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骨まで愛して!  作者: 木山知
2章
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4話 神様の試練

「神?」


 あまりに突拍子のないことを言うので俺は思わず聞き返していた。


「といってもこの国では神の概念は多種多様だもんね。わかりやすく伝えるつもりが失敗だなぁ。まあ私も神と呼ばれるのは好きじゃないし。じゃあなんて説明したらいいんだろ」


 う~んと腕を組んで悩みだす。

 その様子をみて骸骨の黄泉路ミヨがキレだす。


「あ~もう! ごちゃごちゃうるさいわ! あんたが神だろうがクソの紙だろうがなんだっていいわよ」


「いや、クソの紙はよくないだろ」


 倫理的にもアイドル的にも。


「うっさい!」


 今にも俺に食ってかかりそうな勢いの骸骨。怒りで見境がない。

 カルシウムが足りてないんじゃないのか。


「と、に、か、く! どうしたらあたしを元の身体に戻してくれるのよ」


「それはあなたが反省したらかな」


「反省? 何であたしが反省なんかしなきゃならないの?」


 何の事だかさっぱりわからない様子の黄泉路。


「あなた、私の身体にしたことを忘れたの?」


 ちょっと意外そうに驚く黄泉路ミヨの姿をした自称神様。

 神様の身体っていうと骸骨のことか。

 しかし骸骨が動いたり神様と名乗るやつが出てきたり俺の理解を超えている。


「はぁ? あたし何かしたっけ?」


 黄泉路は首を傾げて答える。


「覚えてないの! 祠にあった私の身体を蹴とばしたくせに」


「あ~、そういえばそんなことやったわね」


「お前、かなりのクズだな」


 祠に(まつ)られてる骸骨を蹴飛ばすとかどうやったらそんなこと出来るんだよ。死者をいたわれよな。

 というかここら辺に骸骨を祀ってある祠なんてあったのか? 祀られるほどの骸骨というのはよほどの聖人ということになるな。

 前に聖人の遺骨には不思議な力が宿っているって鈴が言っていたけどこの不可解な現象はその力が原因なのか。あまり論理的じゃないがそうだとしか思えない。

 だが俺の知ってる限りここら辺に聖人が祀られてるなんて話は聞いたことがない。


「しょ、しょうがないでしょ。アイドルの(さが)ってやつよ」


「どんな性だよ!」


 フンッと顔をそらしながら言う黄泉路に俺は突っ込む。


「とりあえず反省しとけよ」


「スイマセンデシタ」


 黄泉路はあさっての方を向きながら言う。反省する気は皆無のようだ。


「やっぱり反省する気はないみたいね」


 やれやれと首を横に振ってあきれる。そして神様は黄泉路を見据えて言う。


「なら、私と勝負しましょ」


「はっ! 上等じゃない!」


 神様の申し出にすんなり引き受ける黄泉路。


「で、何で勝負するの? ボクシング? テコンドー? それとも何でもありのバーリトゥード?」


「何でどれも格闘技で勝負しようとしてるんだよ」


「あたし、小さい頃からいろんな格闘技を習ってたから得意なのよ」


 シュッシュとシャドーボクシングをしながら言う黄泉路。

 頭にきて戦う相手が自分の身体だってことを忘れてるだろ。

 神様はそんな黄泉路の提案を否定する。


「どれもあなたの試練にならないからダメね」


「試練?」


 黄泉路は一瞬訝る態度になるが、神様はきにせず続ける。


「だから勝負の内容はあなたがそこにいる赤月くんに愛してもらえたら勝ち、愛してもらえなかったら私の勝ちでどう?」


「なっ!?」


 なにふざけたことを言ってるんだこの自称神様は。


「いいわ。受けて立ってやろうじゃない!」


「お、おい!」


 正気で言ってるのか?


