移植細胞
三話目!
なぜ大人ではなく子供なのか? ていうのがまず最初の質問だった。
開発者曰く、クリーチャーの細胞を移植する場合、体が出来上がっている大人よりまだ出来上がってない子供の方が定着しやすく、周りの細胞と繋がりやすいからだそうだ。
あとなにより子供の数が多いこと。貴重で希少な大人より使いやすい。
ということで潜在的能力の高い子供を国中から集め、体力試験を受けさせ、クリアしたものは細胞を移植された。
細胞を移植されると、その細胞を元々持っていたクリーチャーの特徴が体に現れる。
俺の場合は蜘蛛型のクリーチャー。背中から飛び出した脚がそうだ。いつもは極限まで縮めて隠している。
和也はバワータイプのキメラ系クリーチャーの細胞を移植している。結果、脚力、ジャンプ力、走力が格段にアップした。
これをすることにより、クリーチャーに対抗できるほど強くなる。
しかし困ったことにクリーチャーの再現率が無駄に高い。俺が使う蜘蛛の脚もクリーチャーまんまだし、和也の脚にいたっては見た目様々な生物が合成された感じでグロテスクだ。
和也にとってそれはコンプレックスであいつは長ズボンしか履かない。
でもそれだけならまだいい。俺らはまだ軽度な変化だ。
俺と同じ蜘蛛型のクリーチャーの細胞を移植した同期の女子がいた。
結果、下半身が蜘蛛。上半身が人間の神話の化け物、アラクネのような姿になった。
その女子は一週間も経たない内に首を吊った。この姿で生き続けるのが嫌だったそうだ。
首を吊って死んでいるのにまだ動き続ける蜘蛛の脚は俺にとって生涯忘れないトラウマになった。いつか俺が死んだときもそうなるのだろうか?
閑話休題
「ったく、あの寮母が。グチグチグチグチグチグチグチ言いやがって。足がしびれたじゃねえか」
「だからって蜘蛛の脚で歩くな。自分の足で立って生きろ」
寮母に色々グチグチ怒られた俺は今は和也と一緒に街に出ている。
起こられている間ずっと正座してたせいで脚が痺れたので今は蜘蛛の脚で歩いている。
八本の脚で体を支えて、体は脚の動きにあわせてプラーンプラン。あー楽だ。
「……おまえはすげえな」
「なーにが?」
「その脚に全くコンプレックスを抱いてない。周りの視線やら気にして、俺なら無理だ」
周りを見渡せば、俺は街中の視線を独り占めしていた。もちろん、忌み嫌ってる目や哀れ見る目も含まれている。
「んー。そんなん気にしてたら始まんねえし、いちいち気にするのは結構前からやめたよ」
「ずぶたい神経だな」
ヘラヘラ笑う和也。あー、平和だなー。
「お、ケイ!」
後ろから呼び止められ、俺は動きを止める。体が前後に揺れる。
振り返ると、茶髪のボブカットの女子が手を振っていた。あれは。
「久しぶりやなケイ!」
「よー。おひさ」
吉本○喜劇が好きでエセ関西弁を喋るこいつは椎名あかり。俺らと同じ、クリーチャー駆逐部隊所属の女子でクリーチャーの細胞は持ってない鉛弾と刀で頑張る方だ。
「おまえも今日は暇なのか?」
「ウチ? 見張りもないし暇やな。せやから今日は久しぶりにショッピングや」
休日にショッピングか。
「なかなか悠々自適で幸せな生活を送ってるな」
「まあ仕事場が血なまぐさいとこやからな。休日の平和なときぐらい血なまぐさくない普通の女の子したいんよ」
「ふーん」
俺は寝てたいインドア派だし、男子だからよく分からん。
「ケイとカズは二人揃ってどこ行くんや?」
「ショッピーング」
「こいつの食料消費率が半端なくてな」
「ふーん。大変やなーカズも」
今頃だがこいつは俺のことをケイ、和也のことをカズ、と呼ぶ。ニックネームらしい。俺はカタカナになっただけなんだが。
「おおそや。同じショッピングならウチも一緒に行こうや」
「一緒にー? 食い物買いに行くんだがこっちは?」
「ええよええよ別に。ウチは普通に買い物行きたいだけやし」
ふーん。それじゃあまあ。
「一緒に行くか」
「よっしゃ!」