形見
「ルーシー」
今はハイネと一通りしゃべりたくった後の午後。不愉快な人に呼び止められた私は思わず顔を思いっきり顰めそうになるのを我慢して、作りまくった愛想笑いを顔に浮かべます。
「イメルアお姉さま、どうしたのです?」
「あたくしの部屋に来ない?いいものを見つけたの。ルーシーには特別に見せてあげる」
「ワー、アリガトウゴザイマスー」
私は内心、イメルアの言ういいものなんて見たくもない、興味もない。そもそもイメルアと一緒に居たくない、と思いましたが、断ると癇癪を起しそうなのでここは乗っておきます。
少々棒読みなのは否めないですが。
「きっとルーシーも喜ぶわ!」
はん、と私は鼻で嗤いそうになるのをこらえ、これまた愛想笑いをします。イメルアにいいものと言われて私がそれをいいと思ったことなどないですから。どうしてイメルアは、私が光りものやらドレスやらに執着がないと気づかないのでしょうか?心をこめて送られる品には嬉しいと喜べないほど捻くれてはいない(と思う)のですが、明らかに自分の欲求を満たすために着飾るためとか、美しくみせるためだけに買うというのは目一杯不機嫌そうな雰囲気を出している筈ですのに。
――――――
「どうかしら?ルーシー。あたくしにピッタリじゃなくって?」
「……え、ああ、ええ」
「どうしたの?ルーシー?」
「それは、どこ、で?」
私は、イメルアが嬉しそうに自分の胸にとある装飾品をあてがっていることに驚愕しました。だって、それは、ハイネのお父様がハイネに贈った最後のプレゼントだったのだから。
「え?これ?薄汚い部屋で見つけたの。あの子には分不相応というものでしょう?だからあたくしが代わりに貰ってあげるのよ」
うふふ、とまったく悪いことはしていない、むしろ自分のやってることは正義だと言わんばかりの笑いに、私は久々の怒りと吐き気を覚えました。ありえないです、コイツ。
「お姉さまは、そんな薄汚いネズミの持ち物を盗るお方だったのですか?」
私がイメルアにわざとそんなことを言います。普段だったらスルースキルを発動させてから、ユーシアに教えて対策を練ったりするのですが、今回ばかりは黙っていられませんでした。
「そんな「お姉さまはその美貌がありますから、その綺麗な装飾品は逆にお姉さまの魅力を引き立たせることができないでしょう」
「まぁ……そうかしら?」
「はい、そうですよ。たんじゅ……ゴホン、聡明なお姉さまにはそんな無駄な安っぽい装飾品よりも、落ち着いていて品があるモノがお似合いです」
「そうよねぇ……そうね、こんなものやっぱり要らないわ。ルーシーはこれ、いるかしら?」
単純すぎてチョロいモノだ、としみじみ思いましたね、はい。ここまで単純な方もそうそういないのでは?簡単に私の策に踊ってくれてありがたいですね。それに美貌(笑)と聡明(笑)ってあなたとは縁のない、程遠い言葉でしょう。言いませんけど。思っているだけですけど。
「いいのですか?処分しておきますね」
「ええ、ルーシーは優しいのね。じゃあ、これからあたくしは自分に見合った装飾品を調度してきますわ」
「いってらっしゃい、いいものが見つかるといいですね」
さっさと出てってくれの意味をたっぷりこめてイメルアを送り出す。あ、ユーシアのお父様の形見は守れたけど、装飾品を買おうとしているイメルアの所為でまた出費がかさむ……。最悪だ。
ユーシアの為を思ったならこんなものは、や、や、や、安いんですからぁっ!
私は手元のユーシアの瞳と同じ色をした蒼い宝石が中心にあしらってある装飾品を見て、ため息をつくきます。ユーシアに返しにいかないといけませんね……。ですが、今は会いに行かない方がいいでしょうかね?もしも私と話している場面を見られたらユーシアがあの人たちに何をされるか分かったものじゃないですからね。
ユーシアには可哀相ですが、深夜になってから渡すとしましょう。それまでは我慢してもらいますか。私はゆっくりとした動きで、自分の部屋へ帰ります。
―――――――
余談ですが、現在このリルアドナ家を切り盛りしているのは実質私です。ですから無駄な出費はどうしても避けたかったのです。このままではすぐにでもリルアドナ家は母達に食い潰されます。
そして、私がそんな面倒なことをかって出た理由とは私が少しでもその時が来るのを抑えている、その間に、王子様が現れてユーシアを救ってほしいというのが目的です。
因みに、私のお金の稼ぎ方とは前世の知識を生かして商談や取引を進めることです。そして、女だからと嘗められないように自分の体がスッポリと隠れるようなローブをいつも着ています。バリバリ不審者です。
あとは男性からの貢物でしょうか?私に何故渡すのかとか思いますが、下心が見え見えなの方のは貰ったらつき返しているのですが、それでも少しは手元に残ってしまいます「売ってもいいから受け取ってください!」などと言って私に渡してくれる人もいるのですが、売ってもいいのになんの為に渡しているのか意味がわかりませんね、まったく。
ご都合主義でお金を稼いじゃってるルーシーちゃんです(笑)