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骨まで愛して!  作者: 木山知
2章
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3話 骸骨とアイドル

 骸骨はそのまま迷うことなく俺めがけて突進してきた。

 俺はとっさのことで対応ができずに突進してくる骸骨に押し倒された。


「いってぇな。何すんだよ黄泉路」


「うっさいわね。それより大変なのよ」


 黄泉路は倒れてる俺に馬乗りになってきた。さらにその状態で胸ぐらをガシッと掴んでわさわさと揺さぶってくる。


「わ、わかったから手を離せ」


「はいっ」


 黄泉路は掴んでいた俺の胸ぐらをパッと急に離す。

 おかげでアスファルト頭をぶつけた。あまりの痛みに頭を手で抑える。

 ちなみに胸ぐらから手を放しても馬乗りなのは変わらなかった。話を聞かないとどくつもりはないみたいだ。


「で、何が大変なんだよ」


 俺は渋々尋ねる。


「実はさっきあんたの母親とテレビを観ていたら――」


「おい、何でうちの母さんとテレビを観てるんだよ!」


 黄泉路の話の途中で突っ込む。

 そっちの方が俺にとっては大変だ。


「何でってあんたの弱みを握るために部屋でエロ本を漁ってたらあんたの母親が入ってきて一緒にエロ本を探してるうちに仲良くなったから決まってるじゃない」


「決まってたまるか! お前は人ん家で何やってるんだよ」


 あと母さんも黄泉路と一緒に何やってるんだよ。


「あんたの母親がエロ本がないけど大丈夫かなって心配してたわよ」


「余計なお世話だ! つーか何で母さんは普通に受け入れてるんだよ」


「それならあたしの事情を話したら素直に信じてくれたわよ。あんたと違ってね」


 嫌味っぽく言う黄泉路。


「そのうえで元に戻れるまで家にいてくれていいって言ってくれたわ」


「……」


 やっぱりか。

 お人好しのあの人の性格なら黄泉路の話を聞いたらそう言うと思った。だからこそ母さんに知られる前に黄泉路を出ていかせるべきだったんだ。


「って! そんなことよりも大変なのよ」


「何が大変なんだよ」


 親が息子の部屋にエロ本を探す以上に大変なことなんてあるのか。


「さっきテレビであたしが出演してたのよ」


 黄泉路が慌てた様子で喋る。


「はぁ? 何を言ってるんだお前は。別に出てもおかしくないだろ」


「えっ!?」


 俺の言葉を聞いて意外そうに驚く黄泉路。


「夏だし心霊特集番組ぐらいやってるだろ」


 もしくは犯罪ミステリー番組とか。

 おそらく番組に出てきた白骨死体を自分と勘違いしたんだろ。骸骨のくせに人騒がせなやつだ。


「違うわよ! あたしは妖怪じゃないって何度言ったらわかるの」


 またしても黄泉路は俺の胸ぐらを掴んでゆさゆさ揺らす。


「そうじゃなくてアイドルの黄泉路身ミヨがテレビの生放送に出てたのよ!」


「生放送?」


「たぶん生放送に出てたのはあたしの身体をこんなのにしたやつよ」


「実は自分が本人じゃないだけなんじゃないのか」


「あたしは正真正銘の黄泉路ミヨよ」


 黄泉路はハッキリと断言する。それはためらいがなく、清々しく、勇ましいほどに。


「だからテレビに出てたやつはあたしの身体をこんなのにしたやつに違いないわ。で、そいつに元の身体に戻る方法を聞けばわかるはずよ。しかもここの地元のテレビ局からの生放送だったから探せばすぐ近くにいるはず。手伝いなさい」


 冗談じゃない。地元の生放送だといってもテレビ局はここからは遠い。今から行ってもまだそいつがいる可能性だって低い。そんなムダ骨に付き合っていられるか。

 それに学校案内だって頼まれてる。


「断る。俺は彼女を案内しなきゃならないからな」


 と言って俺は目でさっきまで案内をしていた彼女を指す。

 黄泉路は俺の視線につられて彼女の方を見る。

 すると黄泉路は彼女を見て急に立ち上がって俺から離れる。そして驚き混じりで彼女を指差す。




「あ、あたしだ!」




「……えっ?」


 どういうことだ?

