1話 骸骨がいる朝
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「イタタタタタ」
翌朝、背中が痛くて目が覚めた。
どうやら布団から出て床で寝ていたようだ。
おかしいな? 俺はそこまで寝相が悪くなかったはずなんだが……。
変だなと思いつつ、まだ朝食の準備まで時間に余裕があったからもう少し布団に入って休もうと布団に入るため掛け布団をめくる。
するとそこには白骨死体が転がっていた。
「うわあああ!」
素で悲鳴を上げてしまった。
「ん~、どうしたの兄ちゃん」
俺の悲鳴を聞いて隣の部屋で寝ていた鈴が、潰れたカエルみたいな不細工なぬいぐるみを持って眠そうに目をゴシゴシさせながらやってきた。
「た、大変だ。俺の布団に白骨死体が……」
「白骨死体? それってミヨさんじゃないの?」
「……んっ? そういえばあいつを俺の部屋で預かっていたな」
鈴の部屋は母さんと同じ部屋だ。だから鈴の部屋に黄泉路を置いておくわけにはいかなかった。それで俺の部屋で預かってたんだったな。
「鈴、起こして悪かったな。母さんは起きてないか?」
「大丈夫だよ。今朝方に帰ってきたみたいだし熟睡している」
「そっか」
ホッと一安心する。母さんは仕事終わりで疲れているからなるべくゆっくり休ませてあげたい。
「でも何でこいつが俺の布団で寝てるんだ? ちゃんと黄泉路が寝る場所まで提供してやったっていうのに」
「ミヨさ~ん」
「……」
「返事がない。ただの屍みたいだよ、兄ちゃん」
「こいつがただの屍なわけあるか。こういうのはこうやって起こすんだよ」
頭のあたりをコンコンと小突いてやる。
「一昔前の家電製品じゃないんだから」
ちょっと呆れ気味の鈴。
さすがにこんなんで起きないか――と思ったら、
「……んっ? 何よ、もう朝?」
目の辺りをゴシゴシさせながら骸骨が目を覚ました。
「起きた!?」
鈴が意外そうに驚く。
一方、起きた黄泉路は寝ぼけ眼な感じで周囲を見回してから俺の方を見ると、急に掛け布団を身に包んでキッと俺を睨むような態度を取る。
「何であんたがここにいるの! はっ! まさかあたしの寝込みを襲いに来たのね、変態!」
「誰がお前なんかの身体を襲うかよ」
俺に骨に対するフェティシズムはない。
「ここは俺の部屋だ。それより何でお前が俺の布団で寝てるんだよ。お前のためにわざわざ寝る場所だって用意してやっただろ」
「あんなんで寝れるわけないでしょうが!」
と言って黄泉路は茶色い陶器の壺を指差す。
「そんなこと言ってもうちには骨壷なんてないから漬物用の壺で我慢しろよ」
「別に壺に不満があるわけじゃないわよ!」
「じゃあ何に不満があるんだよ」
せっかく俺が骨ということを考慮して用意してやったのに。
「扱いよ扱い。あたしに対する扱いが骨過ぎるのよ」
「骨過ぎるって何だよ。そんな日本語存在しないぞ」
「うるいさわね! とにかくあたしをもっと人間扱いしなさいよ」
「つってもうちにはカンオケなんてないぞ」
「結局死人扱いじゃないの!」
ムキャーと黄泉路は怒るが、めんどくさいので無視する。
「さて、誰かさんのおかげですっかり眠気がなくなったから朝ごはんの準備でもするかな」
身体をほぐすため、両手を上げてグッと背伸びをする。
「鈴、起こして悪かったな。学校に行く時間になったら起こすからまだ寝てていいぞ」
「ありがとう兄ちゃん」
と言って鈴はとてとてと自分の部屋へと戻っていった。
「じゃああたしももう少し寝ようかな」
黄泉路は俺の布団に入って寝始める。
一瞬本気で永遠に寝かしてやろうと思うが骸骨を倒す方法がないので諦める。骸骨に十字架って聞くのかなぁ?
