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巫女乃禄  作者: 若猫老狐
白と黒
122/182

【30】別れと言わず

昼の社務所は静寂に包まれていた。

青井や風花も今回ばかりは口が開けずに居る。

娘伯と元斎はただその者を見つめるだけだ。

「今まで…お世話になりました」

勝一は深く頭を下げてそう言った。


勝一が勤めを辞めると電話したのは一週間前。

翌日に改めて対談し元斎が説得を試みた。

しかし既に決意は固めていたのか、

「どうして今になって辞めるのだ?」

「此処では…俺は何も出来ませんから…」

勝一は退職を願いそして今に至る。


手続きも終わっており今更引き留める事も出来ない。

「これから行く当てはあるのか?」

荷造りも済み勝一の物は清天神社に何も無い。

「まぁなんとかなりますよ」

苦笑いで楽観的な返答をした。

「…勝一」


僅か沈黙に声を掛けたのは娘伯だ。

「どうした?」

「……今度…焼き鳥食べに行こう」

勝一も忘れかけていたただ一度の外食を娘伯は忘れていなかった。

少し頭を悩ませ答える勝一。

「そうだな…その時は椿鬼も一緒に」

「…約束」


娘伯はさよならと言わず個室へ逃げてしまった。

恥じらいか或いは別の感情か、

その表情を誰にも見せたくないようだ。

「青井…風花…二人も元気で」

「はい…ご苦労様でした」

「寂しくなったらいつでも戻ってきてくださいね!」

青井も風花も別れは告げない。

また明日会える学校の友達のような振る舞いに勝一も笑みをこぼす。


「それでは…」

「うむ…」

男同士の言葉はそれで十分だった。

社務所を出る勝一を青井と風花が見送る。

鳥居を前に会釈した勝一、

振り返ると石段をゆっくり下りて帰路へ向かうのだった。


『見送らなくていいのか娘伯?』

個室で座り込む娘伯に小さなツクヨミが問いかける。

「ん……私は気にしてないから」

『それにしては顔が暗いなぁ』

娘伯の周囲をぐるぐる回りツクヨミはあえて推測する。

『本当は…彼奴の事が好きだったとか』

「それは違う…でも…何故か胸が苦しい」


恋心など娘伯が知る由もない。

しかし何年も近くに居た者が居なくなれば、

今更になって思う事はあるようだ。

『それが別れだよ…僕も何度も経験してきた』

八百万ならその経験は一度や二度ではないだろう。

『でもこれは今生の別れじゃない…いつかまた会える』

「ん…」


少し軽くなった空気に合わせてか娘伯の腹がくぅと鳴る。

『気分転換にご飯でも食べれば?』

短く返事して娘伯は洋服に着替える。

初めは慣れない洋服だったが、

外出の際はわざわざ着るほどお気に入りになったようだ。

「伯父…今日は外でお昼食べてくる」

「そうか…気をつけてな」


社務所を出ると落ち込んだ二人が娘伯に気付く。

「これからお出かけですか?」

青井に訊かれて娘伯は頷く。

「ほろあま庵に行ってくる」

「あ!じゃあ私達も一緒に!」

「今日は…一人だけで行きたいから」

そう言うと娘伯は清天神社を出て行ってしまった。

理由が解らない風花と何となく察しがついた青井。


「うーん…じゃあ昼ごはんどうする?」

「たまにはコンビニで良いんじゃない」

出かける先が決まると御札から白虎が勝手に出てきた。

『外へ出るのか?ならば我を使え!』

「目立つからダメだって!」


『我らを召喚したまま外へ出るといい…良い鍛錬になるぞ』

玄武の言う通りにして青井と風花は他の四神を表に出す。

各々翼を広げたり身体を伸ばしたり窮屈な思いをしていたようだ。

「それじゃあ行ってきますから」

「白虎!拾い食いしたらダメだからね!」

『我は犬か?』


正直不安ではあるが巫女二人は四獣達を残してコンビニへ向かう。

その後異変を来したのは石段を下り切る頃だった……。

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