事案
『ロリコン特別対策法』
そんな馬鹿げた法律が制定されたのはつい最近のことだ。
なんだかよく分からないが、ここ数十年で増加傾向にある未成年者への性的犯罪を未然に防ぐ為にできたものらしい。
その初の逮捕者が出たというニュースを見ながら、俺には関係ない話だとふんと鼻をならす。
「馬鹿だな、こいつ」
「え?なんか言った?お兄ちゃん」
忙しそうに朝ごはんの支度をしている妹が、怪訝そうに俺に尋ねる。
「なんでもないよ、沙耶」
「ほらほら、ご飯できたから早く食べちゃって」
「ああ、ありがとうな、いつも」
そう、俺には関係のない話だった。
妹がいるせいか、年下はどうも恋愛対象に入らない。好きなタイプは巨乳で、セクシーでグラマーなお姉さんだ。まぁ、当然お相手してもらったことなどないが。
そんなことを考えながら俺は出来立ての味噌汁のいい匂いのする食卓についた。
「お兄ちゃん、寝グセ」
通学路の途中、沙耶が俺の髪の毛に手を伸ばす。
「や、いいって、自分で直すから」
沙耶の手を払い、少し距離をとる。
シスコンというか、兄馬鹿というか、何と言われようが構わないが、沙耶はかなり可愛いと思う。中学生ながら何人かの男子に告白されてるらしいし(なんなんだ最近の中学生は!俺は告白どころか女子と話すことすらくぁwせdrftgyふじこlp)、成績優秀で家事もできて、気が利いて、おせっかいなよく出来た妹だ。
親が海外に出張で家にいない今(そこ、よくある設定とか言わない!)、非常に頼れる同居人である。
こいつに彼氏でもできた時には、俺の鉄拳が飛ぶことは間違いない。
と、そんな可愛い妹が駆け足でT字路を右に曲がっていく。
「むぅ~、いいもん、今日の晩御飯はお兄ちゃんの嫌いなピーマン入れちゃうから!」
「お、おい! 帰りとか気をつけろよ。最近、なんか物騒みたいだからさ」
「そんな風に誤魔化しても遅いよ~」
そして沙耶は振り返り、
「でも心配してくれてありがと、お兄ちゃん!」
ぱたぱたと手を振りながら……
――コケた。
さっきの妹の説明にそそっかしい、てのも追加しておこう……
沙耶と別れしばらく歩いていると、俺は重大なことに気がついた。
今日は日直だった。
「ちょっと近道していくか」
辺りを見回し誰もいないことを確認して右手の公園の中へ入っていく。
この公園を通るか通らないかで10分ほど通学時間が変わってくるのだが、何故か学校からこの公園を通ることは禁止されている。
(無意味な規律や法律って、いっぱいあるよなぁ)
なんて考えながら歩いていると、茂みの近くでうずくまって泣いている少女がいた。
ランドセルを背負っているので小学生だろう。大きな飾りのついたツインテールがとても可愛らしい。そのままアニメやゲームに出てきても違和感がないようなフリフリの服を着ている。
こんな時間にこんな所で泣いている女の子を無視できるほど、俺は薄情な人間じゃない。
まぁ、事情を話せば日直の相方も分かってくれるだろう。
「ねぇ、キミ。どうし」
『事案発生! 事案発生! 対象者を一時拘束します!』
突如、少女が俺に向かってボタンのようなものを押すと、両手両足に光の手錠のようなものが取り付けられた。
「恥を知れ! 犯罪者が!」
少女が愛くるしい声で何か言っているようだが、全く俺の耳には入っていなかった。
「な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」