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骨まで愛して!  作者: 木山知
3章
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2話 俺たち兄妹

「あんた、追いかけないのね」


 しばらくすると一部始終を見ていた黄泉路がそんなことを聞いてきた。


「ああ」


 俺は素っ気なく返す。

 もう日が暮れている。早く追いかけていってやらないと危ないことだってわかってる。最近は不審者が出るって話もある。

 だけど俺は鈴を探しに行けなかった。

 追いかけていって鈴に何て声をかけたらいいのかわからない。


「あっそう」


 と言って黄泉路は肩をすくめる。


「でもなんか意外ね」


「意外?」


「だって普段冷静なあんたが妹が泣いていたぐらいであんなにも取り乱して感情むき出しに大声を出すなんてね。そんなに妹が大事なの?」


 黄泉路の質問に俺は物憂げに答える。




「当たり前だ。だって俺とあいつは血が繋がってないんだから」




 すると黄泉路は急に俺を汚物でも扱うような態度を取ってきやがった。


「うわっ、変態」


「おい! 言っておくがお前が考えているような不純な理由じゃないからな」


「じゃあどういう理由なのよ」


「俺はそもそも母さんとも血が繋がってないんだよ」


「そうだったの」


 俺の話を聞いた黄泉路のトーンが少し下がる。


「血も涙もないやつだと思っていたけど、まさか本当に血がなかったのね」


「おまえ、ケンカ売ってるのか」


 それだと血が繋がってない以前に血がかよってないだろ。

 人が真面目に話してるのにふざけやがって。


「えっ? 何で?」


 キョトンとした声を出す黄泉路。

 違った。こいつ本気で言ってやがる。


「俺は父さんの連れ子で鈴は今の母さんの連れ子なんだよ」


「なんだ、そういうことだったの。それならそうとハッキリ言いなさいよ。まったく、紛らわしいわね」


 黄泉路は腕を組んで納得する。


「つまり、あんたたちの両親が再婚したのね」


「いや、正確に言うと再婚はしてないだけどな」


「どういうことよ?」


 首を傾げて言う黄泉路に俺は少しためらってから話す。


「……俺が中学一年のときだった。再婚する前に父さんが交通事故にあって死んだんだ」


「そう……だったの」


 シュンと申し訳なさそうにうなだれる黄泉路。


「ああ。それで身寄りがなかった俺を養子として引き取ってくれたのが鈴の母さんだったんだ。あの人は再婚相手の子供といっても他人である俺を嫌な顔せず引き取ってくれたんだ」


 俺の話を聞いて黄泉路は納得するように答える。


「あの人ならそうしそうよね。あたしのことも何にも疑わずに家に置いてくれるし」


 そう。あの人は困ってる人をほっておけない人なんだ。


「だからこそ俺は余計に負い目に感じるんだけどな」


「えっ? どうして?」


「黄泉路、子供を一人育てるのにいくらかかるか知ってるか?」


「いくらって……三百万、ぐらい、かしら?」


 黄泉路はたどたどしく答える。


「違う。その十倍の三千万だ」


「げっ! そんなに」


「子供を育てるってのは金がかかるんだよ」


 サラリーマンが生涯稼ぐ金額が約三億。でも鈴の母さんは飲み屋の雇われママだからもっと稼ぎは少ない。そんな状況で子供を育てるのは厳しい。

 それに、父さんが死んで出た保険金は葬式代で全部使ってしまったから教育費や養育費は鈴の母さんが負担してくれている。

 その負担を軽くするために俺は友達を作らずに勉強して特待生を維持している。けど、それでもお金はかかる。

 高校を辞めて働くことも考えた。だけど将来のことを考えるとやめることができなかった。

 しょせん俺は損得で物事を考えてしまうちっぽけな人間だ。そのせいで母さんに迷惑をかけてしまって情けない。


「もし、俺を養子にしなかったら鈴だって好きなアニメグッズとか集めたりすることだってできたかもしれないのにな」


 それに部屋だって自分の部屋が持てただろうし、服を作るのに役立つミシンだって買えただろうに。


「じゃああんたが日頃妹に甘いのは……」


「そうだよ。あいつには俺のせいで不自由な思いをさせているからな、俺なりにせめてもの償いだよ」


「だからあんたはあの時たかがマヨネーズ一本のためにわざわざ買い物してたのね」


「ああ」


 俺のせいで迷惑かけてるから鈴には少しでも不便な思いをしてほしくなかった。


「もしかしてあんたがいつも学校の帰りが遅いのは鈴と母親が二人でいる時間を邪魔しないためなの?」


「そうだよ」


 そのために俺はいつも学校で勉強して時間を潰して帰るのを遅くしていたんだ。

 母さんには仕事に行くまでの時間を、大切な家族と一緒に過ごして欲しかった。

 そのせいで俺は母さんとあんまり話す機会がなくなったけど、その方が二人にはいいに決まってる。


 まさか黄泉路がそこまで気付くとは……。


「はぁ」


 黄泉路が俺の顔を見ながらため息を吐く。


「なんだよ?」


 俺がそう聞き返すと、黄泉路はあきれるように言う。


「あんたってバカじゃないの?」


「はっ!?」


 何でよりにもよってこいつにバカなんて言われなきゃならないんだよ。


「だってそうでしょ。子供なんだから親に迷惑をかけるなんて当たり前じゃない。なのにあんたはそれを悪いことみたいに考えて、バッカじゃないの!」


 だんだん感情的に話す黄泉路につられて俺も感情的に答えてしまう。


「バカで悪かったな! でも俺の場合は親っていっても血が繋がってないんだぞ!」


「それがどうしたのよ! 血が繋がってなかろうがあの人はあんたの親なのよ。その証拠にあの人はあんたのことを心配してたわ」


「……俺のことを?」


「あんたの帰りがいつも遅いから心配してたわ。でも、自分が行くと恥ずかしがるかもしれないからってあたしに頼んだのよ」


「そ、それは保護者として心配しただけだろ」


 だって俺はあの人の子供じゃないだ。


 だって俺は血が繋がってないんだ。


 だって俺は本当の家族じゃないだ。


 だって俺は……。





「あんたって本当にひねくれてるわね。もっと素直になれないの」


「…………」


 返す言葉がなかった。


 俺は素直になれない。だってもし素直に受け取って本当は違ったら恐い。かといって母さんに俺のことをどう思ってるのか聞く勇気もない。

 だからひねくれた解釈をして自分を誤魔化す。


 俺が押し黙ってると、急にガチャっと玄関のドアが開く音が聞こえた。もしかして鈴が帰ってきたかと思ったが違った。

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