1話 死神に襲われた少年
六月も残すとこあと少し。
梅雨も終わってジメジメした季節からセミの鳴き声がこだまする夏本番といった季節になった。
鈴と仲直りして一週間が経った。あの後、鈴がケンカした相手のところに謝りに行ったりと大変だった。けど向こうも悪く思っていたのかすぐに許してくれたようだ。
そしてあの神様が言っていたタイムリミットの一か月まであと二週間。
黄泉路は本当に元の身体に戻る気がないのだろうか?
前はあんなに戻りたがったくせに急にどうしたんだ。
本当にこれでよかったのか?
あんだけ元の身体に戻ることに執着していたあいつが急に態度を変えるなんて不可解だった。何かあったのか?
って何で俺はあいつの心配なんかしてるんだよ。あいつなんかの心配してるよりも勉強をしなくちゃいけないのに。
……。
…………。
………………。
おかしい。
勉強にまったく集中できない。
昼休みのうちに今日の授業の復習をしておきたかったけど全然頭の中に入ってこない。
何でこんなに俺は黄泉路のことが気になって仕方ないんだ。
「むっくろー!」
「うおっ!」
俺が悩んでいるとクリスが嬉しそうにやってきた。そのせいで俺はビクッと驚いてしまった。
「な、何の用だ?」
「んっ? 急にあわてて夢玄どうしたの?」
クリス不思議そうに首を傾げる。
「な、何でもない。それより何の用だ?」
「あっ、そうそう、これまた大変なんだよ」
「大変?」
いつも大変というがクリスの言う大変って大概大変じゃないんだよな。
「実は今度は死神が出たんだよ」
「死神?」
「そう。黒いローブを着た骸骨らしいんだけどね」
たぶんそれは黄泉路のことだ。
「も~、反応が薄いなぁ。また信じてないでしょ」
とふくれっ面で言うクリスだったがすぐに得意満面の笑みを浮かべる。
「でも、いつも信じない夢玄のために今回はその死神を実際に見た人を連れてきたんだから」
と言ってクリスは教室の外で待機している目撃者を呼ぶ。
「お~い」
クリスに呼ばれて入ってきたのは制服の上に赤いヒーローマントを着た太った男。なんかどっかで見たことのある姿だ。
太った男は俺らの前にやってくると不快になる高笑いをしながら自己紹介してきた。
「ふははは。我こそこの町の正義の使者、ジャスティス、だ!」
最後にビシッと決めポーズまで決めてきた。
ああ、こいつどっかで見たことがあると思ったらこの前公園で会った変質者か。暗くてあんま顔を覚えてなかったけど、こんな変なやつ他にいないだろうし。できることならもう二度と出会いたくはなかったけどな。向こうは俺に気付いてないみたいだ。
そういえばこいつ、黄泉路を見て真っ先に逃げてたよな。
「彼が死神を目撃した横島正義くんだよ」
「クリス殿。我は正義ではなくジャスティスだ」
「わかったよ、正義くん」
「全然わかっておらぬ!?」
なんかめんどくさそうなやつだな。うちの学校の制服を着ているということはこいつも生徒なのか。
「つーか、クリスは校内に友達がいたんだな」
俺はあまり関わりたくないタイプだけど。
「何を隠そう我とクリス殿は――」
「えっ? 彼とは友達じゃないよ。さっきそこの廊下で知り合っただけだよ」
「ふははは。ヒーローというのは常に敵が多いゆえに我は友などいらぬ、作らぬ、作らせぬ! ヒーローとは孤独なのだからな」
変質者の横島はヒーローマントをたなびかせながらそう言う。心なしか目が潤んでいると思うのは俺の気のせいだろう。
そんな横島を気にすることなくクリスは嬉しそうに笑う。
「安心して、ボクは夢玄だけのものだから」
何を安心すればいいんだ? とりあえず両サイドに座る女子が俺たちを生暖かい目で見守っているせいで安心できない。
「く、クリス殿。そろそろ我の話をしてもよいかの?」
クリスにハッキリ友達じゃないと宣言されたせいか、横島はどこか他人行儀に喋る。
「そうだね。正義くんの話を夢玄に聞かせてあげてよ」
俺は特に聞きたいわけでもないのに勝手に話を進める二人。そして横島は偉そうな咳をして話し始める。
「そう、あれは満月の夜だった。闇の勢力が強まる丑三つ時。我がいつものようにこの町のパトロールをしていた時にやつが初めて現れた」
なぜか物語を語るみたいに話す横島。あの時は満月でもなかったし、丑三つ時でもなかったはずだが。
「ちょうど我は一人の女子をその女子の兄と一緒に救出したときでな、油断しておった。奴は背後から我に忍び寄ると《死神の鎌》を振り下ろしてきおった。もしこの神々の加護をうけたマントがなかったら……」
チラリとマントを見つめる横島。
おい、そのマントどんだけハイスペックなんだよ。
「なんとか致命傷を避けた我だったが傷は深くてまともに戦える状態ではなかった。我は死を覚悟した。だがその時、先ほど助けた女子の兄がやってきた。『ここは俺にまかせてお前は逃げろ!』、そういって我を逃がしてくれたのだ。だが彼は……」
横島はグッと握り拳を悔しそうに握りしめる。おい、人を勝手に殺すな。
「大変だったね」
クリスが心配そうに言う。どうやらクリスは横島の言うことを鵜呑みにしている。鵜呑みというよりアニメ好きのこいつはそう信じたいだけかもしれない。
「ねっ? 夢玄」
「そうだな」
確かに大変だ。だって俺殺されてるし。
そもそも自分に都合よく脳内補完されているせいで事実と全然違うんだけどな。かといって訂正するのもめんどくさいから突っ込まないけど。
「それ以来我は彼の無念を晴らすために死神を探してるのだ。そして見つけ出してこの《正義の雷》を叩き込んでやる」
と言って横島は得意げに《正義の雷》を見せてきた。
骨に電気は効くのか? まあそもそも黄泉路は格闘技をやってたみたいだしこんなやつにやられたりしないだろう。
「ふははは! やつは我が捕まえてみせよう」
自信満々に言うけど、それよりも自分が警察に捕まらないようにするのが先じゃないのか。
その後クリスと横島が死神について憶測しているのを聞いて、俺は黄泉路のことでもやもやを抱えたまま勉強をすることにした。




