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骨まで愛して!  作者: 木山知
3章
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4話 本当の兄妹

 夏場だから日が延びているとはいえ、空は大分暗くなってきた。


「全然見つからないわね。何か心当たりないの?」


 鈴を探して一時間ぐらい経つと黄泉路がイラつきながら聞いてきた。


「心当たりかぁ……」


 鈴は活発に遊ぶタイプじゃない。だから鈴が行きそうな本屋に図書館、おもちゃ屋、大型ショッピングモールといった辺りはもう探した。他に鈴が行きそうなところなんてあったか……?


「あっ!」


「あるのね」


「お前と出会った公園だ」


「あの公園ね。でも何で?」


「確証はないんだけどな。あいつは普段公園じゃ遊ばないし。でも、一度だけ俺と一緒に公園で遊んだことがあったんだ」


「一度だけ?」


「俺の父さんが死ぬちょっと前なんだけどな。再婚の顔合わせみたいの時に俺と鈴は二人でこっそり抜け出してあの公園で遊んだんだ。大人同士でなんだか難しい話をしてたし。そのあと二人に怒られたけどな」


 今振り返ってみると、俺はそれ以来鈴とまともに遊んであげたことがあっただろうか。養子になってからは母さんに負担をかけないように特待生になるため勉強ばっかだった。あとは空いてる時間に一緒にアニメを見ることぐらいしかしてあげてない。


「けど、本当に鈴がその公園にいるとは限らないけどな」


 鈴だってそんな前のことを覚えてるかわからない。俺が中学一年だから鈴はあの頃はまだ六歳だし。


「手がかりがないんだしとりあえず行ってみるしかないでしょ」


「そうだな」


 俺と黄泉路は公園へと向かった。




「イヤ――――――――――――――――――――――!」




 公園に着くと、耳につんざくような悲鳴が聞こえてきた。


「この声は、鈴だ!」


「あっちから聞こえたわ」


 俺たちは急いで声が聞こえた方へと走り出す。


「あそこだ!」


 遠いことと暗いせいであまりよく見えないが、ベンチに座る鈴を太った男が鈴の手を引っ張って無理やり連れて行こうとする姿が目に映った。


「鈴!」


 俺はとっさに叫んだ。そこにいる太った男が最近ウワサになっている子供を狙う事件の犯人なのか。


「なぬっ」


 俺の声を聞いて太った男が慌てる。


「くっ、かくなるうえは」


 太った男は鈴を抱えて逃げ出す。


「あっ、待て!」


「待ちなさい!」


 俺と黄泉路が急いで太った男を追う。

 しかし太った男が体型の割に俊敏だったことと距離が離れていたせいで中々追いつけない。


「くそっ、こうなったら」


 俺は隣で走っている黄泉路の頭蓋骨を掴む。


「わるい、黄泉路!」


「へっ?」


「おりゃあああああああああああ!」


 俺は黄泉路の頭蓋骨を太った男に向かって投げつける。


「いやああああああああああああ!」


 頭蓋骨はレーザー光線のように真っ直ぐ飛んで、太った男の頭部に直撃した。


「あだっ!」


「ぼへっ」


 太った男は黄泉路の頭蓋骨が直撃した衝撃で地面に倒れる。

 一方黄泉路の頭蓋骨は太った男に直撃すると奇声を上げて地面に転がった。


 鈴は太った男が倒れて自由になった隙に急いで俺の元へと駆けてくる。


「に、兄ちゃん!」


「大丈夫だったか」


「う、うん。恐かったよ」


 目をウルウルさせる鈴を俺はグッと抱きしめる。


「イタタタタ」


 太った男が頭を押さえながら起き上ってきた。

 俺はすぐさま鈴の前に立って盾になる。


「下がってろ鈴」


「うん」


 鈴は俺の服の裾を心配そうにギュッと握りしめる。

 起き上った太った男は俺に向かって怒鳴りつけてくる。


「お主、物を投げるなんて危ないだろ。怪我をしたどうする!」


「黙れ犯罪者」


 俺がそう言うと太った男は心外だといわんばかりに突っかかってくる。


「誰が犯罪者だ。(われ)の姿をよく見ろ」


「……?」


 俺は目を凝らして太った男の姿をよく見る。

 全身青タイツに赤いヒーローマントを付けたデブ。


「変質者?」


「違う! 正義のヒーローだ」


「ヒーロー?」


「フッフッフ。そう、我こそこの町の平和を守る正義の使者、ジャスティスだ」


 と言って変質者は決めポーズを決めてドヤ顔でこっちを見てきた。

 ……なんだこいつ。


「ジャスティスとか安易な名前だな」


「なっ、なぬ!?」


 ビクッと身じろぐ変質者。何で驚いてんだよ。


「だいたいうちの妹を誘拐しようとくせに何が正義のヒーローだよ」


「誘拐だと! 我は、そこの女子(おなご)が夜遅くにこんなところにおったから保護しようとしただけだ」


「だったら何で俺が来たら逃げたんだよ」


「うっ! そ、それは気分が盛り上がってきてついお主らが悪の組織の一味だと脳内変換してだな……」


 もごもごと口ごもる変質者。


 なんてはた迷惑なヒーローなんだ。もしかして今ウワサになっている子供を狙う事件はこいつのはた迷惑な行動のせいかもしれないな。とりあえず警察に通報するべきか?


