木枯らし×居酒屋+似た者同士
「聞いてくれ!」
とある居酒屋の個室で勢いよくジョッキが机のノックし、注がれていたビールが白波を立てて揺れる。個室であり、叫ぶまでの音量とはいかないため、周りに迷惑はかけるほどではないが、隣の彼は若干煩そうに眉を寄せながら運ばれてきた枝豆を頬張り、皿へとその緑を増やしていた。
「んで、今回はどうしたんだ?」
「最近寒くなってきたのか、女性陣がそろってカーディガンやら膝掛けをもってきてただろ」
「ああ。俺んところも寒い寒いって、昨年買ったブランケットとか引っ張り出してたな」
「休憩のときにコーヒーを買おうとしたが、ココアと間違えたからそれをあげた」
「・・・んで?」
「そのときにブラウスの上から紺のカーディガンを羽織ってたんだが、袖が長めで、かすかに見える指先からココアの缶を温かそうに両手で添えて上目づかいでありがとうございます、だぞ。鼻血が出るかと思ったわ!」
「鼻血を出した瞬間、お前の変態性が広まるな」
またか、と言うように白々しい口調で流す彼だが、ヒートアップする変態―――、失礼、彼には関係ないのか、はたまた慣れているのか掛け合いは淡々と続く。
そして、同じ居酒屋のまた別室では違う一組が陣取っていた。
「どうしよう、やばい!」
「何が?」
「トキメキが止まらないの。何で飲み物一つでここまで嬉しいんだろう」
「それは、好きだからじゃ―――」
「やめて、それ以上言わないで。ここで告白紛いなことしちゃったら気絶しちゃう」
「救急車呼ぶの面倒くさいから止めるわ、会話も」
「それはやめないで。私の甘酸っぱい胸の内を聞いてよ」
「それは会話とは言わない」
女子二人で盛りがあっていると言いたいが、片方が語り、もう片方はワインを手にチーズをつまんでいた。どこかで見た光景だが、男性より女性の方が長く席についているせいか机に並べられた酒の量は明らかに傾いていた。
「「何で、彼女(彼)は可愛い(カッコいい)んだろうか(だろう)」」
「「十中八九、フィルターだろうな」」
似た者同士、似た組み合わせのせいか同じような話の展開は続き、見事な酔っ払いを製造した。女性陣のほうは世話役がタクシーを呼び、友人を帰らせたが、男性陣は千鳥足の彼をそのまま帰らせた。示し合わせたように鉢合わせにならないベストタイミングで、だ。
「・・・彼、そのまま帰らせて大丈夫なの?」
「知らん。前に公園の遊具に愛を語っていたが、面白いからそのままにした」
「相変わらず、冷たいわね」
タクシーに乗った友人を見届けた彼女は彼を呆れた、というように見つめた。しかし、慣れたものか、同じように去っていく男を眺める。所詮似た者同士だ。
「それにしても、いつになったらくっつくのかしら。傍から見ていて面白いけど、こっちの部署は最初は面白がってたけど、今では温かい目でみんな見てるわ。部長が泣いてたけど」
「こっちも似たようなもんだ。最初は冷やかしてたが、段々と煮え切れなさと憐れみが大半になってきた」
「初心だもんね。よくあの子は気づかないわ」
「そっちも対外だがな」
クスクスと笑う彼らも、ゆっくりと歩き出した。夜空は暗いが、居酒屋通りなのでまだ軒を連ねる店から漏れる光が道を朧げに照らしていた。秋独特の木枯らしが吹き、女性は少し身をすくめた。
「うー、やっぱり寒いわね」
「もう少し厚着したらどうだ。この前、ブランケットと一緒に色々出してただろ」
「急に女子会になっちゃったから、用意してなかったのよ」
「そう思った」
言葉を切って、カバンを探ると黒一色のネックウォーマーが出てきた。意外というように女性は目を丸くするが、次第に笑みをこぼし始めた。
「それ、去年失くしたっていってたやつじゃないの」
「ああ、そう思ってたけど、出張用のカバンの方に入っててな。整理したら出てきたんだ」
「なるほどね。・・・洗濯した?」
「発見した瞬間、洗ったさ。どうせ使うからな」
女性の首に通して位置を調整すると、嬉しそうに目を細めて礼を言った。ふと、今日の酔っ払いを変態といったが、他人事ではないかもなと男性は苦笑すると、女性は気分を害したように唇を寄せた。
「男もんだし、似合わないって言いたいの?」
「別にそんなんじゃない。たださ」
「ただ?」
「俺らも人のこと言えないなって思ってさ」
それに女性はそうかもね、と笑いながら男の手を引いた。秋風に吹かれ、寒い寒いという彼女の手を次は男性が引っ張り、家路を急いだ。
これ、視点別やら時間経過でやったら面白そうとか思いましたが、気が向いたら増えます。