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巫女乃禄  作者: 若猫老狐
白と黒
103/182

思わぬ再会 (5)

今夜の夕食は和食が中心だ。

ご飯と味噌汁は元斎とのそれと変わらないが、

おかずにはサラダやとんかつなどあまり食べた事が無い物も並んでいる。

「「いただきます」」

声を揃えて娘伯達はご飯を口へ運ぶ。

「どう娘伯?」

「美味しい!」

瞳を輝かせ童心のように感想を述べる。


夕食は殆ど娘伯が平らげてしまったが両親は幸せそうな彼女を見れて満足している。

「ねぇ娘伯…少しだけ私達のわがままを聞いてくれる?」

「ん?なに?」

最後の一口を頬張り娘伯は訊ねる。

「娘伯が良ければなんだけど…此処で一緒に暮らす事は出来ないかな?」

「元斎さんにも相談しようと思ってるけど第一に娘伯の意見を尊重する」

あまりに酷だと娘伯は箸を置く。

家族と共に暮らすか都会へ帰るか、

結論を出すには急過ぎる話だ。


「私も…お母さんとお父さんと一緒に暮らしたい…でも」

妖怪退治の使命から逃げる事ではないだろうか。

こんな葛藤は初めてだと娘伯は胸を傷める。

「私は都会から離れるわけにはいかない」

「それは…仕事のせい?」

「ん…妖怪退治」

夢物語だと思っていた両親は娘からの言葉で現実を知る。


「それは娘伯にしか出来ない仕事なの?誰かが代わりにやってくれないの?」

「母さん落ち着いて」

宥めようとする父に対し母は涙をこぼしていた。

子を守りたいわがままを我慢できる筈がない。

「都会には家族…仲間が居る…でも二人だけじゃ守りきれない」

例え何十人の妖滅巫女が都会に居たとしても娘伯はその使命を下ろす事はない。


「大事な一人娘をそんな事で危険に晒したくないの…お願い…普通に生きる事を選んで」

「父さん達も話しか聞いてないから娘伯の仕事はよく分からないんだ…どれほど危ないのかも…」

「危険な事は私が一番知ってる…でも今更ただの人間には戻れない…」

神を宿してしまった故の使命が娘伯の意思を確固たるものにする。

家族の懇願であっても止まるわけにはいかない。


「ごちそうさま…少し外に出てる」

娘伯は半ば逃げるように食卓から離れる。

「もっと側に居てやりたい気持ちは分かるけど…娘伯の事は見守るしかないよ」

「でも…でも…」

娘伯を追う事なく両親は拭いきれない後悔を味わうだけだった……。



そよ風が吹き夜の静けさを味わう娘伯。

住宅街を歩くとふわふわとアマテラスが寄ってきた。

『一人でお散歩なんて寂しくない?』

「アマテラス様…」

落ち込んだ姿を見かねてアマテラスは娘伯の頬に触れる。

『ふーん…悩んでるんだ』

全て見通されて娘伯はため息を落とす。

「伯父以外に家族は居ない…筈だったのに…」

本当の家族を知り娘伯は改めて何をするのが正解か悩んでいる。


『血の繋がりがある者なら誰だって心配はするものよ』

永くを生きてきたアマテラスの表情はどこか悲しげだ。

『誰でも怒ってしまうような事をしでかして私は思わず追放してしまったわ…ほんとロクでもない弟…』

「それは…ツクヨミ?」

『違うわよ!スサノオって言う筋肉馬鹿!今は離れた所に棲んでるけれど…』

余程手を焼いているのだろう、

そのため息は今までで一番の重さを放っていた。


『まぁでもそんなダメな弟でも身を案じてしまうのよね…もちろんツクヨミの事も』

娘伯の手を握りながらアマテラスは弟の事を想う。

『いつか娘伯ちゃんも親の心が分かる時が来る…それまでは子供のようにわがままでいても大丈夫よ』

「アマテラス様…」

今は自分のやりたい事を選べばいい、

両親もきっと理解してくれるだろう。

改めて自分の気持ちを伝える為に娘伯は両親の家へ戻ろうと思った。


しかし平和を打ち破るように何処かで爆発音が響いた。

アマテラスは自身の地に何が訪れたのかを察する。

『結界を超えて妖怪が来たようね…』

御札を介したそれとは違いアマテラスの結界は妖怪に暗示を掛け阻むだけのもの。

自我の無い妖怪ならば結界は意味を成さないのだ。

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