「じゃあ勝負しましょう。グダグダになるといけないから期限は今日から一か月。一か月過ぎてダメだったらあなたは一生その姿で過ごすのよ」


「一か月? そんないらないわ。すぐに決着をつけてやるわよ」


 自信満々で話す黄泉路は俺の正面に立って言う。


「さあ、あたしを愛しなさい!」


「断る!」


 迷わず即答する俺。

 アホかこいつは。

 だが黄泉路は気にせずもう一度言う。


「さあ、あたしを愛し――」


「嫌だ!」


「さあ、あた――」


「ムリだ!」


「ムッカー! ちょっと! ふざけるのもいい加減にしなさいよ」


「そっちこそふざけるな。昨日も言ったけど何で俺がお前をあ、愛さなくちゃならないんだよ!」


「なんでってあたしは黄泉路ミヨなのよ。愛されるのが当然でしょ」


 それがまるで一般常識のように言う。

 ああ、そうか。

 俺はチラリとアイドルの姿をした黄泉路ミヨの方を見て納得する。

 黄泉路ミヨはかなり可愛い。アイドルとして活動してるだけあって顔も小さくてスタイルもいい。

 そのせいでおそらく小さい頃から周りの人間にさんざんチヤホヤされて育ってきたんだろう。

 世の中の人は美人に甘いからな。

 だから黄泉路のやつは自分が愛されるのは当然だと思ってるんだ。

 しかし、神様はそんな黄泉路の考えをあっさり否定する。


「それは違うわ」


「な、なによ!」


「あなたは本当に愛されていたの?」


 神様は黄泉路に挑発的に言う。


「あ、当たり前でしょ」


 少し戸惑い気味に話す黄泉路。


「だってあたしの周りにいる人たちやファンはあたしが喜びそうなプレゼントをくれたりしたわよ!」

「その人たちは今のあなたでもあなたを愛してくれるかしら?」


「そ、それは……」


 言葉に詰まる黄泉路。

 黄泉路はすぐに否定できなかった。

 いや、したかったけどもできなかったのだ。

 黄泉路は自分の身体が骸骨になってから誰もまともに話を聞いてくれなかったに違いない。それどころか黄泉路の姿を見て逃げる人だっていただろう。その中には自分のファンだった人間もいたかもしれない。