「そんなことはどうでもいいのよ!」


 と言ってきたのは夜の闇の中からぬっと姿を現した黄泉路だった。なんか機嫌が悪そうだな。


「ぎょええー! 死神いいいいいいいいい!」


 闇の中から現れた黒いローブを着た骸骨姿の黄泉路を見て、変質者は悲鳴を上げてなりふり構わず逃げ出した。


 ……仮にもヒーローだろうが。


「誰が死神よ、失礼しちゃうわね」


 腰に手を当てて不快そうに言う黄泉路。


「そうだな。鎌を持っていたら完璧に死神だったんだけどな」


「うっさいわね。それよりもあんたはあたしに謝ることがあるでしょ」


「謝ること?」


「人の頭蓋骨投げといてしらばっくれるんじゃないわよ!」


「ほら、それだったら投げる前に『わるい』って言っただろ」


「そんなんで納得できるわけないでしょ!」


「……そうだな」


 俺は大きく深呼吸してから素直に頭を下げる。


「あの時は鈴を助けることで頭がいっぱいだった。悪かった」


「えっ、ま、まぁ分かればいいのよ」


 俺が素直に謝ったことに黄泉路は多少たどたどしくなるが、すぐに偉そうに腕を組んでフンッと顔を逸らした。

 そこにまだ目に涙を溜めていた鈴が俺と黄泉路の前にやってくる。


「に、兄ちゃん、ミヨさん。心配をかけてごめんなさい」


 ペコリと頭を下げて謝ってくる鈴。


「……鈴」


「別にあたしは心配なんかしてないわよ! そこにいるシスコンがあたしに協力してくれって泣きながら言うから一緒に来てあげただけよ」


 素直じゃないやつだ。

 そんな黄泉路に、鈴は涙をゴシゴシ拭きながら言う。


「ミヨさんって、やさしいですね」


「や、やさしくなんかないわよ!」


 と言うと黄泉路はくるりと踵を返して鈴に背中を向けて歩き出す。


「ミヨ、さん?」


「あとはあんたら兄妹の問題でしょ。あたしは先に家に帰ってるわ」


 そう言い残して黄泉路は夜の闇へと消えていった。


「あいつ、変な気を遣いやがって」


 思わず呟く。

 家の鍵を持たずにどこに帰るつもりなんだよ。


「鈴、腕のケガは痛むか?」


 俺はひっかき傷のある腕を指差す。


「……ううん」


 と鈴は首を横に振って答えると顔を下に向ける。そしてしばらくすると顔を上げて俺を見つめる。


「ねえ? 兄ちゃんは鈴の兄ちゃんだよね?」


「……鈴」


 俺を見つめる鈴の目は不安で涙があふれそうになっていた。


「鈴と兄ちゃんは顔も似てないし性格も似てない。それになにより髪の色だって全然違う……」


 俺の髪は鈴と違って黒い。顔や性格が違うことはそこまで気にならなくても、髪の色が違うのは明らかに血が繋がってないことを実感させられる。

 やっぱり俺はバカだった。

 俺が不安だったように鈴だって俺と同じように兄妹の関係に不安だったのかもしれない。そんなことにも気付けなかったなんて……。


「やっぱり血が繋がらないと兄妹になれないのかな? 血が繋がらないと家族になれないのかな?」


 鈴は半泣きになりながら言う。


「今日学校で友達に言われたの。鈴と兄ちゃんは血が繋がってないから兄妹じゃないんだよって」


 着ている服の裾を鈴は悔しそうにギュッと握りしめる。


「鈴は必死に違うって言ったんだけど、その子がずっと否定し続けるからそれで鈴もカッとなってその子とケンカになっちゃって……」


 それで鈴の腕にひっかき傷とかがあったわけか。


「家に帰ってからもそのことが頭の中でぐちゃぐちゃになってて」


 だから家で泣いていたのか。


「でも兄ちゃんに変な心配とかかけたくなかったし」


 俺は今にも泣きそうな鈴の頭に手をポンッと乗せる。


「バカだな鈴は」


 バカはもちろん俺だ。もっと早くこの言葉を言えてればよかったのに。俺はそんな不甲斐ない自分を押し殺して母さんみたいニコッと笑いながら言う。


「俺たちは兄妹だろ」


 そう。血の繋がりがなんだっていうんだ。血が繋がってなくても俺の母さんは赤月紅葉で、妹は赤月鈴音だ。


「兄妹なんだからそんなことは気にするな。今度からはちゃんと俺に相談してこいよ」


「じぃぢゃん」


 鈴は顔を上げると涙をポロポロ流して一緒に鼻水を流すほど顔をくしゃくしゃにしていた。


「じいちゃんじゃなくて兄ちゃんだろ。ほらこれで顔を拭いとけ」


 と言ってハンカチを手渡そうとするが鈴は首を横に振る。


「どうした」


「じぃぢゃんが拭いて」


 そういって鈴はキスをするみたいに目を瞑って顔を俺に差し出す。


「しょうがないやつだな」


 俺はハンカチで鈴の顔を拭ってやる。


「ほら、これでいいだろ」


「うん」


「よし、じゃあ帰るぞ。早く帰らないと黄泉路がうるさいからな」


「だね。兄ちゃん、今日の夕飯はなに?」


「今日はハンバーグだ」


「マヨネーズ入りの?」


「もちろんだ。帰ってからさっそく作らないとな」


「やった!」


 両手をバンザイみたいに上げて嬉しそうに笑う鈴。


「兄ちゃん」


「今度はなんだ?」


「手つないで帰ろっか」


 そう言って鈴は小さな手を俺に差し出す。


「わかったよ」


 俺は鈴の小さな手を大事そうに握りしめて家へと向かって歩き出す。

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