四獣共闘 (2)
突然の出来事に身構える事も出来ず娘伯達は社務所内で吹き飛ばされた。
「何で…妖力は無い筈なのに…ツクヨミ!」
『すまん寝てた!』
ツクヨミがやっと目を覚ましクロの異変を探る。
娘伯の頭の中で彼の声が響く。
『どうやら奴の妖力は点を中心に増幅してるみたいだ…どこかで妖術を受けたんじゃないか?』
心当たりがあるならば娘伯達が合流する前、
妖怪の攻撃によって一度は生き絶えた時だ。
「兎に角対処を…っ!?」
柱に立て掛けていた太刀を取ろうとするが、
鋭い風がかまいたちとなり娘伯との間を切り裂く。
壁に出来た傷に呆気取られた間にクロは社務所を飛び出す。
「クロ!待ってくれ!」
元斎の声にも聞く耳持たない。
『娘伯様…脅威となった以上手加減はしないでください』
遣いに促され娘伯は頷き太刀を持つ。
その瞳は覚悟を決めているようだ。
社務所を出るとクロは鳥居の方へ向かっていた。
くぐろうとした直前、妖気に反応して結界が発動する。
「がっ…!」
手を弾かれるが結界を押し通ろうと試みるクロ。
バチバチと手の平が焼けるが構わず力を込める。
「ぁ……しょういち!」
「クロ?…何してるんだ!?」
気鬱な表情で石段を登ってきた勝一が慌ててクロの前へ駆け寄る。
悩みに悩んでせめて別れを告げようと思っていた矢先の出来事。
結界越しに指が触れ合うが、
「勝一!下がって!」
クロの後ろから聞こえた声で一歩退いてしまう。
「娘伯や!待て!」
遅れて社務所から出た元斎が叫ぶ。
「クロ…ぁ」
それは一瞬の出来事。
娘伯の太刀はクロの胴を両断したのだ。
クロの瞳から輝きが消えぐらりと地へ落ちていく。
ぐしゃりと倒れたクロを勝一は呆然と見下ろしていた。
「ぁ…あぁ…クロ!」
勝一は震えた声で膝をつく。
「娘伯や…何故躊躇わない…」
迷いのない彼女の行動に元斎も肩を落としてしまう。
「何でだよ!何で…クロを殺した!」
「クロは妖気を放ってた…危険な妖怪を見逃せと?」
淡々と鞘へ太刀を納めると娘伯は問いかける。
「クロは人間だろ…!それをお前は!」
『私の依頼に彼女は従ったのです…責めるなら私を殴ればいい』
遣いが座り込む勝一へ近づき顔を寄せる。
スーツの襟を掴んだが虚しいだけと悟り勝一は手を放す。
『骸は私達が回収します…後の事は…む?」
遣いが気配を感じ口を止めた。
この上ない違和感はクロの死体から溢れている。
「まさか…」
クロの身体から黒いモヤが現れ彼女を覆う。
一行が距離を置き僅か十秒ほど、
モヤが晴れクロの身体は斬られる前の状態に戻っていた。
「どういう事だ…これは…」
元斎も唖然とし事態を飲み込めない。
それを蘇生と呼ぶには禍々しい光景だった。
「ぅ……ぁ……」
目を覚ましてクロは何事もなく起き上がる。
「クロ…は…なにをして…」
勝一は3度目の蘇生を目の当たりにしどう言葉を返せばいいか分からなかった。
『こいつの妖力が消え去ってる…また空っぽになった…どうなってる?』
およそ八百万でも理解出来ない事象。
いの一番に行動を起こしたのは娘伯だ。
クロの手を引き遣いの前へ差し出す。
「後は任せる」
『任されました』
きょとんとした瞳でクロは遣いに促され鳥居をくぐる。
結界は発動されずそのまま石段へ向かう。
待ってくれと言いかけたが勝一は声に詰まりその名を呼ぶ。
「クロ!」
クロは振り向く。
「また一緒に暮らせるよな…?」
「ん…やくそく…」
子供のような笑顔を見せクロは遣いと共に石段を降りていく。
見送りが終わり娘伯は深いため息を吐いた。
「伯父…ちょっと寝てくる」
今までクロを監視してた疲れが一気に押し寄せたようだ。
「そうか…苦労をかけたな…」
元斎も名残惜しい様子だが涙ぐむ勝一を慰める。
「あまり彼女の事は気にするな…」
「……はい」
二人ともそれ以上の言葉が出る事は無かった……。




