思わぬ再会 (2)
『だーれだ!』
「ひゃあ!?」
目を隠されて娘伯は可愛らしい悲鳴をあげた。
その後に手の主は娘伯を抱きとめる。
『久しぶりね娘伯ちゃん!』
「ぅ…ぇ……えっと…」
どこかで聞いた声に記憶を巡らせる。
まだ関東合同訓練が始まる前だったか、
「ぁ…アマテラス…さま!?」
銭湯帰りの娘伯達が出会った謎の女性、
後にツクヨミが紹介したアマテラスその者である。
『相変わらず可愛いわね〜御伊勢へようこそ娘伯ちゃん!』
「待ち合わせの方って…アマテラス様ですか…?」
状況の読めない娘伯は困惑の表情で訊ねる。
『私以外に誰か居ると思った?それとも家族の方かしら?』
「神社で待ち合わせという事は此処がアマテラス様の祀られている所なのですか?」
伊勢神宮の祭神に疎い娘伯へアマテラスはため息を返す。
『もう少し八百万について勉強した方がいいわよ?』
「も…申し訳ありません…」
畏まって謝る娘伯。
アマテラスは待遇に気に入らないのかまたもため息を吐いた。
『私の弟を宿してるんだからそんなに恐縮しないで…ぁ…今はツクヨミは居なかったわね』
「そう…です……それで用事とは…」
まだ緊張のほぐれていない娘伯にアマテラスは抱きついた。
大きな胸は嫌が応にも重なり合う。
『ふふふ…実は会いたかっただけ〜』
まるでどこにでも居る女子のような態度。
これならば断って家族の元へ向かうべきだったと娘伯は後悔する。
『でもせっかくだから…遊ばない?』
アマテラスの言葉は理解できなかった。
しかし真意を問う前に娘伯の体はアマテラスによって乗っ取られてしまった。
『なるほどねぇ…これが人の体…』
感触を確かめてその場でくるりと回る。
「あの!私の身体で勝手に遊ばな…わ!」
『ちょっと借りるだけよ!此処は少し退屈してしまうから!』
身体を操ってアマテラスは巫女の待つ駐車場へ向かう。
意識はあっても娘伯自身は主導権を取り戻す事が出来ない。
『弟を長く宿してるから現人神として憑依が上手くいくみたいね!』
「もう…やめ…あ!」
そうこうしてる内に巫女の元へ戻ってしまった。
「おかえりなさいませ…?もう御用事は済みましたか?」
「まっ…」『もちろんよ!それより私…お腹が空いてしまったわ』
雰囲気がおかしいと思う巫女だがそれなら近くの街へ案内しましょうと車へ促す。
かくして娘伯はアマテラスを宿したまま伊勢神宮を出てしまった。
住まいである伊勢神宮が遠のきアマテラスは心を躍らせた。
伊勢を抜け出した事は二度三度の事ではない。
あって無いような門限さえ守ればアマテラスは気楽にも外へ出かけている。
それを知る者は限られた八百万と人間だけだ。
「あまり詮索はするなと言われておりますが…伊勢神宮で何をしたのでしょう?」
運転している巫女もその事情を知らない数多の一つ。
「あの」『知り合いに会った…それだけよ』
娘伯の言葉を遮り彼女の口で喋るアマテラス。
バックミラー越しでも巫女は別人のように話す娘伯を疑問に思う。
そして車は伊勢神宮から少し離れた街へ到着した。
やっと見つけた空きのパーキングエリアへ停めてエンジンを切るより早くアマテラスは飛び出す。
「此処でしたらおすすめの…あ!ちょっと待って下さい!」
『ご飯を済ませたら戻ってくるわ!貴方も好きなの食べなさい〜』
そう言ってアマテラスは人混みへ消えてしまった。
先程の憂いな表情だった彼女を何が変えたのか、
巫女はため息を残し飲食店へ向かった。