 俺には状況がまったく呑み込めない。

 俺がさっきまで案内していたアイドルの彼女は黄泉路ミヨで、目の前にいる骸骨も黄泉路ミヨということなのか。

 ということは黄泉路ミヨが二人いる。

 つまり、どっちも黄泉路ミヨなのか、それともどっちかが偽物ということになる。


「え? 骸骨が喋ってる」


 ポカンと空いた口に手を当てて驚くアイドルの黄泉路ミヨ。

 それに対して骸骨の黄泉路ミヨは喧嘩腰で言う。


「偽物のくせになにぶりっ子してるのよ。気持ち悪いったりゃありゃしない」


「そ、そんな、酷いです。そういうあなたが偽物なんじゃないんですか?」


「はっ! あたしが偽物なわけないでしょ」


 骸骨の黄泉路は腕を組んで勝ち誇ったように言う。

 どこからその自信が湧いてくるんだ? もしかしたらすでに頭は沸いているかもしれない。脳みそがないけど。


「そうでしょ、夢玄!」


 なぜ俺に聞く。


「そうなんですか、赤月さん?」


 目をウルウルさせながら俺の方を上目遣いで見てくるアイドルの黄泉路ミヨ。

 二人の黄泉路ミヨに見つめられた俺は骸骨の黄泉路ミヨの肩にポンッと手を置く。


「夢玄」


 嬉しそうに顔を上げる骸骨の黄泉路ミヨに俺はやさしく言う。


「大人しく成仏しろよ」


「ふっ、仕方ないわね……って何であたしが成仏しなきゃならないの! あたしは妖怪じゃないわよ」


「やっぱダメか」


「ダメに決まってるでしょ!」


 こいつが大人しく成仏してくれれば俺的には一番楽なんだけどな。


「でもまあとりあえずこの骸骨がアイドルかわからないが本物の黄泉路ミヨっていうのは信用してやるよ」


 俺は頭をポリポリ掻きながら言う。

 じゃなきゃ昨日お風呂で泣いていたのは誰だってことになっちまう。少なくとも本人じゃなきゃ泣けないはずだ。それにこいつは自分に絶対の自信をもっているからな。


「あんた……」


 骸骨の黄泉路ミヨはどこか照れたように言う。

 おい、そんな風にしおらしく言うなよ。今までみたいに小生意気な態度をとれよ。じゃないと恥ずかしいだろ。


「ふふっ」


 俺たちのやりとりを見てアイドルの黄泉路ミヨがいきなり笑い出した。


「な、何よ! 急に笑い出したりして何が楽しいの」


 突然笑いだしたアイドルの黄泉路ミヨに骸骨の黄泉路ミヨは訝るような態度になる。


「少しは落ち着きなさい」


 アイドルの黄泉路ミヨは不敵に笑うと、ツインテールをほどいて髪を下ろす。

 髪を下ろした黄泉路ミヨは明るいイメージのツインテールと違ってどこかミステリアスな雰囲気を醸し出していた。


「もう少し騙せるかと思ったけどダメだったみたいね」


「騙す? あんた、あたしに変装して何をしようとしたの!」


「変装? 違うわ。この身体は正真正銘黄泉路ミヨの身体よ。その証拠に左耳の後ろにホクロがあるでしょ」


 と言って髪をかき分けてホクロを見せてくる。

 それを見て骸骨の黄泉路ミヨは驚愕の顔をする。


「そ、そ、そ、そんなところにホクロがあったの!?」


 こいつ、知らなかったのかよ。自分のことは何でも知ってるんじゃなかったのかよ。


「なら胸の近くのところにあるホクロを見せた方がわかりやすいかしら」


 アイドルの黄泉路ミヨは服をめくって見せようとするが骸骨の黄泉路ミヨに妨害される。


「いや~! 信じるから路上で脱ぐのは止めてぇ!」


「そう、なら止めるわ」


 そう言ってヘソの辺りまで見えていためくりかけの服を戻す。

 あの黄泉路を圧倒するなんてやるな。


「それで、今あなたが使ってる身体は私の身体よ」


「ってことはつまり……」


「そうよ。私とあなたは身体と心が入れ替わってるの」


「ならさっさとあたしの身体を返しなさい! じゃないとこの身体を傷物にしてやるわよ」


 骸骨の黄泉路ミヨはアイドルの黄泉路ミヨの話を聞くとすぐに校門の壁にガンガン頭蓋骨を叩き付ける。


「ほら、早く元に戻さないとこの身体がボロボロになるわよ」


 自分の身体じゃないとわかった途端こんなことをやり出すなんて中々のクズっぷりだ。目的のためなら手段を選ばないタイプのようだ。


「ちょ、止めなさい!」


 ちょっと慌て気味のアイドルの黄泉路ミヨ。


「はんっ! だったら早くあたしの身体を元に戻すのね」


「は、話を聞かないのならこの場で全裸になるわ!」


 アイドルの黄泉路ミヨが服を脱ごうとした瞬間、


「そうね。話し合いをしましょう。話し合いこそ人類が平和になるために必要な手段ですものね」


 手の平を返すように自分の身体を守りにいった。

 他人を傷物にするのはよくても自分が傷物にされるのは嫌みたいだ。

 やはり自分の身体が最優先のようだ。

 クズっぷりもここまでいくと清々しい。


「それであなたは何者なのざます?」


 敬語を意識しすぎて語尾が変になっていた。

 そんなおバカな発言に気に留めずアイドルの黄泉路ミヨは言う。


「私? 私は神よ」

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