1話 とある昼休み
「歩く骸骨?」
俺は目の前にいる童顔のクラスメイトが言ったことの意味がわからず、つい聞き返してしまった。
すると目の前のクラスメイトは両手を広げて嬉しそうに語る。
「信じられないでしょ! 理科室に置いてあるような人の骨の模型みたいなのが街中を闊歩してるなんて。だけど実際に見たって子がいるんだよ」
高校二年生になって何を言ってるんだこいつは。
「くだらないな。どうせ何かの見間違いとかだろ。筋肉がないのに骨だけで動けるわけがないだろ」
あきれる俺に対してクラスメイトは力強く言う。
「いいや、見間違いなんかじゃない。きっと現実だよ!」
拳をギュッと握り締めて力説するクラスメイト。
「……お前ってそういう非科学的みたいなのが好きだったっけ?」
どちらかというとそういうので騒ぐのは妹のあいつな気がする。
「だって骸骨が歩き回るなら、美少女の妖怪や幽霊がいてもおかしくないだろ?」
目を少年のようにキラキラ輝かせながら言う。動機は不純だが。
「骸骨も妖怪も幽霊もいるわけないだろ。だいたい何で魑魅魍魎なのに美少女なんだよ」
「何言ってるだ夢玄! 最近のアニメだとそういった類は美少女と相場が決まってるじゃないか。まったく、バカだなぁ」
やれやれと肩をすくめるクラスメイト。何でそんなことでバカにされなきゃならんのだ。
だがアニメオタクのこいつらしい理由だ。まあ、最近のアニメやらマンガだとそうなのかもしれないな。映画だって幽霊役の人とか美少女だったりするし。貞子とか。
でも、くだらないな。現実とアニメは違うのだから。
「バカはどっちだよ」
「夢玄だよ」
俺の嫌味にさわやかに即答する。
普通ならイラッとするがこいつ相手にこんなことでイライラしてたら身が持たない。
俺は目の前にいるクラスメイトを見る。
金髪碧眼で中世的な顔立ち、背は低くて子供っぽいが俺と同じ年の高校生だ。こいつはクリス。つい最近この学校に転校して転校生だ。
「ん? どうかした?」
やたらと流暢な日本語で話すクリス。
もうかれこれ三年ぐらい日本にいるみたいで日本語が上手い。本人曰く、アニメを観て日本語を覚えたとか。そんなんで本当に言葉を覚えられるのだろうか? 俺にはとてもじゃないが覚えられない。
「別に。つーか何でお前は貴重な昼休みに話しかけてくるんだ? 俺の勉強の邪魔をするな」
クリスのくだらない話のせいで貴重な勉強時間が削られた。
しかしクリスは悪びれた様子もなく話す。
「まあまあ、お互いクラスでは一人ぼっち同市仲良くしようよ」
「言っておくが、俺はお前と違って友達が作れないわけじゃない。友達を作らないだけだ」
友達なんていてもろくなことがない。
それどころかくだらない人間関係のいざこざで時間を浪費させられる。
時間は有限だ。
限られた時間を無駄なことに使いたくない。
だから俺は友達を作らない。
「でも結局は一人ぼっちじゃん」
クリスは屈託のない笑顔で言う。
「……まあそうだな」
言ってることは間違ってないから否定できない。
「それにしても何でみんなはボクが話しかけると避けるんだろうね? やっぱボクが外国人だからなのかな?」
不思議そうに首を傾げるクリス。
まあ確かにそれも一つの理由だろう。
「どちらかと言うと制服の下に来ているTシャルのせいだろ」
俺は制服の上から透けて見えるほぼ裸同然の美少女のイラストが描かれたTシャツを指差す。
「そんなものを着ていれば普通は誰だって話したくないだろ」
「そうなの?」
「そうなの」
そんなもん着てるやつと仲良く話していたら自分まで同類に思われるからな。
「学校で友達を作りたいならそういった趣味は学校では隠せ」
最近はオタクに対して世間の目は寛容になってきてるといっても学校でオタクだと認知されると困るだろうしな。
だが目の前のオタクは納得できないようだ。
「それはおかしいよ。何で好きなことを隠さないといけないんだ。好きなことはは好きだと言って何が悪いのさ!」
と熱弁するクリス。
「あっ! でもボクには夢玄がいてくれるから周りのことなんて関係ないけどね」
と言ってクリスはいきなりコアラみたいに俺にギュッと抱き着いてきた。
一応言っておくがクリスは男だ。
金髪碧眼で中世的な顔立ちをしているが男だ。制服だって女物ではなく男物を着ている。
