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台風一家  作者: 黒湖クロコ
本編
38/43

終章の1

「……ん?ここは――」

 目が覚めると、そこは俺の部屋だった。あれ?今何時?

「ごはんっ!!」


「一郎君はいつもそれですね。おはようございます。今日は学校を休むと連絡してありますから、そんなに急がなくてもいいですよ」

 がばっと布団をはねのけて起き上がると、紅兄の苦笑とぶつかった。

「えっ?」

「学校の火災に巻き込まれて昨日の今日です。しっかり休んで下さい」

 あー……。

 やっぱり夢じゃなかったか。しかし自分自身の手に視線を落してみたが、手のひらはいつもの大きさだった。あれ?縮んでない?

「もしも今体が楽ならば一度リビングまでこれますか?色々話しておきたい事がありますので」

「うん。俺も聞きたい事があるし、行くよ」

 イクさんや大婆様、それにイッタンはどうしているのか聞きたかった。


 ベットから起きあがったが、特にふらつきも何も感じられなかった俺は、いつも通りの足取りで階段を下りた。

「一郎っ!!」

 一番下まで降りたところで、横からタックルを決められた俺は、地面と仲良しになる。ガツンとぶつけた腕が痛い。

「大丈夫か?!痛いところはないか?!目まいは?ふらつきは?苦しいとかないか?」

「……どちらかというと今大丈夫じゃなくなりそうかな?」

 起きあがった時はなかった痛みは、たぶん今打ち付けた所為だ。

「馬鹿犬!ジャマよ。いっちゃん、目が覚めたのね。今おかゆを作ったから食べて」

 石姉は犬兄を蹴り飛ばすと、にっこりと笑った。珍しくふりふりのレースがついたピンクのエプロンを着用している。家にそんなエプロンあったっけ?っと思ったが、それよりももっと危険な現状に気がついた。


「えっ。石姉が作ったの?」

 あの料理オンチというか、食材への冒涜としか思えない料理しか作れない石姉が?!

 さらなる命の危険を感じて俺は青ざめた。

「ええ。正確には、私のげぼ……もとい、友人が作ったんだけどね。でもエプロンを付けておくと私が作ったみたいじゃない?メニューを考えたのは私だし。私の料理って事で良いわよね。いっちゃん、昨日からずっと何も食べていないからお粥がいいと思ったの」

 いやいや。エプロンを付けていていても、作ってないなら作ってないんだよね。そう思ったが、機嫌のいい石姉にそんな事は言えなかった。石姉の手料理を食べないですんだだけマシだろう。

「何が、カマの料理だ。あれは――」

「カマってなんの事かしら。アンタ、私に構って欲しかったのねぇ。寂しい思いさせてごめんなさいね」

 キラキラ輝く笑顔で犬兄を踏みつけた石姉は、まるで女王様だ。SとMがつくけど。

 ぎゃぁぁと犬兄の悲鳴が聞こえたが、たぶん余分な一言を言った犬兄の方が悪いので放置しておく。……あれ?でも石姉って確か自分の重さを変えれるとか、なんとか。犬兄、死なないでね。


「さあ、鬼姫様がお待ちですから行きますよ」

 紅兄にせかされて、俺はリビングへ向かった。兄弟げんかなんだから、喧嘩するほど仲がいいはずだ。うん。きっと大丈夫。

 リビングにはすでに鬼姫さんが座っていた。いつもと変わらない、ピンク色の着物を着た姿は年齢不詳だ。

「ようやく、目が覚めたか。昨日は大変だったのう。はよう、座るがよい」

「はい。おはようございます」

 俺は朝の挨拶がまだだった事に気がつき、あいさつをすると、自分のいつもの定位置に座った。

 すると鬼姫さんはパンと一度柏手を鳴らした。何だとと思っていると、ふすまが開く。


「た、ただいまお持ちしたですぞ!」

「い、イッタン?!」

「これはいっちゃんど――、ぎゃあぁぁぁ。熱いですぞっ!!止めて下され!!」

 喋っていたイッタンの背中に湯のみに入っていたお茶らしきものが石姉の手でかけられた。いまだ湯気が出ているそれは、どう見ても熱そうだ。

 それでも手に持った土鍋離さないプロ根性。イッタンやっぱり凄い。


「石姉?」

「誰が喋ってもいいと言ったかしら?それ置いたら、次はトイレでも掃除してきなさい」

 やっぱり石姉が女王様に見える。上につく言葉は以下省略。

 それにしても何が起こったのだろう。イッタンが情報を流していたはずで……だからこそ、この待遇なのだろうか?いやいやいや。それにしては石姉の動きが慣れ過ぎている。

 色々考えてみたが、俺は途中で考える事を放棄した。なんだか考えれば考えるほど怖くなってきた為だ。

「えっと。そう言えば、イクさんは大丈夫ですか?」

 意識をイッタンと石姉からそらす為一番気になる事を真っ先に質問した。イクさんは大丈夫だろうか?


「一郎様、呼びましたか?」

 突然イクさんが襖から顔を出した。ただし襖は開いていないので、正確には通過しただ。

 俺は想定していない事態に固まった。元々イクさんは生首だけど、襖から生えているだと、またシュールさの度合いが違う。

「そこは……玄関じゃないよ?」

「いっちゃん、反応すべきはそこじゃないと思わ」

 うん。だけどじゃあ、一体何にどう驚けばいいんだろう。


「えっと……学校の外に出られたんだ」

「ええ。以前は無理だったんですけれど、どうも一郎様が私の名前を呼ぶとそこへ馳せ参じれるようになったようです。きっと一郎様に命を救われたものだからだと思います。あ、ちなみに私の名前何ですが、どうも『イク』に改名したみたいです」

 ……その名前の変更ももしかして俺のせいですか?

 何が起こっているのか分からない俺は、助けを求める為、鬼姫さんを見た。いつも何にもどうしていない鬼姫さんが苦笑しているように見えるのは目の錯覚だろうか。

「色々、初めから説明しなければならないようじゃ。長くなるゆえ、まずは粥でも食べなさい」


 


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