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巫女乃禄  作者: 若猫老狐
白と黒
124/182

別れと言わず (3)

ほろあま庵を出てしばらく。

日も傾きかける時刻に娘伯は勝一のアパートへ来ていた。

呼び鈴を何度か押すが応答は無い。

『中の様子を見てくる?』

壁を通り抜ける事などツクヨミなら造作も無い。

しかし雰囲気からして留守にしてる事は分かりきっていた。


「別にいい……私の馬鹿」

珍しく自分に悪態を放ち娘伯は帰路へ向かってしまう。

胸の内に残った何かを知りたくて訪ねたのだ。

結局その正体は解らない、

ならば捨てていつも通りに振る舞えばいい。

娘伯は割り切って清天神社へ帰るのだった……。



夜が明け都会の大通りを一台の車が走る。

運転しているのは妖滅連合の遣い。

彼の正体は烏天狗の九之助、

その目は見えず代わりに上空を飛ぶ烏と情報伝達して危なげなく運転していた。

『私も多くの者を見てきましたが貴方のような存在は初めてですよ…』


後部座席に乗るクロは虚に外の景色を見つめている。

妖滅連合での検査を終えこれから清天神社へ向かう道中だ。

『貴方には娘伯様と似たような力を持っている…貴方が望むなら人助けの道を示してあげられるでしょう』

「…ひとだすけ?」


この日初めてクロは遣いへ視線を向けた。

『力とは身についた物…それが弱くても受け入れるしかない』

「ちから…クロのちからって…つよいの?」

『そうです…強い力を受け入れれば後は意思が強さになります』

「つよさ…クロには…わからない」


童を相手してるようで遣いは少し頭を悩ませる。

妖滅連合は彼女の扱いを清天神社に一任すると決定した。

しかし先の一件でクロは清天神社の面々を拒絶してしまう。

せめて手助けをと色々と言葉を紡いだが無意味に終わりそうだ。


『今貴方は…誰の為に力を使いますか』

じっと手を見つめるクロ。

その答えが出る前に事態は急変した。

烏からの報告で遣いは車を加速させる。

『掴まっていてください!』

公道で制限速度オーバーに信号無視、

ありったけの迷惑をかけるが余裕は無い。


「……あれは!」

クロは窓から何かを見つけたようだ。

それは遣いの車とほぼ同じ速度で追っている。

『やはり追手が現れましたか…此処では被害が出てしまう』

追手の目的はクロの奪還、

人並外れた身体能力ならば妖怪の類だろう。


追手は一般車を追い抜きつつ徐々に距離を詰めていく。

遣いも振り切ろうと猛スピードで走らせる。

「……!」

後部を凝視しクロは確信する。

毛深く筋肉質な身体と狼の頭は確かに厄狼だ。

四つ足で追う姿はまさに狼。

『人気の無い場所…一番近いのはあそこでしょうか』

土地勘頼りに遣いは進路を決める。


時折厄狼が鋭い爪で車に襲いかかるも、

僅かなハンドル捌きで遣いは避ける。

そして熾烈な追走劇は河川敷へ至ると共に終わりを告げた。

厄狼が車を飛び越えボンネットを潰したのだ。

制御を失った遣いの車はふらふらと川原で停車する。

「っ……」


ドアの向こうで厄狼が覗き込んでいた。

思わずドアを開けようとするが、

『クロ様…此処で待っていてください』

冷たくも怒りに近い声にクロは怖気つく。

それを待ちきれず厄狼はドアへ手を掛ける。

しかし身体を吹き飛ばすほど突風に見舞われ距離を離されてしまった。


『大人しくクロ様を渡すわけにはいきませんので』

車から出た遣いは狐の面を取る。

一瞬の風で遣いは正体である烏天狗…九之助になった。

厄狼も目を見開き驚きを隠せないでいる。


いつの間にか錫杖を手にした山伏姿の烏天狗…九之助は静かに語る。

「貴方の事は伺ってます…厄狼ロナン…此処は素直にお引き取り願いませんか?」

車と厄狼の間に陣取り微動だにしない九之助。

厄狼も隙のない立ち姿に手を出せないでいた。


「貴方の目当ては彼女なのでしょう?」

視線をクロへ送ると彼女も不安の混じった表情で厄狼を見つめる。

「クロ様を手に入れれば貴方達は必ず戦いに駆り出す…しかし本当にそれが彼女の望む事でしょうか?」

厄狼の瞳が僅かに揺らぐ。


出来る事ならクロを戦わせたくないと思っているのかもしれない。

「私達の元ならば彼女に危害は加えません…だから」

九之助の言葉に対して地面を殴りつける厄狼。

正論を向けられようと彼はクロを取り戻すと既に誓っていた。

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