だからクリスの問題発言のせいでさっきまでざわついていた教室がシーンと静まり返る。
そしてすぐさまクラスメイト達のあらぬ憶測が飛び交う。
「今のって」
「やっぱりあの二人は……」
「ただれた関係」
「不潔」
「どっちが受けなのかしら」
「きっと夢玄くんは誘い受けね」
「今年の夏が熱い」
クリスのせいで変なウワサが広がってしまった。
「おい、クリス。お前のせいで誤解されたらどうする」
「誤解? 何が?」
何のことかわからないといった感じでクリスは子リスのように可愛らしく小首をかしげる。
「……っ」
こいつ、わざとやってるんじゃないかと疑いたくなる。
俺はため息交じりで言う。
「何でもない」
どうせ変なウワサが流れようと大して気にすることじゃない。
しょせんはウワサだ。
それにクラスメイトからどう思われようと俺には関係ない。俺は友達を作りに学校に来てるわけじゃない。
「で、用件は骸骨のことだけか? それなら俺は勉強に戻るぞ」
なるべく勉強できるうちに勉強をしたいからな。
「えー、もう少し話そうよー」
クリスはぶーっと頬を膨らませて不服そうに言う。
「この学校じゃ話してくれるのは夢玄だけだしー」
「だったらオタク趣味を隠せ。それに話すって言っても基本的にお前が勝手に話しているだけだけどな」
それでもこいつからしてみれば誰かと話せるだけ嬉しいのかもしれないな。
しかしこいつの話す内容は大半がアニメとかの話で俺にはついていけない。タイトルに「ん」がつく作品は人気が出るとか正直どうでもいい。
だから俺は勉強をしながら適当に対応している。
なのにクリスはいつも俺に話にやってくる。
「もし、女の子が空から降ってきたらどうする?」
「警察に連絡する」
何の脈絡のない質問だったが即答する。
「なんで!?」
俺の答えに不満そうなクリス。
「だって人が空から落ちてきたまず助からないだろ。それに空から人が落ちてくるなんて自殺か殺人事件の可能性が高いな」
そういった事件は警察に任せるのが一番だ。
しかしクリスは俺の答えに納得できないらしく、文句を言ってきた。
「現実的すぎるよ! もっと夢を持とうよ」
こいつは俺にどんな回答を求めてるんだ?
クリスはじゃあ、と言って次の質問をする。
「突然女の子が家に押しかけてきたらどうする?」
「警察に連絡する」
どうするもこうするもないだろ。だって不法侵入だろ、それ。
つーか人の家に押しかけるとかどんだけ図々しいんだよ。なまはげかよ。
だがまたしても俺の答えに満足いかないクリスはうーっと唸って俺の机に頭を突っ伏してきやがった。
おかげで机に置いてあった参考書やノートがクシャクシャになった。
「おい、参考書を汚すなよ」
「夢玄は夢がないなぁ。そんなんじゃラノベ作家になれないぞ。まったく、そんなんだから夢玄は呼び出しをくらうんだよー」
「はっ?」
呼び出しだと。
クリスの言ってる意味がわからなくて、俺は机の上でつまらなそうに頭をゴロゴロと転がしているクリスに確認する。
「今なんていった?」
「夢玄は夢がないなぁ?」
「それじゃない!」
「そんなんじゃシナリオライターになれないよ?」
「違う!」
「あっ、ラノベ作家だっけ?」
「ラノベ作家だろうがシナリオライターだろうがどうでもいい! そうじゃなくて呼び出しってどういうことだよ」
ゴロゴロと転がっていたクリスはピタリと動きを止めて答える。
「あれっ? 言ってなかったっけ? さっき青葉先生が大切な話があるから職員室に来いって伝えてくれって頼まれたんだ」
「聞いてない。そういう大事なことは早く言え!」
聞いていたらこんなところにいるはずがない。
「だってボクにとっては夢玄と話す方が大切さ」
「お前の優先順位なんて知るか!」
俺はすぐさま席を立つ。
そしてクリスの首根っこを掴んで職員室へと向かう。
「わっわわ! く、苦しいよ」
「うるさい。一緒に来て遅れた理由を説明しろ」
「えー」
不服そうなクリスには一切気にせず、ズルズルと引きずっていく。
クラスメイトに嫌われるのはいいが、教師に嫌われるのは困る。
勉強ばかりして、教師のご機嫌を取ろうとする俺はきっと典型的なクラスの嫌われ者に違いない。
だがそれでも俺は構わない。




