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「ちがう……?」
「泣かないで、リーフ。ママはあなたのことを嫌いではないわ」
「でも、ママはぼくとおはなししてくれなかったよ」
完全に透き通ってしまったリリィの手が優しくリーフの頭を撫でます。
突然感じた柔らかい感触に体を硬直させたリーフ。
すぐに正体がリリィだと分かり、安心しました。
「ママはね、病気がリーフに移らないようにお話するのを我慢していたのよ。本当はリーフと遊びたいのに、お話したいのに、でもずっと我慢していたのよ」
「ママはぼくがうまれたからびょうきになったんだ。だから、しんじゃったの。がまんするならぼくなんて……」
『うまなければよかった』
次々と溢れだす涙が邪魔して言葉が出てきません。
隣で見ていたララは何も言わずにそっとリーフの手を両手で包み込みました。
「違うわ。ママはリーフを愛しているの。ママが死んでしまったのはリーフ、あなたのせいではないわ。これはきっと運命よ。ママの命は決まっていたの。だから、ママはあなたを産んで良かったと思っているわ」
リリィは母親が子供を宥めるようにリーフに言い聞かせました。
「ほんとうに?リリィ。ママはぼくのことをきらいじゃなかったのかな。あいしてくれていたのかな……うんめいってなに?」
「リーフくん。うんめいはね、だれもかえられないんだよ。わからないけどきまっているの」
大人しくリーフとリリィの会話を聞いていたララはにっこりと笑いかけます。
その姿を見てリリィは安心しました。
灰色の雲によって薄汚れていた空は急に暗くなり、白く、冷たい結晶がはらり、はらり、と落ちてきました。
「ゆきだ。ゆきだよ、リリィ。ねぇ、ララ!」
「うん!ゆきだね!とてもきれいだよ」
二人は小さな手を精一杯空に向かって伸ばしています。
リーフの顔から涙が消え、笑顔が浮かび上がりました。