平穏破壊
四話目!
「……買いすぎじゃねえか?」
食料調達を終え、俺らは椎名の買い物に向かっている。
一週間分、というには余りにも多い食料のほとんどを両手で幾つかの袋を持ち、残りは蜘蛛の脚で支えながら背負っている。というか和也。お前も手伝え。
「それだけ買わねえと一週間持たねえんだよ」
「育ち盛りやなー。ウチはそんなに食えへんで」
「ああ。だから胸に栄養が行き渡ってな目があああああああああ!!!」
「やかましわ!」
「見事な目潰しだ」
わー! 視界がゼロだ! 一寸先が真っ暗だ!! つうか痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
「なんだよ! ホントの事を言っただけ鼻がぁぁぁぁぁ!!」
「ホントってなんや! これでも寄せればBはあるんや!」
「寄せれば。つまりいつもはえ鳩尾っ!?」
「……穂高」
和也が声をかけてきた。おお、友よ心配してくれるのか。やはり持つべきは友だな!
「荷物落とすなよ」
「ああー目がーー鼻がーー鳩尾がーー。あと地味に心が痛いーー一番心が痛いーー心の奥までなにかが突き刺さってるーー」
「じごーじとくや」
うっすら見える目の先で椎名はあっかんべーしてた。
「…………」
「うわわわわ! ケイ鼻血鼻血! どしたんやいきなり!」
「……男の性だ」
「ほらティッシュ」
和也からティッシュを受け取り、蜘蛛の脚をうまく使って鼻に詰めた。ふう。
「ほんま器用に使うなー」
その隣で椎名が興味津々と蜘蛛の脚を見ている。ふと、思ったことを口に出してみる。
「……気持ち悪くないのか?」
俺は蜘蛛の脚のことなんて気にしてない。なんて、言ったが実際は結構気にしてる。周りから浴びせら視線に馴れただけだ。
「んー? 別に? 逆にかっこええと思うけどな」
そう言って椎名は先に進む。
「そうか? クリーチャーまんまの脚だぞ?」
「なんと言おうとかっこええ」
前を歩く椎名は振り向くと。
「それに周りの奴は外見ばっか見過ぎや。ウチが知っとるケイは買い物に付き添ってくれる優しい奴や」
椎名はそれはとてもとても無垢で、可愛らしい笑みを浮かべた。
「……お前が好きになった理由がよーく分かる」
「すっ好き!? は、誰が!」
「違うのか?」
「ん、いや、まあ……な」
ああもうニヤニヤ笑うな!
恥ずかしくてたまらなくなった俺は椎名が先についているはずの洋服売場の方へ一気に走り出した。
***
「フンフーンフフーン♪」
「楽しそーですな椎名」
ショッピングモール内の洋服売場で椎名はホントに楽しそうに服を選んでいる。既に手元には何着もの服を持っている。
しょーじき俺は楽しくない。いやあれだね。女子の買い物は長いって言うけどホントだったんだね。もう二時間も経ってるぞ。暇かお前。
「ん? せやなー。久しぶりの平和やからなーー」
周りを見渡せば、数少ない家族が何組か楽しそうに歩き回り、今日が休みらしい子供は楽しそうに遊んでいる。それを見て働いてる子供は舌打ちしながらせわしく歩き回っている。仕事じゃなくて勉強を選んだ奴らは今頃学校でヒーコラしてるだろう。ざまあ。
この二、三日前までは武器を持った子供がせわしく走り回り、休んでる奴は一人もいない。怪我人を数少ない大人がかつぎ、|非戦闘員(学校組)はただただ縮こまって隠れていた。
「ここ二週間で生物兵器が街の近くを通りかかった回数20回。襲撃回数6回。死亡者数37人。最頻度記録まであと襲撃回数一回ってとこだな」
おお、そう考えると怒涛の二週間だったな。
「そのおかげで男子寮の部屋枠が何枠か空いて二人部屋が減った。んだけども俺はまだこいつと同室のまま……チッ」
「おい、舌打ち!」
「相変わらず楽しい二人やな」
ニコニコ笑う椎名。その顔を見てるとこっちまで笑ってしまう。
「きゃー、これ可愛い!」
「これもよくない?」
互いが持っている服について語り合って黄色く騒いでいる女子二人がいる。
ふと、俺達の姿を見るやひそひそと話し合い始めた。
………? 首を傾げて会話を盗み聞いてみる。
「なにあの男の子!めっちゃ可愛いんだけど?」
「隣の女の子も可愛いーー」
「あの子達つきあってるのかな?」
「「っ!?」」
「キャーッ、顔真っ赤にして可愛いーーーー」
「ククク……おもしれ」
「うううううるさい! おおお俺は別に何にも」
椎名を見ると、顔真っ赤のまま、俯いてもじもじしてる。
「なんだ椎名。トイレか?」
ピシッと空気が固まった。もじもじしていた椎名は顔を真っ赤にしたまま、拳を強く握ってる。あ、これはまずい。
「歯ぁ食いしばれ──」
《ウウーーーーーー!!》
「「「!!!」」」
川の放水の時になるサイレンのような音が鳴り響く。それに続いて感情のない女の人の声でメッセージが伝えられる。
《キメラ系と思われる生物兵器の群れが警戒区域に侵入。非戦闘員の方はシェルターに、クリーチャー駆逐部隊所属者は西門に集合してください》
「……ちっ」
「召集……」
た、助かった……。心の中で歓喜に震えていると。
《なお、穂高蛍、橋本和也は残り五分で来い!》
おかしい……最後の方にすっげえ力こもってたぞ。あれ機械じゃなかったのか?
「おめえが遅刻してばっかだったからじゃねえのか?」
「かねー?」
《早く来ないと、武器もなにも無し、かつ拘束した状態でクリーチャーの群れの中に放り込むぞーー!!》
「「…………」」
「かわいそーや──」
《あああと、二人より遅れた奴は真っ裸だからなー》
「……ケイ、カズ」
「ダッシュ!!」
「カズーー! ってあれ? ケイは?」
「俺はなま板の裸には興味はアリスギルナーホントニダッシュ!!」
「二人とも別々の意味で殺す!!」
捕まったら死ぬ。マジで死ぬぅ。殺されるぅぅ!
リアル逃走中を満喫しながら俺と和也は西門へと走っていった。
「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
「かずやぁぁぁぁぁぁぁ!!」