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兵器治療

八話目!

 ピッピッと、規則正しくなり続ける音。シューシューと微かな息の音。今にも起きそうなほど、健康的で、普通の寝顔。それがガラス越しに見える。病院独特の薬の臭いが混ざる空気に顔をしかめる。


 いつも笑ってた椎名がそこにはいた。


「…………」

 そして椎名……あ、いや名前で呼べって命令されてたな。あかりをそんな状態にした張本人の俺はその前にある訪問者が来るスペースでイスに座ったままずーっといる。


「……どうだ? 調子は」

 喪服姿の和也が入ってきた。誰かの葬式に行ってきたらしい。いや、多分合同葬儀だろう。たくさん死ぬからな。俺らの仕事は。


「……さっきまで起きてて吉〇見てたよ」

 そう、こんな感じになってもあかりは生きてる。

 あの後すぐに救護班に引き渡し、治療を受け、そして生物兵器クリーチャーの細胞を移植したのが功をなしたようだ。


 自分は比較的、楽に、的確に倒してるせいかいまいち気にしてなかった生物兵器クリーチャーの厄介な点。中々死なない。それを忘れていた自分がもどかしい。


 あかりに移植されたのはなかなか死なない生物兵器クリーチャーの中でも更に死なない超回復型の生物兵器クリーチャー。倒すのに苦労した。殺しても殺しても生き返るんだから。


 でもそれがあかりを助けてくれたんだから。まあいいか。いやでもなんかな。

「……皮肉だな。忌み嫌って、ゴキブリみたいに駆除する対象の生物兵器クリーチャーに助けられるなんてさ」


「そんなの言ったら俺らだって生物兵器クリーチャーの恩恵であいつらと同等に戦えてるんだろうが。利用できるものは幾らでも利用しとけ」

 俺の隣にレジ袋が置かれる。


「食い物。どうせお前ここから出るきねえんだろ?」


「……分かってんな。お前」

 袋から適当に菓子パンを取り出して頬張る。


「そりゃずっと同じ部屋にいりゃあお前の考えぐらい分かるようになる」


「……ええなぁ、ウチも食べたいメロンパン」

 シューシューと音を鳴らしながらあかりが喋った。


「お前はまだ要休養だ。吉○見れるだけでも感謝しろ」


「 へいへい」

 弱々しく笑ってあかりはまた眠る。


「……さて、お前とあいつの姿も見たことだし、仕事行ってくる。今から監視なんだ」


「お疲れさん。頑張れよ」

 伸びをして、和也は部屋を出てゆっくりドアを閉めた。


***


 ドアを閉め、橋本和也はしもとかずやは脱力感のあるため息をついた。


「どうだった、二人は?」

 一之瀬凛いちのせりんが壁に寄り添ったまま、中の二人の様子を聞く。この様子から見るに、ずっとここにいるんだろう。


「自分で見に行けよ」


「私には忍びなくてな」

 わざとらしく両手を振る。


「はあ、どちらも平常運行だった。椎名は少し夢心地だったけどな」


「ふむ、なら穂高蛍ほだかけいは堕ちてないと」


 クリーチャー化。一之瀬が気にしてるのはこれだ。


 生物兵器クリーチャーのもっとも厄介な点。中々死なない。


 それは細胞になっても同じだ。死んだ細胞を移植しても結合しないし、意味がない。

 なので細胞移植組は生きた細胞を移植される。


 生きた細胞が人体の細胞に結合して、人体をも取り込もうとして、でも力が足りなくて、ある一点のみが生物兵器クリーチャーとなる。


 それはつまり、弱ければ、生物兵器クリーチャーの細胞より弱ければ、取り込まれる可能性もあるということだ。


 現にクリーチャー化は年に一度は必ず起こる。それはストレスだったり、クリーチャーの体への拒否だったり、ケガだったりと色々だが、一番多いのが、死亡。何の変哲も無い、ただ、死ぬ事。

 その体がギリギリ生きてるときにのっとられ、ゆっくりとクリーチャーになる。


 穂高が昔見た、自殺した女の子。あれもあの後クリーチャーへと変わってしまい、穂高たちの手によって駆逐された。


 それが穂高の体にも現れ始めている。

 実は予兆なら前からあった。穂高は蜘蛛の脚を使うとき、一瞬だけグロテスクな皮膚に変わる。それはつまり、全身に細胞が行き渡っている証拠だ。しかも年々その一瞬が長くなっている。


 そして極めつけは片思いの相手(正確には両思いの相手)を目の前で死にかけさせたこと。


 絶望とストレス、負の連鎖が固まり、細胞が弱くなり、穂高は少しの間だけ、クリーチャーと化した。


 まあ今現在はそれを押さえ込むことに成功して、記憶もなくして、気づいてないみたいだ。だが、細胞の侵食率は上がっている。いつまたクリーチャーになるか分かったものじゃない。


 更にもっと危険なのは椎名。彼女の場合、体が弱っている、更に移植した細胞が回復力……言い換えれば生命力の強い細胞だ。

 他の細胞に比べて初期侵食率も高いし、今もじんわり侵食している。


 しかも困ったことに二人ともの細胞の元は武装した人が50人で挑み、2、3人死んで満身創痍になれば倒せる雑魚じゃない。武装した人が50人で挑み、30人近く死んで、体がズタボロの布切れのようになって、初めて一匹倒せるようなボス級だ。

 橋本がいるからといって、楽に倒せるような相手じゃない。しかも、壁に囲まれた街の中だ。一般の非武装もいる。被害は甚大になること間違いなし。


 つまり、今この街は椎名と穂高。二つの爆弾を抱えてることになる。


「本当か? 新しい技だったり、なにか体に異物感があるとか言っていなかったか?」


「ああ、大丈夫だと思う」

 二人の友達の橋本にとって、この最悪の結果だけは避けたい。いや、避けなくてはいけない。そうなれば、殺す役目は、細胞移植者で、生物兵器クリーチャーを殺すための生物兵器の自分なのだから。


「それじゃ俺は監視にいってくる」


「ああ気をつけてな」


「……珍しい。お前が人の心配をするとは」


「そうか? これでも人の心配はするぞ?」


「嘘付け。お前は人を数字としてしか、駒としてしか見てないだろ?」


「心外だな」

 ふふ、と一之瀬は笑う。


「まあ、気をつけてな」


「なんか……なにか起きそうで恐いな」

 わざとらしく怯えたような身振りをして、橋本は病院を後にした。

でもやっぱり殺すのはやめました。


ちなみに今回の戦闘の死亡者は5人。もし、二人が減らしてなかったら全員死亡レベルの大群でした。

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