暴れ蜘蛛 (5)
「終わった…勝ったぁ!」
姿を無くした暴れ蜘蛛を確認し風花はバンザイする。
「はぁ…一時はどうなるかと思ったけど」
「2人で戦えばなんとなる!」
満面の笑みで青井にピースサインを送る風花。
「でも何だったんだろう…誰かが助けてくれたのかな?」
「まさか椿鬼さんとか?まっさかー」
繊細な手先など持ち合わせていないであろう椿鬼があんな器用な事は出来ないと青井は思う。
「あ!早く神社に戻って娘伯さんの様子を見に行こう!」
「待ってよ風花」
青井と風花が去った後。
暴れ蜘蛛の骸があった場所にはいつの間にか光の玉が現れていた。
長身の女性は片手で掴み笑みを浮かべる。
追って小柄な男女が青井達が去っていった方を見つめる。
「ハル!わざわざ助けなくてもいいじゃん」
「解ってるよヒセ…でも私達の仕事は人を守り悪妖を懲らしめる事でしょ」
口喧嘩が始まりそうなので長身の女性が掌で遮る。
「そうだね私達の務めは困ってる奴を助ける事」
光の玉を握りしめると光は女性の身体へ吸収される。
「だけどこの時代の人間があそこまで妖怪と戦えるとは思ってなかった」
「姉上の力を隠し持ってるのは誰の仕業でしょう?」
「さぁね…でも私の力を利用するなら中々の手練れだろうさ」
そう言うと女性はくるりと向きを変え歩き出す。
「さぁ帰るよ!今度椿鬼に一杯奢ってもらわないとね!」
双子も女性について行く。
その女性の背から新たに狐の尻尾が生え計7本となった……。
「「娘伯さん!」」
社務所に駆け込み同時に叫んだ。
青井達の視線の先は体を起こしてる娘伯に集中する。
「どうやら無事に討滅できたようだな…娘伯も元に戻ってくれたよ」
まだぼんやりとした様子の娘伯に代わり元斎が感謝を述べる。
「ほら娘伯や頑張ってくれた2人に言う事はないか?」
一瞬苦い顔を見せるが笑みを見せ深々と頭を下げる娘伯。
「今回は私の失態…2人に危険な思いをさせてごめんなさい」
「いいですよ私達は五体満足で戻ってこれたし!」
しかし娘伯の顔は優れない。
「勝一にも後で謝らなくちゃ…私が感情に流されるなんて…」
「怒ってる娘伯さんは怖かったなぁ…でも娘伯さんの本音を見れてちょっと嬉しいです」
風花の言葉に娘伯は目を丸くした。
「ど…どうして?」
「怒るのって凄く難しい事じゃないですか
娘伯さんにも思い隠してる事があるんだなって」
今まで気にしてすらいなかった自分の思い。
「だから次は妖怪のせいじゃなくて自分の意思で気持ちを伝えたらいいんじゃないですか?」
何か大事な話をされてるようで解らず首を傾げる娘伯。
「ぇ…娘伯さんと勝一さんって付き合ってるんじゃ…」
「何変な勘違いしてるの風花…」
驚く風花と呆れる青井。
「そんな訳ある筈がない…だろう娘伯や?」
頷く娘伯にこれは線無しだなと改めて思う青井。
「あの元斎さん…次は無いと思いますけど…風花を妖怪退治に行かせるなら私も一緒にお願いします」
娘伯の恋話にガッカリする風花を他所に青井は元斎にそっと耳打ちする。
暴れ蜘蛛との戦いで青井はやはり風花を一人にさせる訳にいかないと思った。
「今回は緊急故に仕方のない事だ…しかしいずれ娘伯一人では依頼をこなせない事もあるだろう」
昼間の娘伯の力は夜と比べて人並みにしかないのだ。
「……娘伯を支えてくれ」
老いという限界に晒される元斎にとってその言葉は本望である。
いずれまた危険な目に遭うだろうと青井は密かに決意した……。




