【28】巡る戦い
「ただいまクロ!」
勝一は社務所での杞憂を吹き飛ばすように元気よく帰宅を告げた。
部屋の明かりは点いているがクロは相変わらず外の景色を眺めてるだけだ。
「ぁ…おかえり」
「何か見えるか?」
見つめる先には三日月が空に輝く。
一緒にそれを見るクロの横顔に勝一はふと呟く。
「娘伯もこれくらい可愛げがあればな…」
「ん…なにか…言った?」
振り向く姿が娘伯と重なり思わず驚く。
「いや…なんでもない…腹は減ったか?」
「別に…だいじょうぶ」
何かしなければクロずっと空を見てるだろう、
考えを巡らせ勝一は冷たい手を握った。
「せっかくだし外へ出かけよう」
目的の場所は無く住宅街をただ歩く。
離れてしまうのが心配なのかクロは骸のような白い手で懸命に握る。
「此処は…しずか…とてもすき」
「そうか?俺は騒がしい所だと思うけど」
車の音や人の声、それらはいつもの都会と変わりない。
しかしクロにとって耳障りな音が無いのか心地よい笑みで勝一についていく。
「ずっと…いっしょがいい」
クロの思いは伝わってくる。
無垢な瞳に見つめられ勝一は冷や汗をかいた。
「いやでも…ずっとは…」
クロの素性は分からない、
故にこんな事を長く続けていくのは勝一には忍びない。
「俺も一緒に居たい」
それでも彼女が喜ぶならと彼は嘘をついた……。
「……居ない」
呼び鈴を連打するが反応が無い。
娘伯達は最悪の事態に見舞われた。
「携帯も留守電…まさか雲隠れ?」
「勝一さんに限ってそんな事ないでしょ」
青井が通話を試みた勝一の携帯電話は部屋にある。
「クロも勝一も何処へ…」
不機嫌になりながらも娘伯は策を練る。
「ぁ…式神に頼ってみませんか?」
今ならば金魚型と四獣も加わっている。
広い都会でも捜索に当てれば手間は省けるだろう。
「分かった…二人ともお願い」
「「はい!」」
御札に霊力を込めて四獣と式神を召喚する。
激しい衝撃音と共に煙が晴れると四獣達は勇猛な姿を現した。
「ぇ……」「…ちっちゃい」
マスコットのような四獣の大きさは金魚と変わらないほど。
唖然としていると青龍が解説する。
『ふむ…どうやら力が混ざっていないようだ』
『これでは戦闘に加勢する事は難い』
呆れながら朱雀も言葉を加える。
「とりあえず勝一さんを探してください」
風花の頼みに玄武は脚を動かす。
『やれやれ仕方ないな…何かあれば札から声をかける』
玄武の足場から水が湧き氷面を疾るように移動を始めた。
青龍と朱雀も散開し上空からの捜索を試みる。
そして白虎は小さな身体で駆け出した。
『何人も邪魔はさせないぞ!』
意気込みとは反して人の駆け足と変わらない速さ、
眺めている風花は諦めて小さな白虎を抱える。
「流石にこの脚で都会を走るのは無茶でしょ…」
『本来の姿ならば…ぐぬぬ』
ぬいぐるみのような扱いに白虎は顔をしかめた。
「私達も二手に分かれて探しましょう」
「それじゃあ…私と青井で向こうを探す」
娘伯と青井、風花と白虎のペアで勝一探しを始める。
「見つけたら携帯で連絡してね風花」
「オッケー!」