 なのに自分を慕ってくれるはずのファンが自分の姿を見て逃げ出すのは相当ショックだったんじゃないだろうか。

 だから黄泉路は前と変わらずに接してくれると否定できなかった。もしかしたら今の姿を見たら逆に気味悪がられるんじゃないかと不安になったかもしれない。


「しょせんあなたに外見をとったら何も残らないのよ」


「そ、そんなことは――」


「ないって言えるの?」


「……っ!」


 神様のキツイ物言いに黄泉路はつい顔をそらす。


「ねぇ、あなたは逆にその人たちのことを愛したことはあるの?」


「はあ? 何であたしが愛さなきゃいけないのよ! 向こうがあたしを愛するのはわかるけど、何であたしがそいつらを愛さなきゃならないの」


 黄泉路は神様の質問に逆ギレしながら答える。

 神様はそんな黄泉路を鼻で笑う。


「あなたは本当の愛を知らないのね。それどころか本当は誰からも愛してもらえてないんじゃないの」


「どういうことよ!」


「誰かを愛そうとしないくせに誰かから愛してもらえるほど世の中は甘くないのよ!」


「うっさいわよ!」


 頭に血が上りすぎて罵倒も単純になってきた黄泉路。


「いい、愛ってのは恋みたいに突然芽生えるものと違って時間をかけてゆっくり育むものなのよ」


「あ~、もう! さっきからごちゃごちゃうっさい! 話が説教くさいのよ」


 怒りを抑えれなくなった黄泉路は神様に襲いかかろうとする。


「お、落ち着け」


 俺は襲いかかろうとする黄泉路を取り押さえようとするが、


「邪魔!」


「うおっ!」


「キャ!」


 逆に蹴飛ばされた。


「イテテテ……んっ?」


 ぷにゅ。

 俺がすぐに起き上がろうとすると手の平にそんな奇妙な感覚があった。

 変だと思って下を見てみるとそこにはアイドルの黄泉路ミヨがいた。どうやら蹴飛ばされた衝撃で押し倒してしまったみたいだ。


「あら、こんなところで私を押し倒すなんて大胆ね」


 ふふっと黄泉路ミヨの姿をした神様はイタズラな笑みを浮かべる。


「ち、違う! これはそういうつもりじゃなくてただの事故だ」


 俺は胸から手をどかして慌てて否定すると、今度は黄泉路が怒鳴ってきた。


「あんた、あたしの身体に何してんのよ!」


「だから違う! 元はといえばお前が蹴飛ばしたのが悪いんだろ」


「人のせいにするつもり! そんなの男だったら気合いでなんとかしなさいよ」


「ムチャ言うな! 言っておくけど俺はお前の身体になんて興味はないからな」


「ちょっと! あたしの身体に興味ないってどういうことよ! そういうのは女の子に対して失礼でしょ。あたしは常に完璧なプロポーションを維持してるんだから興味もちなさいよ。それに胸だって結構あるのよ!」


「まあ確かにデカかったな」


「この変態! スケベ! 鬼畜!」


 俺が仕方なく褒めるとものすごい勢いで罵倒された。

 何を言っても責められるのかよ。


「……じゃあ俺はいったいどうすればいいんだよ」


「とりあえず早くどいたら」


 と神様が言ってくる。


「あっ、悪い」


 黄泉路と言い合っていてまだ押し倒したままの状態だった。

 俺はすぐにどこうとするが、


「あなた、何をやってるのですか?」


 いつの間にかやってきたマネージャーさんが冷めた口調で言ってきた。


「あっ、いや、これには事情がありまして」


 俺はすぐさま立ち上がって弁明しようとする。


「事情?」


 早く説明しろと目を鋭くさせて意思表示をするマネージャーさん。

 どうやら話を聞いてくれるみたいだ。かといって正直に説明しようとしても、黄泉路のやつはマネージャーさんが来てから急に固まって動かない。黄泉路のやつ、マネージャーさんに怯えてるのか?

 一方マネージャーさんは黄泉路を一瞥するが骸骨がその場にいることにたいした疑問を持つ様子もない。

 黄泉路が動かないんじゃそこにいる骸骨に蹴飛ばされて押し倒す状態になったといってもまともに信じてもらえるとは思えない。


「えっと、その~、転んだ。そう、転んだんです。その勢いで押し倒す形になっただけなんです」


 くっ! 我ながら苦しい言い訳だ。とてもじゃないが信憑性があるとは思えない。


「……そうですか」


 意外にもマネージャーさんはあっさり納得してくれた。だけど俺は納得できずに聞き返していた。


「俺の言ったことを信じるんですか?」


「ええ。あなたのことは青葉先生から伺いました」


 おお。かなり意外だけど青葉先生がマネージャーさんに日頃の素行の良さを説明してくれたおかげで余計な誤解を招くことはなさそうだ。


「女性ではなく男性しか愛せないそうですね」


 マネージャーさんは俺から目線を逸らしながら言う。

 ……とんでもない誤解をされていた。


「そんな方がうちの子に手を出すわけがありませんから」


 そんな自信ありげに言われても困る。


「えっ、いや、その~」


「それともあなたはうちの子に邪な感情を抱いたのですか」


 俺が慌てて誤解を解こうとしたらマネージャーは目をクワッと見開いて睨んできた。


「いえ、違います!」


 とっさに否定する俺。

 マネージャーさんはそんな俺を哀れむように見据える。


「あんまり人の趣味をとやかくいうつもりはないですが、若いうちならまだやり直しがきくと思いますよ」


 余計変な誤解をさせてしまったみたいだ。

 お願いだからそんな目で見ないでほしい。

 すぐに誤解を解こうとするが、マネージャーさんはアイドルの黄泉路ミヨの姿をしている神様をどこかへ連れて行こうと歩き出す。


「さあ、次の収録があるから行くわよ」


「えっ! まだ話が――」


「そんなことしてる時間はないわ。スケジュールが押してるんだから」


 渋る神様の首根っこ掴んでズルズルと無理やり連れて行くマネージャーさん。その様子はアイドルでも神でもなく、市場に売られてく可哀想な牛のようだった


「…………」


 二人がいなくなってもまだじっと黙って動かない黄泉路。


「おい、大丈夫か?」


 つい心配になって声をかけてみる。

 すると黄泉路はこの世の終わりみたいな声で、


「なんでなの……」


 と言うだけだった。

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