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壁の中から  作者: tom
3/10

泥酔女性の戯れ

第三話目突入です。


『あっれー?君達、昼間面接会に来てた子達よね~?』

今度は違う声が俺たちを呼び止めた。

クリーム色の髪をふわっと肩まで伸ばした女性が頬杖をつきカウンター席に座っている。グレーのスーツパンツに胸元の開いたブラウスで世間慣れしてそうな雰囲気の年上の女性‥‥そんな印象だ。


『は、はあ‥‥そうですけど‥‥』

『えー?私の事覚えてくれてないのー?ほら、ちょっと遅刻してきた女の子居たでしょ?それ、私。君達と同じ就活生でーす』

女性はビール瓶片手にグラスに勢い良く注ぐ。


俺と優人は再び顔を見合わせる。

『あー、今酔っぱらいだと思ったでしょ?失礼ね~はやくこっち来なよ~。お店の人困らせちゃダメだよ~?』


俺と優人は厄介なのに絡まれたなと目で合図した。

『ああ、そうだったんですか?全く気がつきませんでした。』俺が答えると付け足すように優人も

『私も全く‥‥』と続けた。


すると女性は『堅苦しい口調はやめてよ〜?私、こう見えても産まれてホヤホヤの二十歳なんだからねーあっホヤホヤでもないか、ブッ‥‥クスクス』


この人独りで笑ってるよ‥‥。


ふにゃっとした顔を俺等に向けた女性に促されるまま仕方なく隣に座った。


『って、二十歳?!』俺と優人は驚きを隠せなかった。


女性はまた独りでクスクス笑い出し『そー。せいかーい!なんで分かったの?!』

と浮かれたように騒いだ。


なんでって‥‥さっき自分で言ってたじゃんとツッコミたくなったが、相手はビール瓶二本目のダルマのように赤い人だと黙認した。


『あやちゃーん、ちょっと飲み過ぎなんじゃなーい?若様達に残りあげちゃいなさいよ?』オカマ店員が口をはさんできた。


ていうか今俺等のこと若様って呼んだのか?


『もー、まさちゃんは黙ってて〜あとでブランドのバッグあげるね?』


『えー!!ホントにー?あやちゃんそれホント?!』


『も〜まさちゃんってホント単純だね〜?』


なんと言ったら良いのだろう‥‥そんなやりとりを前に新鮮だと密かに思ったのは俺だけじゃないはず。なにせオカマとこうして会うのは初めてだし、何より同い年とは思えない泥酔した少し変わった女の子がオカマと女子トークを繰り広げているからだ。




 



 肉じゃがと焼き鳥を注文し、箸を動かす。

それから女性の身の上話を30分は聞かされた。まず彼女は今までお水の仕事をしていたらしい。しかし、人間関係で問題を起こして辞めざるをえなくなりこの際だから普通の就職をしてみようということになったそうだ。

どおりであか抜けた雰囲気をしている訳だ。

『疲れるのよねー、人間相手にするのって‥‥まあコツさえ分かっちゃえば楽っちゃ楽なんだけど』あくびをしながら今にも寝てしまいそうだ‥‥。


『まあ、もし就職したらよろしくね~』軽い調子で女性は挨拶し駅で別れた。


『なあ、あの子名前なんつうんだろうな?』優人がぽつりと言った。

そういえば、お互い名前を名乗っていなかったっけ‥‥。

まあ、その場限りの関係で終わるだろうけど。俺はそう思っていた。



 二週間後、通知が届いた。

俺等は無事採用されたようだ。御仏壇に手を合わせ報告した。

『母さん‥‥、これから上手くいくように見守ってくれ』


初出勤の朝は曇り雨の予報だ。傘をぶら下げ、マスクを着用する。

行き交う人々は皆マスク姿で顔が分からない。


夏に近づくにつれ、半袖姿のサラリーマンが目立つ。

あれからろくに家賃も払えない俺は優人の家(団地)に居候することにした。

生活費を半分出すことを前提に優人は心置きなく承諾してくれた。


だからと言って一緒に通勤する訳ではない。優人は朝が弱い奴だから俺が先に家を出た。


何をするのもどこに行くのも一緒だなんて男同士暑苦しい。それに周りに変な誤解をされても困るしな。


 到着すると採用担当の社員にタイムカードの代用の物を渡され、名札も首からぶら下げた。

数分後に優人もやってきて如月の苗字の入った名札を首にぶら下げた。

担当者は何度も時計に目をやっては、『あと一人くるはずなんだけど‥‥』

と呟いていた。8時50分の始業時刻まであと2分というところで足音が近づいてきた。


『おはようございま〜す、すみませんちょっと迷っちゃってー、遅れました〜』

胸元の開いたブラウスに金色のネックレス、グレーのスカートにふわりとしたクリーム色の髪‥‥目尻にのびるしなやかなアイラインに艶のある唇。

そこにいたのは間違いなく飲み屋で会ったあの女性だった。


『十分前行動、習いませんでしたか?』担当社員は皮肉を言った。

『ごめんなさ〜い、次からは気をつけます』上目遣いで女性が首を傾げると

『お願いしますよ』と担当社員は自分の鼻を一差し指と親指で軽く触り視線を落とした。


『あっ君達!二人とも採用されたんだ〜?良かったね!これからよろしく〜』

こちらに気づいた女性の名札にふと目を向ける。


『あ〜そういえば名前知らないんだっけ?私、秋田小町よ。君達は‥‥』

女性はマジマジと俺等の名札を眺め納得したように頷いた。


『やまだんとらぎらぎね』勝手にあだ名を付けられた。


甘い香水の匂いが俺等の鼻を刺激した。


読んで下さった方、ありがとうございます!

同じ面接会場に来ていた女性になんと酒屋で偶然出会う話です。

今後どうなるかまだまだ分からないぞうw


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