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骨まで愛して!  作者: 木山知
1章
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5話 あたしを愛しなさい!

「ちょっと! 何で人が落ちてきてよけるのよ。普通はキャッチするでしょ!」


 なぜか骨は偉そうな口調で怒鳴ってきた。

 まさか幻覚だけでなく幻聴まで聞こえてくるとは……。

 今日は帰って寝よう。

 最近勉強を頑張りすぎたから疲れてるんだ。

 そう、疲れてるだけで骨の妖怪に憑かれてたまるか。


「って、話聞いてるの? 聞いているなら返事しなさいよ!」


 幻覚は俺の肩を揺さぶってくる。

 これはきっとあれだ。携帯のバイブレーションがものすごいから肩が揺さぶられてると感じているだけだ。

 もしくは思い込みというやつだ。


 目隠しされた状態で熱湯をかけると言われながら普通の水をかけると熱くないのに熱いと感じるあれだ。実際にそれで火傷の跡が残った事例だってある。

 人間の思い込みは肉体をも凌駕する。

 聖痕だってそれで説明ができると言われてるし、他にもプラシーボ効果みたいに偽薬を薬だと思い込むことで病気を改善されることだってある。

 人間の思い込みというのは案外すごいのだ。

 だからこうやって幻覚が俺の頬にビンタをしてきて痛いと感じるのだって思い込みだ。

 幻覚は骨なので頬に当たった音がパシンという軽快な音でなく、ゴリッと骨と骨とが当たる鈍い音がする。

 幻覚のくせにやたらとリアルティーのある音だった。

 というかこいつビンタじゃなくてグーで殴ってないか。


「何で、何で無視するのよ! こっちはやっとあたしを見ても逃げ出さない人間に出会ったっていうのに」


 幻覚は俺の胸ぐらを掴む。


「ふさげるのはいい加減にしないさよね!」


 カチン。

 俺はその言葉を聞いて、目の前にいる骨の頭蓋骨をガシッと掴む。




「ふざけるのは、お前の存在だああああああああ!」




 俺は叫ぶのと同時に掴んでいた頭蓋骨を草むらに投げつける。


「ぎょえ――――――――――――」


 頭蓋骨はあっさりと胴体と分離して奇声をあげながら草むらの中へと消えていった。そしてしばらくして「あべぼ」という奇妙な声が聞こえた。

 残された胴体はあわてて頭部を探しに行く。

 今までなんとか色んな理由をつけてあの骸骨を幻覚や思い込みだと思い続けたけどもう限界だった。

 あの骸骨は声帯がないのに喋ってるし、筋肉がないのに動いてる。それに殴られればかなり痛い。

 どうやらふざけているとしか言えないあの非科学的で非論理的な存在を現実として認めるしかないようだ。


 そう結論づけると骸骨が戻ってきた。ちゃんと頭部には頭蓋骨があった。


「ちょっとあんた、いきなり人の頭蓋骨をそこら辺の草むらに投げつけるなんてどういう神経してるのよ!」


 どうやら骸骨は怒っているらしい。骸骨には表情がないから表情では感情が読み取りにくい。


「そっちこそ初対面の人間にビンタしてくるとかどういう神経してるんだよ」


 まあ目の前のやつは骸骨だからすでに神経がないんだけど。


「うるさいわね。あたしはいいのよ! なんたって特別な存在なんだから」


「そりゃ確かに特別だな、妖怪だし」


 不本意だが、目の前の骸骨を妖怪だとしか定義できない。じゃないとやつが動いている理由が説明できない。いや、妖怪って時点でもう説明できてないんだけど。


「何言ってるの、あたしは人間よ」


「元だろ」


 大方死んだことに気付かずに現世をさ迷ってるとかに違いない。それなら非科学的だけど多少は論理的だ。そういえば骨女とかいう妖怪がいたな。確かこの世に未練を残した女の執念が骨に宿ったとかなんとか。こいつもそんな感じだろう。


 だが骸骨は否定する。


「違うわ! あたしはアイドルの黄泉路(よみじ)ミヨよ! 妖怪なんかじゃないわ」


「ふーん」


 黄泉路ミヨと言えば聞いたことがある名前だ。

 確か今ブレイク中のアイドルだったかな?

 最近はグループとか数の多さでアイドルを売り出していく中、珍しくソロで活躍しているアイドルだとか。


「あんた、その顔は信じてないわね。いいわ、あたしに黄泉路ミヨについて質問しなさい。本人だからなんでも答えられるんだから」


 尊大な態度で言う自称アイドルの骸骨。

 そんな自称アイドルに俺は首を横に振って答える。


「いや、それはいい」


「あら、なんで?」


 骸骨は意外そうに尋ねる。


「俺はその黄泉路ミヨについて名前以外ほとんど知らないからな」


 俺は普段からテレビを観ない。観るのは鈴と一緒にアニメを見るぐらいだ。

 携帯でニュースは見たりするけど、政治経済とか世の中の動きを知るためで芸能ニュースは見ない。

 他人が結婚したり離婚したニュースを見ても俺の人生には何の役には立たないからな。時間のムダだ。

 かといってそういう役に立たない情報というのは知りたくなくても入ってくる。周囲の会話からとか。

 それで黄泉路ミヨの名前ぐらいは知っていた。でも顔は知らないし、どんな人物なのかもよく知らない。


「だから質問するだけ無駄だ」


「はあ? 何であたしのこと知らないのよ!」


 俺の答えにご立腹の骸骨。まあ骸骨だから立つ腹がないけど。


「俺はテレビとか見ないからな」


「テレビを観てなくてもあたしのことぐらい知ってなさいよ! ジョーシキよジョーシキ」


 ムチャ言うなよ。


「そもそもそんな質問に答えたぐらいで本人っていう証拠にならないだろ」


 一般人がする質問なんて本人じゃなくてファンなら答えられるからな。熱心なファンならもしかしたら本人が知らないクセとか知ってるかもしれない。そう考えるとファンってすごいよな。


