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あのシーンは突然に

 背中に突き刺さる視線が痛い……

「なにあれ」「なんで小学生が?」「兄妹?」

 俺は今、高校の廊下をランドセルを背負った小学生と一緒に歩いている。普通ならば有り得ない状況だ。ジロジロ見られても何も文句は言えない。

 さっき校長室であった出来事を思い出し、俺はため息をつく。あんなことがこれから続いていくのか……



「こいつはロリコンだ。学校内での監視の許可を取りに来た」

「ちょっ! 俺はロリコンなんかじゃ――」

「黙れクズ! 自分の立場をわきまえろ」

「校長先生! こんなムチャクチャなこ――」

「どうぞどうぞ。捜査官様のお好きなようになさってください」

 駄目だ。完全に俺の学園生活は終わった。夢なら覚めてほしい。

「協力感謝する」

 スウィートストロベリーはその格好に似合わない敬礼で校長に答えた。

 そして、肩を落としている俺に、校長が厳しい口調で話しかける。

「皆藤くん、この学校からロリコンが出てしまったのは大変不本意だが、これからしっかりと更正するように」

 不本意なのはこっちの方なんですが……しかし、そう口答えする気にもなれず、黙って頷く。俺の頬には熱い液体が流れ落ちていた。

「ではこちらの書類に目を通して、サインをいただきたい」

 そう言って、スウィートストロベリーはランドセルから紙の束を取り出した。

 その様子は小学生が宿題のプリントを先生に渡しているようで、なんとも滑稽だった。が、実際には宿題などという可愛いものではなく、あそこには『逮捕』だの『死刑』だの恐ろしい言葉が書かれているのだろう。

「わかりました。この度はうちの生徒がご迷惑をお掛けして真に申し訳ございませんでした」

 仮にもいち学校長が小学生に頭を下げている。それはもはや滑稽を通り越して、コントにしか見えなかった。

「うむ。では、準備の方を頼む。帰るぞ、クズ!」

「え?」

 俺の返事を待たずスウィートストロベリーは足早に校長室を出て行く。

 その瞬間、校長と二人きりになり気まずさ大爆発の俺はそそくさと後をついていった。



 と、そんなこんなで俺は登校早々に下校の途についているわけだが……

 背中にまとわりつく視線を振り払い、俺はスウィートストロベリーに詰め寄った。

「なあ、帰るってどういうことだよ。授業があるだろ」

「いきなりクラスに行ってもみなが混乱するだけだろう。学校にも色々準備が必要だし、手続きもしなければならん」

「でも、今日進んだ授業はどうするんだよ? 皆より遅れちゃうだろ」

「そんなものは自分の性癖を恨め」

 性癖っていうか、運命を恨むよ……

「貴様がロリコンであるから――」

 その言葉を聞いた途端、こちらを凝視していた生徒たちかざわめく。

「ロリコンだって」「やだ、あの人ロリコンなの」「確か2年C組の」

「わーーーー! わーーーーーー! 帰ろう! ほら帰ろう! ちゃっちゃっと帰ろう!」

「き、貴様! まだ話は――、こ、こら! 触るな変態!」

 俺は喚くスウィートストロベリーを無視して、手を引いて駆け出す。それこそ、抵抗する小学生を連れ去ろうとする変態のように。

 その様子を一部始終見ていた生徒のひとりがポツリと呟いた。

「事案だ」




校門を出て、しばらく行ったところで俺たちは息を切らせて立ち止まった。

「ぜぇぜぇ」

「はぁはぁ」

「き、貴様! いつまで手を握っている! さっさと離せ!」

 顔を真っ赤にしながら空いたほうの手でぽかぽかと俺の頭を殴りつける。

 痛くはない。さすがに筋力は小学生なんだな、と安心したが、このままだと事案レベルを上げられてしまうかもしれない。俺はすぐに手を離した。

「わ、悪い。ちょっと急に腹が痛くなったから早く帰りたくて……」

「ふ、ふん! それならそうと言え。トイレくらい自由に行かせてやるわ。まったく…………こ、怖かった、ぐすっ」

「えっ?」

 よく見るとスウィートストロベリーは涙目になっていた。それを見た瞬間、すごい罪悪感に襲われた。

 何やってんだ俺。こんな小さな子を泣かすなんて、ロリコン以下の最低ヤローじゃないか。

「ごめん」

 そう言って俺は彼女の頭を撫でてやる。

刹那――顎に衝撃が走った。

「っでぇ!」

 スウィートストロベリーのアッパーが見事にヒットしたのである。俺はそのまま後ろに倒れこんだ。

「気安く触るなと言っただろう、この変態が! 今日のところはこれで勘弁してやるが、次はないと思え!」

 顔を背けた彼女の頬は真っ赤に染まっていた。が、俺には見えていなかった。




 「ほう、ここが貴様の家か」

玄関の前で偉そうに腕を組みながらスウィートストロベリーは言った。

「クズのクセに生意気に、なかなか立派な家ではないか」

「別に俺の持ち家じゃないぞ。まぁ、親が出張でいないから、好き勝手できるけどな」

「な、なんだと! お、親がいない、ということは……」

 慌てふためくスウィートストロベリー。なんなんだ?

「って言っても一人暮らしじゃないぞ。妹と一緒だ。あいつは今学校だけど……」

 と、自分でそう言って思い出した。沙耶が帰ってきたらどうするんだ?

 ありのままを話すしかないが、こいつがいると変に濡れ衣を着せられそうだ。そうなったら家庭崩壊(兄妹崩壊?)は免れない。そいつは問題だ。

「…そんなことは問題じゃない」

「いやいや、俺にとっては大問題だ」

「私の方が大問題だ!」

 いきなり怒鳴られたんだけど、なんで?

「親がいないということは貴様のようなロリコンで変態でクズで馬鹿で無神経で、えーっと、えーっと、、とにかく貴様と二人きりということだろ!」

 いやいや、ここまでも二人きりで来ただろう……

 とは言わず、ここで騒がれて近所に話を聞かれても困るので適当になだめることにするか。

「俺だってきちんと更正したいんだ。絶対に変なことはしないよ」

「絶対だな?」

「絶対だ」

 なんだかよくある女の子をホテルに誘おうとする男の決まり文句みだいだが、何度も言うが相手は小学生だ。はっきり言っておくが、たとえこいつの裸を見ても全く欲情しない自信がある。裸というのはもっと巨乳でセクシーなお姉さんがなるからこそ価値があるのだ。

「……分かった、貴様の言葉を信じよう。別に私は裁きに来たわけではないのだからな」

 よかった、こいつはなんだかんだで真面目に接すれば分かってくれるやつらしい。これなら妹が帰ってくる前に、余計なことを言わないように仕向けられるかもしれない。

 少しだけ希望が持てた俺は、玄関の鍵を開けスウィートストロベリーを促した。

「さぁ、どうぞ、捜査官どの」

「うむ。まずはシャワーを借りるぞ。貴様のせいで汗をかいたからな」



 …………えっ?

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