閑話
「あたしは絶対に元の身体に戻って見せる」
あたしはお風呂場で自分自身にそう宣言する。
いつまでも起こったことを気にしても仕方がない。だって必ず元に戻る方法があるはずだから!
……それにしてもなんなのあの男は。
あたしは黄泉路ミヨなのよ。
なのにあたしをそこら辺の一般人と同じ――いえ、一般人以下の扱いをするなんて信じられない。
でも、あいつだけだった。
こんな姿になってまともに接してくれたのはあいつだけなのよね。他の人はあたしの姿を見て逃げ出しちゃうし。
……って何であたしはあいつにキュンっときてるのよ! バカバカしい。あいつの妹だってあたしに怯えてなかったじゃないの。
「ミヨさ~ん」
「キャッ!」
「ミヨさん、どうかしたんですか?」
お風呂のドア越しに聞こえるこの声はあいつの妹。確か鈴音っていったっけ。
「な、何でもないわよ。それよりどうかしたの?」
「ミヨさんが出てくるのが遅いから兄ちゃんが様子を見て来いって」
「あ、あいつが」
も、もしかしてシャワーから出てくるのが遅くて心配してくれたのかしら? 口ではあんなこと言ってたけど実は……。
「ガス代がもったいないから早く出ろって文句を言ってたもんで」
「そ、そう」
くっ! って、あたしはあいつに何を期待してるのよ。
「すぐに出るわ」
「あはは、なんか急かしてるようでごめんなさい」
申し訳なさそうな声で謝る鈴音。
この子とあの兄は本当に兄妹なのだろうか。性格が似てない。それに顔も髪の色もあんまり似てない。
「気にしないでいいわ」
どうせこの身体じゃシャワーを浴びても意味ないし。つい元の身体のくせで、悩んでるときにお風呂場に籠っちゃうのよね。
「ミヨさんって兄ちゃんと仲いいけど彼女さんとかなの?」
「ふ、ふふふざけないで。誰があんな男と!」
何を言ってるのこの子は!
「そうですか? ミヨさんと話す兄ちゃんはイキイキしてたけどな」
「それはあたしをバカにして楽しんでるだけよ」
まったく、あの男ほどムカつく男に出会ったことはないわよ。
「あいつはあたしよりあんたといる方が楽しいんじゃないかしら」
「そうかな?」
「そうよ。あんたら仲のいい兄妹って感じだし」
「そっか」
彼女はそう言うと鼻歌を歌いながらお風呂場から立ち去って行った。なんだろう、あの子もブラコンなのかしら。嫌な兄妹ね。
あたしは鈴音を追うようにしてお風呂場から出る。
そしてあの苛立だしいあの男を見つける。あいつは参考書を開いて何やら難しそうな問題を解いていた。
「ちょっと、あんた。お風呂上がりの黒酢はどこにあるのよ」
「はっ? お前そんな身体で飲み物飲めるのかよ」
あいつは、バカなのお前? みたいな目であたしを見てきた。
「いいから用意しなさいよ」
「ったくしょうがねーな」
と言ってあいつは台所に向かう。文句を言いながらも用意するなんて実はこいつあたしのこと好きなのかしら。
「ほらよっ」
「……なにこれ?」
あいつの持ってきたコップに入った黄色い液体を指差す。
「酢、だけど」
「黒酢! あたしが言ったのは黒酢よ」
「文句が多いな。とりあえず墨汁でも混ぜればいいのか?」
「なんでよっ!」
「黒くなるだろ。ちゃんと飲めよ、もったいないから」
「飲めるか!」
ったく、こいつはあたしをバカにして。こいつだけは大っ嫌い!
とりあえず今日はここまでです。
誤字脱字の報告や感想などをいただけると嬉しいです。