「……うっ! それもそうね」


 下を向いて肩を落としながら骸骨は納得する。


「まあ、落ち込むな。とりあえずお前が誰だろうと気にする必要はない」


「えっ!?」


 骸骨はどこか嬉しそうにガバッと顔を上げる。おそらく目玉があったら期待の眼差しで俺を見てるのだろう。


「それってつまりあんたはあたしを黄泉路ミヨだと信じてくれるのね」


「いや、俺は家に帰るからお前が誰だろうと関係ないし、もう関わらないからな。ってことでじゃあな」


 俺はそう言い残してその場を後にする。


「待ちなさいよ」


 骸骨が何か言ってるが無視する。

 これ以上この意味不明な存在と関わるとろくなことにならないと本能が告げている。

 触らぬ神に祟りなし。

 俺は別に非日常を求めてるわけじゃないし、見ず知らずの人間を助けるほどお節介な人間でもない。

 しかし。


「待てって言ってるでしょうが!」


 後ろから飛び蹴りを食らった。


「ぐっ!」


 俺は勢い余って地面に叩き付けられた。

 一方蹴りをお見舞いしてきた骸骨は偉そうに腕を組んでふんぞり返っている。


「なにすんだよ!」


「それはこっちのセリフよ」


「はっ?」


「はっ? じゃないわよ。こんな美少女が困ってるんだから助けなさいよね」


「美少女? 誰が?」


 周囲には女性らしき姿はない。


「あたしに決まってるでしょ」


「いや、美少女以前にお前、骨だし。本当に女かすらわからん」


 骸骨をまじまじ見るが、性別はわからない。

 というか男と女の違いを骨で判断できるほど俺は骨を見てきていない。それ以前に本物の骨を見るのすら初めてだ。


「なに人の身体をジロジロ見てるのよ、変態!」


 骸骨は肋骨の辺りを両腕で隠す。


「おい! なに勘違いしてんだ妖怪」


「だ、か、ら、妖怪じゃないって言ってるでしょ! あたしには黄泉路ミヨって名前があるのよ」


「仮にお前がアイドルの黄泉路ミヨだとしてもそれは芸名だろ」


「違うわよ。あたしは自分の名前に誇りを持ってるの。ミヨ、だなんていかにも見なさいって感じでアイドルにふさわしい名前でしょ。だから本名なのよ。そんなことも知らないの」


 さも一般常識のように言う骸骨。

 こいつはあれだ。世界が自分を中心に回ってるとか考えるタイプの人間に違いない。

 ハッキリ言って俺が嫌いなタイプだ。

 この手のタイプは下手に反論するとめんどうだ。

 下手するとこのまま家まで押しかけてくるかもしれない。

 鈴は歩く骸骨に興味があるみたいだが、こんな変な奴を鈴に会わせるわけにはいかない。

 ならいっそ警察に連絡するか。

 ……いや、ダメだ。あんな荒唐無稽な存在を警察に連絡しても信じてもらえないだろう。むしろ俺が変人に思われる。


 かといって直接警察にあいつを連れて行っても手の込んだイタズラとして扱われるに決まってる。

 それならこいつ一人で警察に行かせればいいだけか。


「悪かったな。だったら俺なんかじゃなくて警察に頼ったらどうだ?」


「それは論外ね。もしアイドルのあたしがこんな身体になったってことが世間にバレたらイメージダウンよ。アイドルはイメージが大事なんだから」


 くそっ! 警察も肝心なときに役立たないな。


「んっ? なら何で俺にアイドルだってことを教えたんだよ。イメージが大事なら秘密にしておくべきなんじゃないのか?」


「そ、それは、やっとまともに話せる人がいたから話を聞いてもらいたくて……。なのにあんたはあたしのこと知らないし……」


「えっ? なに?」


 ゴニョゴニョと口ごもって何を言ってるのかまったく聞こえなかったので思わず聞き返す。


「何でもないわよ、バカ!」


 何でこいつ怒ってるの?

 とりあえずここは大人しく言う通りにした方がよさそうだ。


「で、俺にどうしろって言うんだよ」


「どうするもこうするもわたしの身体を取り戻すのを手伝いなさいよ」


「手伝うつっても何するんだよ?」


 俺はネクロマンサーじゃないから蘇生術とか黒魔術とかは使えないから蘇らせられないぞ。

 不安に思う俺に対して黄泉路は自信ありげな雰囲気をかもし出していた。


「何かアイデアでもあるのか?」


「当然よ!」


 胸……は当然ないので肋骨のあたりを反らして答える黄泉路。

 俺は目だけでそれは何か問うと、黄泉路は一息ついてから言い放つ。






「あたしを愛しなさい!」

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