「まあ、さっさと朝ごはんの準備をするか」
俺は段取りよくいつものように朝ごはんの準備をする。ついでに洗濯物も洗濯して干してしまう。
そして準備を終えると少し勉強をする。特待生でいるために成績を落とすわけにはいかないからな。
それが終わったら鈴を起こして一緒に朝ごはんを食べる。母さんは昼ごろまで起きてこないから一緒に朝ごはんは食べない。
朝ごはんを終えると鈴と一緒に学校へと向かった。
あれから黄泉路のやつは起きて来なかったから、枕元に「起きたら出てけ」というメモを置いておいた。さすがに母さんに内緒であんなやつを置いてはおけない。それに母さんとあいつが出会うのはあまりよろしくない。
鈴を小学校まで送り届けて俺は高校に着くと、さっそく参考書を開いて勉強を開始する。
だが勉強を開始してすぐに邪魔をされた。
「た、大変だよ夢玄!」
邪魔をしに来たのは少年にも少女にも見える中性的な顔をした金髪のクラスメイト、クリスだ。
ついでに言うとクリスは男だ。そう、クリスは男だ。大事なことだから二回言っておく。
そのクリスが教室に入ってくるなり俺に抱きついてきた。
何で抱きついてくるんだよ。お前はどっかの野球チームみたいな名前をしたいじめっ子にいじめられた時のいじめられっ子かよ。俺は便利な道具を出すネコ型ロボットじゃないぞ。
ちなみになぜか右隣りの席に座っている女子がそんな俺達を見て、クールな表情を浮かべて「萌え」と呟いて鼻血をダラダラと流していた。こっちの方が大変だ。クールな表情を浮かべてないでさっさと鼻血拭け。
「抱きつくな、暑苦しい」
クリスをひっぺがすと、今度は机をダンダン叩いて騒ぐ。おかげで参考書がくしゃくしゃだ。
「それよりも大変なんだよ」
「俺の机の方が大変だよ」
お前は俺の勉強を邪魔したいのか。
しかしクリスは俺の話を聞かずに喋る。
「あれが動いたんだよ」
「あれ?」
「そう、あれだよあれ。硬くてデカいやつ」
「抽象過ぎてわかんねーよ」
あと、何で俺の席の左隣りに座ってる女子はクリスの「硬くてデカい」という言葉に反応して口から血をブハッと噴き出してるの? 「くっ、やるわね」とかカッコつけて言ってないで口元を血拭けよ。 なんか俺の両隣の席が血生臭い。
「だからあれだよ。フライドチキンのマネキンだよ」
「……」
フライドチキンのマネキンといえばカーネルサ○ダースしか思い当らない。そして昨日それと一緒に歩く人物を見かけたぞ。
「あのマネキンが動いたんだってよ。歩く骸骨に続いて今度はマネキン。これはきっとこの町に吸血鬼とか妖怪の類が何かとてつもない野望を画策してるんじゃないかな」
妖怪ってあれか? 三十路妖怪、青葉葵のことだろうか。おそらく結婚を画策しているに違いない。誰か嫁にもらってあげて。
「これはあれだよね。あとは美少女が空から降ってきたりすればフラグが立つ流れだよね」
「フラグ?」
「その美少女と一緒に敵の野望を阻止して美少女と結ばれる物語のフラグに決まってるじゃん」
「当然のように言うな。そもそもフラグ自体が俺にはさっぱりだ」
するとクリスは前にも説明したじゃん、と不服そうに言う。
そこで俺はふとクリスに質問してみることにした。
「なあ、もしアニメとかで空から美少女じゃなくて骸骨が落ちてきた場合はどうなるんだ?」
「夢玄、それはありえないよ。アニメにおいて主人公ならともかくヒロインというのは美少女しかありえないんだ。ヒロインが美少女じゃないアニメなんて誰が得するんだよ。だからヒロインが骸骨だなんてアニメじゃありえないよ!」
「そ、そうなのか……」
クリスの怒涛の勢いに思わずたじろぐ。
と、そこで朝のHRのチャイムが鳴って担任の青葉先生がやってきた。
「みんなおはよー」
昨日の姿を見てしまったから青葉先生はすっかり落ち込んでいるのかと思ったが、意外にも青葉先生はいつもと変わらない様子だった。
公私混同しないなんて教師の鏡かもしれない。
それとも、もしかしたらいつもあんな感じのことが起きてるから慣れてるだけかもしれない。だとしたら可哀想すぎる。
「連絡事項はそんなところかな」
青葉先生が伝達事項を伝え終えると、チラリと俺のほうを見てきた。
「赤月くんは放課後の例の件を頼むわね」
例の件というのはおそらく学校案内のことか。




