思わぬ再会 (7)
妖怪騒動から一夜が明け慌ただしくも娘伯は帰路の時間を向かえる。
「もっとゆっくりしていけばいいのに…」
「私もゆっくりしたい…でも妖怪は休ませてくれない」
家の前で娘伯と両親は別れを惜しむ。
玄関前では伊勢神宮の巫女が迎えの車と共に待っていた。
「都会でも頑張ってね」
「ん」
「風邪とか病気には気をつけてね」
「ん」
「たまには連絡してね」
「ん…必ずする」
「あとそれから」
口数の治らない母親を娘伯の方から抱きつく。
「ありがとう…」
照れ隠しか出てきた言葉はそれだけだった。
「あぁそうだ!せっかくだから一緒に写真を撮ろう」
「よろしければ私が撮りましょうか?」
「すいませんお願いします」
父のカメラを構え巫女は掛け声を言う。
家を背景に真ん中の娘伯へ寄り添う父と母。
娘伯の表情は恥ずかしながらも自然な笑み。
シャッター音が切られその姿は初めて記録に残った。
「いつでも待ってるからね…辛い時はたまに帰ってきなさいよ」
娘伯の方から抱きつき告げる。
「ん…それじゃあ…行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
車に乗りその姿が見えなくなるまで娘伯は両親を見続けた。
「良いひと時をお過ごし出来ましたか?」
「ん…」
巫女の問いに娘伯はただそれだけ答えた。
見送る父と母には涙が潤んでいた。
「元斎さんには感謝しきれないよ…僕達だけじゃあんな強い子に育たなかった」
「そうね…大きくなって…やっぱり泣いてしまいそう」
鼻をすする母を父は優しく宥めるのだった……。
「お見送りは此処まででよろしいのですか?」
改札前で巫女は訊ねる。
「ん…だいじょぶ」
「それではまたいつか…健闘をお祈り致します」
深く礼をすると娘伯は改札を通り一度だけ振り返る。
巫女は最後まで笑顔で見届けてくれた。
『伊勢は楽しかった娘伯ちゃん?』
「アマテラス様!」
何処からか現れ娘伯についていくアマテラス。
「今度は清天神社の…家族と一緒に来ます」
『そう…いつでも来てらっしゃい!』
お喋りも束の間に新幹線の発車時刻が迫る。
「えっと…ホームは…」
『きっとあれじゃないかしら』
アマテラスの助言で目的の新幹線に乗る事が出来た。
あと少しで新幹線は都会へ向けて出発する。
『ツクヨミによろしくね〜』
「はい…ありがとうございました!」
ドアが閉まり窓からアマテラスは手を振る。
娘伯の慌ただしい再会はこれで終えた。
『たまには私から会いに行こうかしらね…スサノオ』
もう一柱を想いながらアマテラスも伊勢神宮へと帰った……。
娘伯が清天神社へ戻ってきてしばらく。
都会に蔓延る妖怪が一つ消えた。
人気の無い公園で塵となったそれを見つめる者。
袴は紅く黒に染められた巫女装束。
赤白い髪は風に揺られながら何処か荒れた印象を受ける。
手に持つのは黒い太刀。
「おい…さっさと帰るぞ」
フードを被った少年が彼女に言う。
側には以津真天のそれと類似する仮面を着けた大男。
鼻は長く耳は尖っているまるで狼男だ。
「……」
まだ物足りないのか呼ばれた女は塵を眺める。
「八尾狐様がお待ちだ!早く!」
少年に手を取られ一行は夜の闇へ消える。
無表情で月を見つめる彼女の瞳は紅く輝いていた……。




