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巫女乃禄  作者: 若猫老狐
白と黒
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思わぬ再会 (4)

「あぁ……やっと会えた…娘伯!」

目を丸くして娘伯は反応に困った。

自らの名を呼ぶ女性は間違いなく母親なのだ。

「おかあ…さん…」

あらゆる感情が混ざってそう呟く娘伯。

直接見る事は出来ないが母は確かに泣いていた。


遅れて玄関から物腰柔らかな男性が現れる。

眼鏡をかけて父親はその光景に半信半疑であった。

「本当に娘伯が帰ってきたのか?」

「おとう…さん?」

「娘伯…おかえりなさい」

優しい言葉をかけられ娘伯は自然と涙が溢れる。


「とりあえず家にあがりなさい…こら母さん娘伯が苦しそうだよ」

「だって!この時をどれだけ待ってたか!」

気持ちは娘伯にも痛いほど伝わってくる。

流石にむせてしまい母親は娘伯を解放した……。



家の居間にて娘伯は改めて両親と対面する。

まだ実感は湧かないが確かに娘伯の両親である。

「元斎さんに預けてもらった時は少し不安だったけれど…もうすっかり大人ね」

「…ん」

「都会ではうまくやってるかい?」

「…ん」

質問をまくし立てられ娘伯は素っ気ない返事を続ける。

その様子を察してか両親は一旦深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


「良ければこれまで何があったか話してくれない?」

「娘伯の口から聞きたいんだ」

両親からの提案に娘伯は口下手だが元斎に引き取られてからの事を話す。

一生を語るにはあまりに長い時間だったが両親は時折相槌をうって話を聞いてくれる。

元斎には妖怪退治の全てを教わった。

幼い頃には一人で雪山へ赴き妖怪と戦った。

そして二十一歳を迎えてしばらく経ち青井と風花に出会う。

二人は娘伯と並ぶ妖滅巫女へ成長し、

時には妖怪と協力し騒動を解決してきた。

そして黒幕と対峙した際に娘伯はツクヨミを覚醒させたのだ。


ここまで生きてこれたのは元斎の手助けだけでは無い。

数多の出会いが娘伯を変え今の彼女を作り上げている。

しかし事の始まりが無ければ娘伯の現在は大きく変わっていただろう。

「伯父から本当の事を言われるまで親の事とかよく分からなかった」

本当は生きていた、

今まで娘伯の事を心配していた、

真実を知って実際に再会し今は幸せを感じている。


「父さん達はあの時訳も分からず娘伯を元斎さんに委ねてしまった…逃げてしまったんだよ?」

「それでも…お父さんはお父さん」

「私達を親と言ってくれるの?」

「ん…お母さん」

その呼び方を娘伯は迷いなく言えた。

心身ともに大人となった姿に両親は涙ぐむ。

「ありがとう…娘伯!」

「娘伯は自慢の娘だよ」


話は長く続き夕暮れを迎えてきた。

そろそろお腹も空いてきた時刻で母親は台所へ向かう。

「ぁ…私も手伝う」

「ありがとう…でも気持ちだけ受け取っておくわね」

長旅で疲れてる娘伯を案じてか寛ぐよう母親は促す。

仕方なく娘伯は縁側へ。

小さな庭は様々な植木が置かれ季節の彩りを感じさせる。


そしてそよ風は思わぬ来客を連れてきた。

『家族とのひと時…楽しんでいらっしゃいますか?』

スーツ姿に狐の仮面、

妖滅連合の遣いはいつの間にか庭で立っていた。

「びっくりした…どうして此処に…」

『驚かせてしまい申し訳ありません…実は元斎様から娘伯様の様子を伺うよう頼まれまして』

水を差す行いに娘伯は不機嫌になる。


「私は大丈夫…早く帰って」

『そうですか…でも帰還の前に忠告を』

わざとらしい咳払いの後に遣いは話を続ける。

『娘伯様を狙う妖怪が迫っております…都会からわざわざ伊勢までよほど娘伯様に好意を抱いてるようです』

そんな妖怪が居たかと娘伯は首を傾げる。

『今夜中にはこの地へ辿り着くかと…準備は怠らないようお気をつけて』


それを最後に遣いはそよ風と共に消えてしまう。

「娘伯?ご飯が出来たよ」

代わりに父親が夕飯の刻を告げに現れる。

「…ん…お腹空いた」

何でもないような顔で娘伯は食卓へと向かった……。

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