフじゃ!」
「あぁ椿鬼か…すまないが彼女は無害の妖怪だ」
元斎は巫女に椿鬼の事情を説明する。
納得はしてないが一人が御札を取り出した。
「居候とは言え信用してませんから」
結界除けの御札を椿鬼の方へ投げ捨てる。
「なんじゃこの扱い」
渋々御札を受け取り椿鬼は鳥居をくぐった。
迂闊に動けば袋叩きにされそうな程に巫女の視線は鋭い。
「色々聞きたい事はあるんじゃが…まず娘伯達はどうしたんじゃ?」
「娘伯達なら今頃は京都に着いてるだろう」
元斎の返答に椿鬼は首を傾げる。
「なんでじゃ?」
「それは私達から説明しましょう」
巫女の一人がこれまでの経緯を話す。
京都は稲荷大社にて毎年恒例の催しが開かれるようだ。
今回は関東の妖滅巫女、つまり娘伯、青井、風花、
東北巫女のアイサとアイカも招待された。
都会の妖滅巫女不在を狙って妖怪が仕掛けてくる可能性がある。
「そこで私達稲荷の妖滅巫女が都会守護の大役を務める事になったのよ!」
「そうか…じゃあ土産は一人で食べるかのう」
素っ気ない態度に稲荷の巫女は気分が削がれる。
「待ちなさい!」
「御主らでは美味い肴になりそうにないからの…元斎!飯を用意してくれ!」
「全く人使いが荒いな」
言いつつも元斎は社務所へ戻り椿鬼も続こうとする。
しかし巫女は総出で椿鬼の帯を引き行手を阻む。
「そ…その包みは何!」
「土産じゃよ!儂が焼いた焼き鳥じゃ文句あるか!」
焼き鳥と知って巫女のお腹は正直に鳴る。
「ふぅん?御主らもしや腹を空かせておるな?」
「べ…別にそんな事は…」
鬼の戯言に巫女は顔を赤くした。
妖滅巫女が妖怪の手土産を頂くなど持っての他だ。
「儂の盃に付き合ってくれるなら味見しても良いぞ?」
「鬼の酒など」「…食べたい」「あ!裏切り者!」
巫女の一人が食欲に負けたので椿鬼はどっと笑う。
「正直者は大好きじゃ!ほれさっさと行くぞ」
椿鬼は巫女三人を引きながら社務所へ入っていった……。




