年越し……新たな1年の幕開け
「今日は大晦日だな」
「そうですね、今年も早いものですね」
山森健一の家でそう答えたのは薺楓だ。
健一の隣では白岩涼子がウトウトと
眠そうにしていた。
「どうした、涼子。
眠くなってきたか?」
「え?大丈夫、まだ、ふぁ……眠くないよ」
「後少しで新年だ。
年越しそばは食べるだろ?」
「うん………ふぁ………」
涼子は時折ウトウトとしながらも
受け答えはしっかりとしていた。
「それにしても、山森先輩の家で年を越すことに
なるとは思わなかったな」
「それもそうだな」
鳥飼勝の隣にいる榊蒼が答えた。
「でも、来年もまた、このメンバーで
生徒会頑張れるんですし、また1つ思い出が増えた事で
良いんじゃない?」
「確かにそうですね、春香先輩」
「まぁ、それより一番気になるのは、山森先輩の
隣にいる美人と美少女について聞きたいんですけど?」
如月春香の問いに答えたのは朝霧優芽だ。
矢鳥龍は、山森健一の隣にいる二人の存在に対して
取り敢えずの疑問をあげた。
「龍、知らないの?」
「この二人の事知らないの?」
「姉さんたちは知ってるの?」
龍に対して答えたのは、彼の双子の姉である矢鳥早織と
矢鳥美希が答えた。
この二人は弟に対して………いや、やめておこう。
俺の命の方が危ないんでな。
「この二人はね、健一君のお姉さんの山森莉沙さんと
妹さんの山森結香ちゃんよ。
会ったことなかったっけ?」
「うーん………覚えてないや」
「アハハハ………無理もないかな、私と会ったのは
龍君がまだ高校に入る前の事だから」
「うーん…アタシは夏休みに会ってると思うんだけどなぁ」
「姉さんも結香もそのくらいにしといてよ。
そろそろ年越しそば食べようか?」
「ふふふ………そうね。
それじゃあ、結香と涼子ちゃん、それから楓ちゃんと
優芽ちゃんと春香ちゃんと早織ちゃんと美希ちゃんも
年越しそば持ってくるの手伝ってくれるかな?」
『ええ、もちろん良いですよ』
「それじゃあ、みんな少し待っててね」
莉沙がそう言って女性陣を引き連れて、
山森家の一階へと降りていった。
二階の健一の部屋には男性陣が取り残されていた。
しかし、別段何をするというわけでもなく
ただNHKで放映される紅白歌合戦を見ながら
年越しそばが来るのを待っている。
テレビの中では国民的アイドルグループが
歌っている所だった。
「それにしても、いいもんだな」
「何がですか?」
「こうやっていつもの皆で、年を越せるのは」
「でしたら、来年も、その次の年も皆で年を越しましょうよ」
「そうだな」
テレビでは、一人の男性が歌い終わった所だった。
今年の紅白も残り4組となり、年越しまで後少しとなった。
「なんだろう嫌な予感しかしない」
「え?何がですか?」
「いや、何でもない。
もうすぐだな………」
「そうですね………」
「みんな、お待たせ。年越しそば持ってきたよ」
そう言って、扉を勢い良く開けて入って来たのは
幸か不幸か如月春香だった。
あ、これは嫌な予感が、春香頼む転ぶなよ?
転んだら、色々と水の泡だから、転ぶなよ?
そう願う山森健一だったが、その願いを容易く裏切る
春香だった。
けれど、倒れるには至らなかった。
その理由は、健一が倒れる直前に、春香から
年越しそばを乗せていたお膳を右手で掴み、
左手で春香の体を抱き留めていた。
「はぁ…………春香、お前、わざとやってるんじゃないよな?」
「そんなわけ無いですよ」
「ならいいんだが」
右手で掴み取っていたお膳を春香に返すと、
健一は自分が元いた所に戻り座った。
春香も自分の所に座り、それぞれの元に年越しそばが
行き渡り、年越しまで後3分。
「それじゃあ、後3分という訳で、
今年1年お疲れ様でした。
色々とあったけど、その分お互いの絆が深まったと思う」
後30秒。
後25秒。
後20秒。
後15秒。
「10」
「9」
「8」
「7」
「6」
「5」
テレビの中から、そして家の外からも
除夜の鐘の音が聞こえてきた。
あと少しで新年だ。
「4……3………2……………1」
『明けましておめでとう!
今年も宜しくお願いします!』
1月1日。
新たな年が始まりを迎えた。