2話 黄泉路ミヨという少女
「お帰り兄ちゃん!」
もやもやを抱えたまま学校から帰ってくると、いつものように鈴が出迎えてくれた。相変わらず黒い三角帽子に黒いローブを着た魔女スタイルだ。
「ただいま、鈴」
と言って三角帽子の上から頭を撫でてやる。するとエヘヘと笑って満足げな表情を浮かべる。
「兄ちゃん兄ちゃん、あとでアニメ観よっ!」
鈴は俺の服の裾を引っ張りながらせがむ。
「わかったわかった」
「やった!」
両手を上げて喜ぶ鈴。
玄関を上がって鈴と一緒に居間に入ると今後は母さんが手を振って俺を出迎えてくれた。
「あれれ、お帰りむっくん」
「ただいま母さん」
「今日は珍しく早いね。どうかしたの?」
不思議そうに首を傾げる母さん。
「ちょっとね」
俺はついよそよそしい態度を取ってしまう。
今まで鈴に遠慮して家族二人の邪魔をしないようにしていたからこうやってまともに話すのは久しぶりだ。だからなんだか少し戸惑っている自分がいる。
「迷惑だったかな?」
「何言ってるの、仕事の前にむっくんに会えて母さんは嬉しいよ。今日は頑張っちゃうんだから」
と言って嬉しそうに笑う母さん。その姿は母親というよりも無邪気な子供に近いかもしれない。ただ単に母さんが子供っぽい体格をしているからなのかもしれないけど。
「……そっか」
なんだかこっぱずかしくて顔を下に向ける。
すると母さんの隣でやり取りを見ていた骸骨の黄泉路が肩をすくめる。
「シスコンでマザコンってあんた、どうしようもない変態ね」
「別に俺はシスコンでもマザコンでもないからな」
「あっそ」
冷ややかに答える黄泉路。
「ところでお前は何をやってるんだ?」
「何って見てわからないの」
そう言われて辺りを見回してみると糸に生地、裁縫道具といった服飾に関係しそうなものばかりが置いてあった。そしてちゃぶ台の上には綿がはみ出て惨殺死体みたいな状態になったぬいぐるみらしき物体があった。
「惨殺死体ごっこか?」
あんまりいい趣味とは言えない。それに妹の教育上よろしくない。
「はあ? あんたの目は節穴なんじゃないの。どうみたってぬいぐるみ作りに決まってるでしょ。さっき三人で作ってたのよ」
よくよく見れば辺りに出来のいいぬいぐるみが二つ出来上がっていた。おそらく母さんと鈴が作ったやつだ。
「じゃあこの惨殺死体みたいなのは作成途中だったのか」
俺はズタボロのぬいぐるみを拾いながらそう言う。そしたら黄泉路が恥ずかしそうに答える。
「いや、そ、それはそれで完成というか……失敗作というか……」
「……お前って本当に不器用だよな」
俺はあきれるように言うと、黄泉路はふて腐れる。
「うっさいわね! 今回はたまたま調子が悪かっただけよ」
「調子が悪いって言うけど、そう言ってこの前料理を焦がしただろ」
「……うっ」
「それにアイロンをかけたら焦げ跡を残すし」
「……ぐっ」
「しまいには洗濯機の中に頭蓋骨落として洗濯物と一緒に回ってたし」
「しょうがないでしょ、今までアイドルの仕事が忙しくて家事なんてやってこなかったんだから。それに誰だって一度はやるミスじゃない」
「いや、洗濯機のは誰もやらねえよ」
生身でやったらホラーだよ。
でも黄泉路なりに家事を覚えて少しでも手伝いたいって気持ちはわからないでもない。俺だって養子になったとき、何もしないでいるのが申し訳なくて家事を覚えたりしたからな。
「ほらほら、ケンカしないの」
と言って母さんは笑顔で仲裁に入る。それに続いて鈴も楽しそうに言う。
「ケンカするほど仲がいいっていうけど、二人とも本当に仲がいいよね」
「「仲良くない!」」
声がハモった。
「ちょっと? なにマネしてるのよ」
「それはこっちのセリフだ!」
お互い睨み合う。
するとそこに魔法使いの女の子が表紙のDVDを持った鈴が間に入ってきた。
「兄ちゃん兄ちゃん。ミヨさんばっかりと仲良くしてないでみんなで一緒にアニメ観ようよ」
別に黄泉路と仲良くしているつもりはないんだけど。
「そうだな」
俺だって別に好き好んで黄泉路とケンカしたいわけじゃないしな。むしろ毎回失敗しても諦めないでチャレンジするところはすごいと思ってる。
でもなぜかいつもケンカ口調になっちゃうんだよな。
「鈴音、あんた裁縫の練習はいいの?」
黄泉路が鈴に尋ねる。ぬいぐるみは裁縫の練習で作っていたのか。忘れていたけど昔母さんが服飾の練習になるからっていって鈴と一緒にぬいぐるみを作ってたな。そんで出来上がったらぬいぐるみをネットで売って材料費に充ててたっけ。
俺も昔作ったけど、あんまり手先が器用じゃなかったせいで出来がよくなかったな。そのせいで売物にならなかったから鈴にあげたっけな。今でも鈴はその潰れたカエルみたいな不細工なぬいぐるみと一緒に寝たりして大切にしてくれてるみたいだけど、俺としては苦い思い出だ。
「うん。練習も大事だけど、こうやってみんなでアニメを観て楽しく過ごすのも大事だから」
「……そうね」
どこか羨ましそうに鈴を見つめる黄泉路。
「さあ早くみよみよ!」
黄泉路とは対照的に興奮気味の母さん。この中で一番楽しそうだ。そういえば母さんも鈴と同じでアニメ好きだったな。
鈴がDVDプレイヤーにDVDを入れて俺たちは四人でアニメを観る。鈴と母さんは楽しそうにはしゃいでいたけど、黄泉路だけはどこか元気がなかった。
その夜、黄泉路がどっかに出かける物音のせいで目が覚めた。
時間は夜の一時。
今まで放っておいたけど、何でいつもこんな時間に出掛けるのか気になって俺は後をつけてみることにした。
その途中、警察官に職務質問されている人がいた。
「君が最近噂になってる不審者かね?」
「なにをいっておる。我はこの町の平和を守る――」
「はいはい。とりあえず詳しい話は署で聞こうか」
「おのれ! 警察もすでに敵の手に落ちていたか! こうなったら」
と言って職務質問されていたヒーローマントを着た不審者はものすごい勢いで逃げ出した。
……なにやってるのあいつ。
今の出来事を見なかったことにして俺は黄泉路のあとをつける。
黄泉路をつけて着いた場所は公園だった。
しかしこんな夜遅くに公園に何の用だ? 公園ははシンと静まりかえって人っ子一人いない。
何しに来たんだ?
黄泉路は周囲をキョロキョロと見回してから踊りだした。
ダンスの練習をしてるのか。
あいつがいつも夜に出掛けてたのは夜中にダンスの練習をするためだったのか。
でもあいつは元の身体に戻る気がないとかいいながら何で練習を続けてるんだ? あの身体ならそんなこと必要ないはずなのに……。
不思議に思いつつも俺は黄泉路の練習を声をかけることなくただ黙って見守っていた。




