現実
「急いで血圧を下げましょう」
その声と共に目が覚める。
ここは一体何処だ?
真上しか見えないが、真っ白い天井。
左側には振り向けない。首が左側に回せない。
声と音だけ聞こえる。
「ピッピッピッ・・・」という音、「血圧は?」「先生、ご家族様がお見えです。」
生きているのは確かみたいだ。
しかし、家族が来ているらしいから危険な状態なのだろうか?
言葉を発しようとしても、口が上手く動かなくなっている。
看護師と思われる女性が顔を覗き込んできた。
「ここは病院ですよ。もう大丈夫ですよ。そのまま眠っていても大丈夫ですよ。とにかく動かないでくださいね。」
病院と聞いて、少し安心した。
医師が覗き込んできた。
「これから、とても大変なことがたくさんあると思うけれど、がんばりましょう!」と言われた。
「???」
何のことだ?
そう言って、医師は部屋から出て行った。
時間が経つにつれて、少し口が動くようになり、会話が出来るようになってきた。
家族が覗き込んできて、私に言った。
「これから、一生寝たきりになるか車椅子の生活になると思うと先生に言われた。」と。
そして、私の左半身はもう動かないだろうと。
病名は視床出血。
脳出血だ。
主に高血圧が原因。
一度も高血圧と言われたことはない。
むしろ、低血圧と言われたことがあるくらいだ。
いろいろ思い返して、考えてみるが前触れもなく突然の脳出血。
体の左半分にすでに感覚は無い。
30分おきくらいだと思うが、左腕が締め付けられ血圧を測定されている。
寝ようと思っても、気になるため寝た気がしない。
私の腕と足はベッドに紐で縛られていた。
寝返りをさせないためである。動くなということだろうが、身動きが出来ないのは辛い。
腰が痛くなってくる。
そういえば、倒れてから何時間経ったか分からないが、あの時から尿意を感じていた。
今は、もう限界だった。
マンツーマンで看護師が居るみたいなので、そのことを伝えると、抵抗できない私のズボンとパンツを下げ尿道にチューブを入れられ、下腹部を力強く押され、尿を出させてくれた。
かなり恥ずかしいが、すぐに慣れてしまった。
トイレをお願いするのには、恥ずかしがっていられないからだ。
夢の中で見た光は、生と死の境界だったんだと思う。
あの時、楽な方に行っていたら、この世に居なかっただろう。
苦しさに耐える方を選んで良かったと思うとは言い切れないが。
この体で生きていく。
その覚悟が出来ていない。
未来が見えない。
点滴で生かされているようだが、これからもこの状態なのか。
不安で真っ暗な世界が広がって行く。
こんな状態から早く抜け出したい。
夢であって欲しい。