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壁の中から  作者: tom
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山田五月の故郷

少しSFっぽいかもしれません。

自然環境が悪化した世界が舞台で主人公の男の子(成人したばかり)が変わった仕事に出逢うみたいなストーリーです。

 かつて蒼い海と呼ばれていた水平線は、現在となっては確認のしようがないほど黒く濁り有害物として世間に浸透している。


僕の祖父が蒼い海で気持ち良さそうに泳いでいる写真を何度か見た事がある‥‥。

こんなに美しい海を僕は写真を通してしか知る事ができないのが何よりも虚しい。


ーガタン、ゴトン‥‥


次はー岡田ー岡田に止まります。

車掌の声が告げる。


地下鉄の車窓から見えるのは暗闇に少しの明かりが灯された駅のホームだった。


久しぶりに友人に会いにやってきた。

そう、ここが僕の故郷。


 鉛色の空を仰ぎながら、坂道を重い足取りで上って行く。

道行く人々は皆、家路を急いでいるのか俯き加減で他人のことなど眼中にないといった感じだ。


駅から離れるにつれて人もまばらになる。


ただ、そんな他人に無関心な僕らに共通しているのは特殊なマスクを付けているという点だ。


工業化が進み、自然環境が麻痺していった我が地球は人間によって命を絶たれた動植物たちで溢れている。危険区域に指定されている場所のほとんどが海に関する区域だ。


しばらくして現れた、寂れた団地の敷地内に足を運ぶ。


今となっては子供の姿も見られない。

午後二時以降は外出が禁じられている。

有害なガスが発生しやすいため子供は家に引きこもる一方でそのストレスから暴飲暴食肥満児の増加がこの間ニュースでとりあげられていたっけ‥‥。


ん‥‥。


遠くから人影が近づいて来た。


同じように防毒マスクをつけた僕と同い年くらいの青年。


とっさに手を振った。


すると向こうもそれに応じるように返して来た。








 『本当久しぶりだな』


畳の匂いがなんだか懐かしい。

青年の黒縁眼鏡の奥の瞳が輝きを増した。


お互い畳の上で体勢を崩し、持って来た日本酒をあけた。


幼い頃からよく遊んでいた同じ団地のよしみで、名前は如月優人きさらぎ ゆうと如月という名の通り、誕生月も二月で覚えやすいのが特徴だ。


『五月は変わらないな~』


『お前もな』

そして僕の名は山田五月やまだ さつき五月という名前の通り誕生月も同じかと思われても困るからここで公表しよう、七月生まれの獅子座だ。なんて情報は不要かとも思う。


『まあ、飲もう』

成人式を迎えて間もない僕達は初めて酌み交わした。


それから顔や喉まで赤くしてぐうたらしていた。

『そんなんで二日酔いにでもなったらどうするのよ』とおふくろに言われた気がするけれども、おふくろは昨年亡くなったばかりだからそんな声は幻聴なのだと我に返った。


『あ~、僕どうしたらいいんだろ~』

うなだれていると優人が『”僕”っていうのをやめろよ、これからは”俺”な?』

とダメ出しをしてきた。


『実は僕‥‥いや俺?会社辞めて来たばっかなんだ』


だらんとした身体を押し入れの襖に押し付けながら初めて僕は”俺”を使った。

しかもこんなことを言うためにだ。


『え‥‥?それマジかよ?』

途端に優人の顔が冷めたように変わる。


ヤバい。飲んだ勢いで口を滑らせた。でも言い訳なんか思いつかなかった。


『あ‥‥ああ、マジ‥‥』

視線を自分のおへその部分に移す。

またダメ出しか‥‥。そう今にも沈みそうな時予想外の答えが返って来た。


『‥‥良い仕事あるぞ?』


『え?』


ぼやけた視界がゆっくり鮮明になってゆく、目の前にいる優人の黒縁眼鏡の奥の瞳がまた輝いている。


『良い仕事って?』

酒のまわった頭でも真面目に問う。


『良いっていうか‥‥んー、給料が良いって意味な?』


そう言いながら優人はなじみのリュックの中から、クリアファイルを取り出した。


『見つけたんだ』


差し出された用紙には求人という文字が見出しで、おおまかな仕事の内容が書いてあった。


『‥‥廃墟探索?』

初めに目に飛び込んで来たのはその漢字四文字。


『そう。しかも一件につき約10万』


『なんだそれ?芸能人のギャラみたいだな』


『まあ、そんなとこだ』


『廃墟探索って‥‥なんでそんなことする意味があるんだ?』


『そういうのを趣味にしてる連中のためのいわば、サービス営業みたいなもんだと思う。事前に俺等が下調べして安全そうなら客に紹介して案内する。顧客を増やして金儲けって訳だ。』


そして付け加えるように優人は言った『海に近い物件は需要あるみたいだな。俺等が生まれる前‥‥二十年以上も前に海に近づく事さえ禁じられて来たからな。』


なんだか落ち着かないな。

無職になった自分にこんな仕事が舞い込んでくるなんて夢にも思っていなかったからだ。


 でもそんなことより耳を疑ったのは優人が”俺等”と言っていることが気になった。


『俺等って‥‥優人は今、中小企業の従業員だろ?』


『ああ‥‥偶然だけど実は俺も辞めたばっかなんだ』

さらりとそんなことをいうから、僕は目を丸くして驚いた。







つづく



(この物語はフィクションです)

読んで下さった方、ありがとうございます!

世界観とか自分で作って行かなきゃならないのが大変かもです(汗)

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