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骨まで愛して!  作者: 木山知
4章
26/27

エピローグ 親

 カランコローン。

 スナックのドアを開けると年季の入った鐘の音が店内に響き渡った。この鐘とわたし、どっちの方が年季が上なのかしら。


 ……はぁ。なんか切なくなってきた。


「いらっしゃい! 葵ちゃん」


 わたしが店内のバーカウンターに座るとカウンターの中にいた彼女は元気よく出迎えてくれた。

 相変わらず元気なやつだ。というか何十年もの付き合いなのに見た目があの頃と全く変わってないのもおかしい。大魔王バーンと同じ『凍れる時間の秘法』でも使って若さを維持してるんじゃないかと疑うレベル。


 わたしは真っ赤な髪の彼女をまじまじ見る。


 背が低く童顔の彼女はランドセルを背負っていたら小学生に思われてもおかしくないほど若々しい。肌もまだピチピチだしシワもない。

 なのに彼女はわたしと同い年だ。いや、正確にはわたしは生まれるのが遅いからまだ二九歳で彼女は三〇歳だ。

 それに彼女は独身だが過去に結婚もして子供もいる。それに息子はわたしのクラスの生徒だ。

小学生みたいな見た目なのに子供がいるだなんて犯罪の臭いがすると思うのはわたしだけだろうか。

赤月紅葉、あなどれない女だ。


「遅いわよ」


 わたしが椅子に座ると、隣に座っている黒いスーツを着た女が嫌味ったらしく言ってきた。本当は三二歳のくせに二〇代って言われても違和感がないくらい若々しい。


 彼女は黄泉路レン。わたしよりも二つ年上で上から目線のこいつとは昔よくケンカしたなぁ。

 だが彼女も結婚して今は独身だが子供がいる。


 ……三人の中でわたしだけが結婚していない。


「しょうがないでしょ。こっちは仕事だったんだから。教師ってのは世間が思ってるよりも大変なんだから」


 テストの採点なんて時間がとられるうえに地味にストレスが溜まるし、イジメとかの学級問題についても真剣に考えなきゃいけない。今日はゲームセンターやカラオケボックスで夜遅く遊んでいないのか見回りをしていた。


 わたしが肩をやれやれと肩をすくめるとレンは申し訳なさそうにいう。


「ねぇ、もしあたしが子供を産まなかったらあたし達はアイドルを続けてたかしら?」


 こいつはまだそのことを気にしてたのか。

 レンが子供を産んだのは一六歳の時だ。わたしら三人がアイドルとしてそこそこ活躍している最中だった。そんなスキャンダルを抱えたままアイドルなんて出来るわけがなかったからわたしたちはなし崩し的に解散になった。


「無理ね」


 わたしは断言する。


「アイドルなんてあの当時から世の中に腐るほどいるのよ。どっちにしろどこかで引退をよぎなくされたわ」


 それにわたしらの苗字の頭文字が青赤黄だったからシグナルガールズというセンスがないユニット名だったし。


「そうだね」


 と紅葉はニコッと笑って言うと、何飲む? と尋ねてきた。

 わたしは生ビールを注文する。その際にレンに色気がないみたいに見られたがそんなことは気にしない。夏はやっぱ生ビールだ。

 グラスに注がれた生ビールを持ってきた紅葉は幸せそうに言う。


「それに、私は今の生活気に入ってるよ」


 紅葉に続いてわたしもレンに言う。


「わたしも教師っていうのも悪くないと思ってる」


 唯一不満があるとしたら職場にいい男がいないことだろうか。


「そっか」


 レンは穏やかに笑う。

 とそこで紅葉が柏手を打つ。


「さてさて、三人そろったところで始めましょ。今日はお店貸し切りなんだから」


「貸し切りって大丈夫なの?」


「仮にもあなたこの店のママなんでしょ?」


 レンとわたしが尋ねると紅葉は快活に笑う。


「大丈夫大丈夫。人生なんとかなるもんだよ」


 それは大丈夫なのか?


「ほらほら、グラス持って」


 紅葉に言われたわたしとレンはグラスを持つ。


「じゃあ、レンちゃんの娘、ミヨちゃんの武道館コンサート成功を祝ってかんぱーい!」


「「乾杯」」


 わたしは二人とグラスを交わしてからビールをグイッと飲む。


「くぁ~、仕事終わりのビールは最高だ」


「あんた、おっさん臭いわよ」


 レンがジト目でわたしを見る。


「別にいいでしょ」


 それにしてもまさかレンの娘がアイドルデビューして武道館でコンサートをやるまでになるとは思わなかった。わたしらの時代以上にアイドルが溢れてる中でそこまでいくなんてすごいとしか言い様がない。

 おそらく本人は並々ならぬ努力をしてきたに違いない。


「そういえばレン、ここ最近あんたの娘の様子が変だって言ってたけどどうだったの? やっぱ武道館でのコンサートで緊張してたの?」


「わからないわ」


 レンは肩をすくめて答える。


「でも最近はいつも通りになって落ち着いてるけど」


「じゃあやっぱ緊張してたのかもね」


 アイドルやアーティストにとって聖地なんて呼ばれる場所で歌うんだ、緊張してもおかしくはないだろう。


「いやいや、もしかして別の人と入れ替わっていたのかもよ」


 紅葉がそんな冗談を楽しげに言ってきた。

 人が入れ替わるだなんてバカバカしい。レンもわたしと同じように紅葉の冗談を軽く受け流している。


「にしても、娘の様子が変だからって本当に娘をわたしの学校に連れてくるなよ。親バカだな」


「う、うっさいわね。連れてこいっていったのはあなたでしょ」


「気分転換にうちの学校を見てみたらいいんじゃないかとは言ったけど、本当に来るとは思わなかったよ。しかもその翌々日に」


 まあめんどくさいから紅葉の息子に適当ないいわけを言って頼んじゃったけど。


「でもまさかあそこで紅葉の息子に会うなんて思いにもよらなかったわ。紅葉、あなたの教育に口をはさむつもりはないけど男同士ではダメだと思うわよ」


「?」


 レンの言葉を聞いて紅葉は何のことやらといった感じで首を傾げる。

 そういえばレンには紅葉の息子の夢玄くんは男の子にしか興味ないって冗談を言ったんだけど真に受けてたんだ。この子って案外単純なのよね。


「教育かぁ。でも子育てって難しいよね」


 なんのことかわからない紅葉はとりあえず教育という言葉に反応して、何かを考えるようにしみじみ語る。


「確かにね。親の心子知らずだし」


 それに続いてレンも感慨深く頷く。

 なぜか急に子育ての話になってきた。シングルのわたしには未知の話だ。


 とそこにわたしの携帯にメールが着た。

 差出人は母。内容は『早く孫の顔がみたい』といったことをつらつらと書かれていた。

 あれだ、子の心親知らずというやつだ。


 ……はぁ。結婚したい。

 そんな落ち込むわたしを無視して二人は子供の話をする。


「そういえば今日はミヨちゃんどうしてるの?」


「それがね……」


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