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台風一家  作者: 黒湖クロコ
本編
8/43

3章の1

「――隣町から引っ越してきました。よろしくお願いします」


 ぱちぱちと拍手が鳴り、俺は椅子に座った。

 続いて後ろの席の奴が立ち上がる。今までは自分一人が黒板の前で自己紹介だったので、皆で自己紹介は不思議な気分だ。

 入学式は体育館が揺れた為中止になったが、翌日からは普通に授業が再開された。教師の話では、地震がこのあたりではなく、体育館だけが揺れた事までは分かったが、理由がいまだ分からないそうだ。

 そりゃ、生首で玉突きしたからだなんて分かりっこないと思う。最終的にどういう決着にするのか、若干興味もある。


「(おい、一郎。あそこの女子がお前の事見てるぞ)」

 椅子を後ろに倒し、こそこそと良が話かけてくる。良のの視線の先をみると、確かにこちらをちらちらと見る視線があった。

「(なんか睨まれてる?)」

 俺も合わせて小声で話す。教師に入学早々目を付けられるのも嫌だ。

「(鈍いなぁ。あれは絶対、お前に惚れてるんだって)」

 鈍いのは良の方だと思う。あれはそういう目線ではない。

 愛しているというよりは、モルモットのように観察されている気分だ。

「(それはないと思う。ところで、良もあの子知らないの?)」

「(いや。確か同小だったはず。同じクラスにはなった事ねえけど。近くの神社のとこの子だよ)」

 神社かぁ。

 その単語が不吉に感じるのは、何故だろう。神社は神様を祀った所。不吉とは反対の場所だ。

 でもそう思う理由も分かっている。それはきっと、俺の新しい家族が妖怪だからだ。鬼姫さん以外はなんの妖怪か聞くのを忘れたが、妖怪と言えば普通悪役。お祓いされたり封印されたり、場合によってはあがめられたりだ。そしてそれと関係しそうな職種は神社や寺、それに教会なんかだと俺は思う。

 君子危うきに近寄らず。

 俺は目が合う事を避けるため、見るのを止めた。家族を危険にさらしたくない。


「私は和栗神社の娘で、和栗陽子≪わぐりようこ≫です。小学校は青山小学校出身です。よろしくお願いします」

 睨みつけていた少女……和栗さんの番になってようやく俺は彼女をしっかりと見た。黒いまっすぐな髪が後ろで一つに縛られている。神社の娘だと聞いたからだと思うが、和服が似合いそうだ。凄く姿勢がいい。

 ばちっ。

 そんな音がしたと思ってしまうような勢いで目が合ってしまった。和栗さんは一瞬目を大きく見開いたが、次の瞬間には再び鋭い眼光なっていた。……俺が何をしたというのだろう。

 俺は気がつきませんでしたよ路線で行こうと、自己紹介が終わるとそのままついっと前の席の子へ視線を動かした。


「やっぱりお前を見てるな」

 一通りオリエンテーションが終わると、一度休憩になった。

 自己紹介後はずっと和栗さんを見ないようにしていたのに、良の言葉で一気に気分が重くなる。嫌な予感しかしないんだけど。

「幸田一郎」

「……何?」

 何で呼び捨てにされてるんだろう。しかもフルネームで。

 横を見上げれば、そこには和栗さんがいた。

「貴方、なんなの?」

「えーっと……何って?」

 何が言いたいのだろう。何なのと言われても、答えようがないんだけど。


「その奇妙な気配よ。まるで人間じゃないみたいだわ」


「へ?」

 言われた言葉を理解するまでに少し時間がかかった。人間じゃないって……鋭い。いや、俺自身はほぼ人間なんだけど。

「あははは、なんだよ。その気の引き方!!好きならもう少しマシな事言えよ」

「ち、違うわよ!!私は、幸田一郎が変だから」

 爆笑する良に、和栗は顔を真っ赤にして怒った。ちょっと可愛いけど、正直可愛くても困る。

「ちょっと、陽っち。止めなよ。幸田君、ドン引きしてるって。ごめんね、陽っちって神社の娘だから、たまに変な事言うんだよね」

「私は変じゃないの。変なのは幸田一郎!」

 今度はショートカットの女子がやってきた。和栗さんと並ぶと頭一つ分高い。そんな彼女に向って訴える和栗さんは、同い年のはずなのに、まるで姉妹のようだ。

「はいはい。でも今回はあんたが悪いと思うわよ。いきなりフルネームで呼び捨てにしたら、誰だってドン引きするわ。私は相田要。この子は和栗陽子、よろしくね」

 ニコニコ笑う相田さんにつられて俺も笑った。というか笑うしかない。和栗さんが言っている事の方が、結構正しかったりするからだ。とにかく、ごまかしてしまえ。

「よろしく。僕はさっきから連呼されてるから分かると思うけど、できれば苗字か名前かどちらかで呼んで欲しいな」

「うっ……。こ、幸田は、家に変なのとかいないの?」

 和栗の言葉から少しだけとげが抜けた。

 流石に自分の行動が少しマズイと思ったらしい。 

「……たぶん、いないと思うよ」

 変なものは。

 心の中で付け足す。居るのは家族だけだ。変なものではない。

「変なもの見かけたり、変なことが起きたら必ず私に言いなさい」

「えーっと、その変なものって何?幽霊みたいなもの?」

「そうよ。そんな感じのもの。絶対近くにいるから。でなきゃ、そんなにおかしくならないわ」

 ……妖怪って、幽霊なのかなぁ。

 あっているような、違うような。

「言ったらどうなるの?」

「陽っちって、凄いんだよ。お祓いとかできちゃうんだから」

 祓われるのか……。幽霊なら成仏して、妖怪はどうなるんだろう。たとえ危害が加えられなくても、楽しい事にはならない気がする。

「へえ。そういう時って、巫女さんの服着るわけ?」

「そういう時もあるし、そうじゃない時もあるわ」

 興味深そうに良が聞けば、和栗さんもちゃんと答えた。変わっているが、悪い子ではないみたいだ。

「いい。こういうのは早く対処したほうが良いんだからね!」

 そう話しているうちに、休憩時間は終わった。早い方がいいと言われてもなぁ。

 たぶん好意で言ってくれてるのは分かるんだけど……。


 俺はどうするべきかと頭を抱えた。


 



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