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ある秋のこと。
小さな小さな森で黙々と木の実を取っている子供がいました。
少年、と呼ぶには少し幼い男の子です。
「ママなんてだいきらい。パパはもっともっときらい」
突然、男の子は森で一番大きな木に話しかけました。
返事が返ってくる訳でもなく、秋風が静かに吹いているだけ。
男の子は何を期待していたのでしょう。
ただ木の上を見つめ、次々と風に吹かれ、落ちてくる葉を名残惜しそうに見つめているのです。
「どうして?」
さわさわと揺れる枝の上から声が聞こえてきました。
男の子は一瞬驚きましたが直ぐに瞳を輝かせ、口を開きます。
「だって、ママはいっつもねていてちっともおきてくれない。それに、パパはまんげつのひにしかかえってこないんだもん」
「泣かないで。小さな人間さん」
大きな瞳から溢れだす大粒の雫。
声の主は優しく宥め、ゆっくりと木の上から降りて来ました。