序章
人は突然の死を直面したとき、何を見るのだろう?
例えば大切な人の顔?
例えば自分の命を奪った何らかのもの?
例えば今までの思いで?
それか、何も見ないのか?
俺はそんなことを考えながら予備校から帰る。将来のことなんか何も決まっていない高校一年生。特に存在感もない、特徴もない、好きな人も、恋人もいない。そんなつまらない生活。ただ、そんな生活から離れたくはなかった。理由はない。怖いからかもしれない。
誰もいない、街灯も少ない暗い小道。右には墓場。左には道路。それを挟んで向こうは公園。墓場は「安らぎの丘」と言ったか。
俺はそこに人の気配を感じた。気のせいだと思いながらその方向を向く。居た。少女なのか。そのわりには白い小袖に黒の袴。巫女を思わせる格好だった。黒く長い髪をボンヤリ浮き上がらせるものそれは、人魂だった。
怖気がした。俺はそこから立ち去ろうと足を速めた。逃げるように、その記憶を埋めるように。
俺は赤信号で止まる。
早く変われ。
早く。
さっきの映像がまだ俺を追いかける。
無視しようか。
いや、ダメだ。ここは時々トラックが高速で駆け抜ける。
ほら、今みたいに。
目の前をトラックが過ぎて行った。
また、さっきの少女が脳裏に浮かぶ。その少女が俺に向かって笑いかけた刹那…
ドーン!
ありがとうございました