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クズとツインテール

皆藤拓耶(かいどうたくや)。高校2年生の16歳。この歳でロリコンとは真性のクズだな」

 俺は今、公園の茂みの中で、手足を拘束された状態で横たわっている。目の前には赤いランドセルを背負った、小学生。

 この状況を誰かが見ても、俺がこの女の子を茂みに連れ込んだ変態だと思うのだろうか?

 いやいやいやいや!絶対俺が被害者だから!

「なんだクズ? 不満そうな顔だな」

「つーか、俺はただ声をかけただけ――」

「犯罪者はみなそう言うものだ」

「犯罪者って! 俺は何もやってねーだろ!」

 頭に鈍い衝撃が走る。少女に頭を踏みつけられたのだ。

「黙れ。貴様は泣いて困っているこんな可愛くていたいけな少女に優しく声をかけるふりをして、連れ去っていかがわしいことをしようとした。確かに未遂かもしれんが、放っておけばまた同じ過ちを犯すだろう」

「待て待て! 全部お前の推測じゃねーか!」

「問答無用!」

 頭を踏みつける足の力がいっそう強くなる。

「あだだだだだだっ!」


 なんか……もう……思考停止してきた。

 とにかくこの状況を終わらせるには、こいつの言うことを大人しく聞くしかないだろう。昔から俺の長所は『諦めの早さ』である。

「わ、わかったよ。俺はお前にいかがわしいことをしようとしたロリコンの変態ヤローだ。それでどうなるんだ? 金でも払えばいいのか?」

 ぐりぐりぐりぐりっ

「あだだだだだっだっだ!」

「貴様! こんな可憐で健気な美少女の心に恐怖という傷をつけておきながら、金で片付けるだと! クズはクズの発想しかできんのか!」

 なんか、こうクズクズ言われると本当に自分がクズなんじゃないかと思ってしまう。というか、そう思い込まなければこの屈辱的な状況に耐えられないかもしれない。

 そんなことを考えていると、少女は俺の頭から足をどけ、射るような視線を向けてきた。

「まぁ、いつまでもこんなことをしていても話が進まんからな。クズにも分かりやすく説明してやる」

「あ、ありがとうございます……」

 何故か敬語でお礼を言ってしまっている俺。まさしく女王様に許しを乞う奴隷のようだ。いや、見たこともないからただの妄想なんだけど。

「いいか? 貴様は事案レベル1だ」

「じあん……レベル……いち?」

「レベル1は監視対象となる。捜査官の24時間の監視の下、一定期間その行動すべてをチェックし、問題なしと判断されれば無事解放。問題があった場合、速やかにレベル2に移行する」

「ちょ、ちょっと待て! 24時間の監視って、学校でも家でもその捜査官ってのが一緒にいるってことか!?」

「そうだ」

 当たり前だと言わんばかりに少女は即答する。


 ムチャクチャだろ、それ……

 そんなことされたら家族にも、友達にも『俺はロリコンだから監視されてます。テヘッ』って言ってるようなもんだ。そうなったら俺の生活は一変してしまう。友達も離れていくだろうし、彼女だってできないだろう。それに、沙耶には軽蔑されるかもしれない。

 絶望的な未来を想像してしまい、俺は虚ろに少女の目を見ていた。

「ようやく自分の置かれた状況が理解できたか。しかし、クズとはいえ更正の余地が残されている。期間中何も問題を起こさなければよいのだ。ま、真性のクズには無理かもしれんがな」

 俺はふとさっきの少女の言葉を思い出した。

「レベル1って言ってたよな? レベルが進むとどうなるんだ?」

「レベルは5まであるが、4になると逮捕だ」

「4で逮捕って……じゃあ、5はなんだ?」

「死刑だ」

「おかしいだろーーーーーー! 裁判通り越しちゃってんじゃん! 法治国家だろ! 基本的人権の尊重はどこいったんだよ!」

「ロリコンに人権などない!」

 俺の訴えはバッサリと切り捨てられた。

「まぁ、レベル5は特別措置だ。安心しろ、国は貴様たちを見捨てているわけではない。そのための『ロリコン特別対策法』だ」

 ああ、そういえば朝そんなニュースを見たな。あの男はなんらかの原因でレベル4に達してしまったのか。

 あの時は、俺には関係ない話だと思っていたのに……


 俺に微笑みかける沙耶の姿が浮かぶ。あいつがこのことを知ったらどういう反応をするのだろう。何よりもそれが気がかりだった。

「さて、随分時間を使ってしまったな。貴様も学校に行かねばいかんだろう」

 学校か……さよなら、俺の青春!

 卒業アルバムには黒い目線とか引かれるのか? それ以前に卒業できるのか?

 中学生の頃は「高校生になったら彼女と一緒に帰るぞ! それで手を握って、いい雰囲気になって、チュー……」とか希望を持ってたのに、それすらも叶わなくなるのか。2年になってもそんな気配すらないけど……

 そんな俺の感傷に構わず少女は続ける。

「いいか、今から拘束を解くが変な気は起こすなよ。貴様の生殺与奪の権利は私にあると思え」

 そう言うと、少女は手首に巻いてある機械のボタンを俺に向かって押した。

 すると俺の手足の自由を奪っていた拘束具は跡形もなく消え去っていった。

 一体どんな仕組みなんだ? どこに金かけてんだよ、この国は!

「では行くぞ」

「行くぞって、どこへ?」

「学校に決まってるだろう」

「ちょっと待てよ。その、捜査官っていうのは?」

「私だ」

「お前かよ!」

 少女は数歩進んだ後、その黒く艶やかなツインテールをなびかせ、振り向きざまにこう言った。

「私はロリコン特別対策法特殊捜査官のスウィートストロベリーだ。よろしくな、クズ」


 不本意にも俺は、その笑顔に見惚れてしまっていた。

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