2章の1
昔から何かと要領が悪いというか、運の悪い子供だった。
両親が早くに死んでしまった事は仕方がないとしても、その後に親戚中をたらい回しされた。おかげで学校も転校つづきで、ちゃんとした友達はほとんどいない。
頭のできと、運動神経は幸い両親からちゃんとしたものをもらえた為、苦労はしなかったが下手すると妬まれた。だからこそ、その生活の中で思った事は一つ。
平凡が一番だと。
そう平凡。ビバ平凡。平凡万歳!!
できるだけ目立たず、平凡に穏やかに生きようと思った。幸い鬼姫さんは変わっているけれど優しいし、ほかの兄弟とも仲良くできそうだった。俺の料理を喜んでくれるし、このまま家族になれたらいいなぁと思った。
でも……。
◇◆◇◆◇
「……ここは」
目が覚めるとそこは俺の部屋だった。
なんだ夢か。
俺は目覚まし時計に手を伸ばそうとして、ずきりと頭が痛み、その手を頭に伸ばした。額には、ガーゼが貼ってあり、何やら怪我をした様子だ。
「もしかして地震の時に気を失ったとか?」
地震で頭をぶつけても生きているとは、俺って以外に運が良かったのかもしれない。病院ではないので、それほどひどい怪我はしなかったのだろう。
もう一度目覚まし時計に手を伸ばし時間を確認すると、すでに夕方の6時を過ぎていた。夕飯、どうしよう。
外食にしてもらうにしても、一度鬼姫さんに相談しなければと、ベッドから降りる。服はいまだに学生服のままだったが、学ランだけハンガーにかけてもらえたようで、上はワイシャツ一枚だ。
少しふらつく気がするが、歩けなくはない。のども渇いた事だし、まずは台所にでも行くかと部屋かだ出て、階段を降りた。
「一郎っ!!」
「あれ?犬兄?」
今日もバリバリの不良だねっと褒めるしかなさそうな、どくろマークのTシャツと穴あきジーパンをはいていた。しかし格好に反して目がうるうるしている。犬兄の涙なんて、フランダースの犬を一緒に見た時以来だ。あの時怖いだけだった犬兄が、実は一番良い人かもしれないと気がついた瞬間だ。
「ごめんな。俺、力の調節下手でっ!!もしかしたら、い、一郎がし、死んじゃうかと……ううう」
「えーっと、なんの事?というか、泣かなくてもいいよ。ほら、良く分かんないけど、ぴんぴんしてるし。だから落ち着いて」
ぎゅーっと抱きしめられて苦しいが、その手を振り払えるほど、冷徹にはなりきれない。
「馬鹿犬!いっちゃんが苦しがっているでしょ」
パシンと犬兄の頭がスリッパで叩かれた。
「いってぇ。何すんだよ、石兄」
「女装の時は、石姉って呼びなさいっていつも言ってるでしょう?周りの人たちが不信に思うじゃない」
「不信に思うんじゃなくて、存在自体が不信なんだよ」
「あーら。チンピラ風情に言われたくないわ」
バチバチバチっと火花が飛び散っているのが見えそうだ。
悪いけれど、そういうのは俺を放してからにして欲しい。
「ごめんね、犬兄。そろそろ夕飯どうするか決めないといけないから、放してくれる?」
「そうそう。いつまでくっついてるのよ。あ、でも夕飯の用意は良いわよ。鬼姫様が今日は出前にしようって言っていたから」
「えっ、それって俺が寝てたからだよね」
鬼姫さんに謝りにかなくちゃと慌てた。養ってもらっているのに、気を遣わせてしまった。犬兄から離れると、小走りに向かう。
「ちょっと、いっちゃん?!別にいっちゃんの所為じゃないからね。私たちも忙しくて家事が出来なかったわけだし」
それにしてもここの家族は本当にいい人たちだなと思う。俺みたいに働けない奴は家事ぐらいやらなければ、本当に邪魔ものだ。料理が俺の担当なのにそれをしなくても怒らず、なおかつ気を使ってくれるなんて。食事抜きで家に残され、みんなは外食に行くぐらいで当たり前だと思うのに。
だからこそ、ちゃんとお礼を言いたいし、謝りたい。
「鬼姫さん」
「目が覚めたか」
部屋の前で声をかけると、ふすまが空いた。鬼姫さんは、いつもと変わらずニコニコとしていた。
「夕飯作れなくてすみませんでした」
「何を謝る必要がある?犬斗が怪我をさせたんじゃ、作れんで当然じゃ。また明日は期待しておるからなぁ」
「はぁ。それは頑張りますが、犬兄に怪我させられたんですか?」
「覚えておらんのか?」
「はい」
地震があった事までは覚えているのだが、その後からどうも曖昧だ。変な夢まで見るし、地震で意識を失ったのかと思っていた。
「ふむ。どちらにしよ、そろそろちゃんと話をせんといかんとは思っておった所だし、よしとしよう。皆を居間へ集めてまいれ」
「はぁ」
「そういえば、妾の姿を見て何とも思わぬのか?」
何とも思わぬのかって……。
姿と言ってもなぁ。いつも通りの和服だし、特に変わったところは見られない。違うとしたら……。
「珍しい簪を付けてますね。買われたのですか?」
まるで角のような紅い簪が二本頭に生えていた。
何が面白かったのか分からないが、鬼姫さんは俺の言葉を聞くと、耐えきれないとばかりに笑った。ここは、褒めるのが正解だったのかもしれない。それないのに、珍しい簪って。やってしまった。
「一郎はほんに面白いのう」
「すみません」
「何を謝るんじゃ?」
「あー、すみません」
いまさらほめても遅いわけで。何と言っていいか分からず、俺は謝った。
「まあよい。皆と一緒に話したい事があるんじゃ。一郎、さっき言った事頼めるかのう」
「はい」
俺はみんなを呼びに廊下へ出た。
それにしても話って何だろう。もしかして、またどこか熱の親戚の家に引き取られることが決まったのだろうか。ここは居心地が良い分、落胆も大きい。しかし紅兄は自立しているとはいえ、この家にはあと二人子供がいるのだ。俺まで養うのは相当大変だろう。
それならば仕方がない。
それにまだそうと決まったわけでもない。
自分を無理やり納得させつつ、みんなを探した。