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台風一家  作者: 黒湖クロコ
本編
32/43

11章の1

 しばらく呆けていたが、我に返った俺は立ちあがると体育館の入口へ走った。二棟あるうちの、一棟からもくもくと煙が上がっているのが見える。


「火事?!イクさん、大変だよ。これって消防に連絡しないとだよね。あ、でも。宿直の先生がやってくれてるのかな?」

「一郎様……そ、そんな事よりも逃げっ……逃げなくては」

 振り返ると、イクさんが生まれたての小鹿のようにプルプルと震えていた。なんとか立っています的な雰囲気に俺は首をかしげる。

「もしかして、足がしびれたの?」

「腰が、抜けたんですっ!!どうしましょう。こんな大きな力。マズイです。ああ、鬼姫様方は気がつかれていらっしゃるのでしょうか」


 イクさんは顔を腕の中に抱えて、おろおろとする。鬼が復活したかもしれないなら、そりゃ怖いよね。なんたって、天変地異が起こせるとかいう凄い生き物なのだ。しかも火災発生って、イクさんの体育館まで燃え移る可能性がある。それって、イクさん超ピンチじゃない?

「えっと。俺、少し様子見てくるよ」

「一郎様?!」

「大丈夫、近くまで行くだけだから!」

「一郎様、約束違いますよぉぉぉぉ!!」


 イクさんの悲鳴を聞きながらも俺は走り出した。だって、逃げたいけど、逃げたらイクさんがヤバそうだし。俺だって、無理だと思ったら全力で退却するつもりだ。

 七不思議で鬼がいる可能性がある新しい怪談は、『絵が変わる美術室』。ただし美術室の絵は、今は校長室に飾られている。確認したわけではないので、もしかしたら違うかもしれないが、俺は校庭の方へ走り出て職員室がある方向を見た。


「うわぁ……大惨事だ」

 煙は職員室の方から上がっているが、それよりも俺は割れてしまっている窓ガラスに驚く。職員室に近い教室は二階三階関係なく見事に割れている。もしかしたら、鬼とかそういうのとは関係なく不良が学校を襲いましたかもしれないけれど、朝来た時はこんな廃校チックではなかったはずだ。それに窓ガラスは、ガラスの破片の様子からみて全て内側から外に向かって割れているっぽい。校長室なんて窓枠ごと外に吹っ飛んでいる。

 流石にそこまで頑張るアグレッシブな不良はいないと思う。何かテロがあったって言われた方が納得できる。ただしごく普通の公立中学校襲うテロ。しかも早朝日曜日。……何が理由かさっぱり分からない。

「宿直の先生……大丈夫かなぁ」

 結構簡単に考えていたけれど見た限り、冗談で済まされないレベルだ。俺はとりあえず職員玄関に向かう。


 職員玄関は幸いな事にすでに開いていた。中はうっすら白く濁って見える。たぶん煙だろう。俺は服の袖で口元を覆った。

「誰かいますか?」

 声をかけるが返事はない。居ないならば、きっと今頃逃げ出して消防に連絡を取っているからいいんだけど……。ただ、校庭に人影がなかった事が気になる。

 俺はまわりを気にしながら奥に進んだ。

 中はものが散乱し、ぐちゃぐちゃだった。まるで部屋の中で竜巻が起こったかのような惨状である。これは行動の選択肢誤ったかもなぁと思ったが、中に入ってしまったものは仕方がない。誰もいない事を確認したらすぐに逃げだそう。

「誰もいませんねー」

 校長室は嫌な予感しかしないので、後回しで通り過ぎる。うん。そもそも火の手が上がってるのはたぶん職員室の給湯室だろうし。廊下に設置してある消火器を手に取るとそっと扉を開き中を確認した。

 廊下よりも煙がひどく視界が悪そうだが、まったく見えないわけではない。数秒そのまま観察していたが、人影が動く様子がないので、そのまま中に入ってみる。

「うぅ。目に染みる……先に消防署に連絡すればよかった」

 煙で視界が悪いにも関わらず、オレンジ色の光は良く見えた。俺はとりあえずそこへ近づくと消火を開始した。消火器から白いものが噴き出ているが、これで消えるか不安だ。駄目なら逃げなければと思ったが、気がついた時には体が重く苦しかった。

 ヤバい。煙吸いすぎたかも。

 幸いオレンジの光は徐々に小さくなっているのでこのまま消えれば丸焼きだけは避けれるが、燻製になってるかもなぁと、ぼんやりしてきた頭で思った。

 ようやく火が鎮火できた時には、俺自身も限界だった。がくりと足をつく。とにかくはってでも出ないとと、消火器を転がしたはいいが、体が痙攣してなかなか進めない。……俺、死ぬのかな。


 今更ながらに無謀なことしたなぁと思う。でも火の手が回ったらイクさん死んじゃうかもしれないと考えると、仕方がなかったはずだ。でも――。

「……けて」

 助けて。

 まだ死にたくない。

 折角俺の人生楽しくなってきたのに。今までの運の悪さを挽回するように、家族ができて、友達が出来て……。もしかしたら、それで運を使いすぎたのかもしれない。今年に入って死にかけたのは妖怪に襲たのが一回目とすると、これで二回目だ。ちょっと俺、幸少なすぎじゃなか。


「助……て……、鬼……姫さ――」


 こんなすぐに死んでしまうなら、鬼姫さん達ともっと話せばよかった。そんでもって、拾ってもらった事、感謝していることちゃんと伝えればよかった。俺は鬼姫さん達が妖怪だろうとなんだろうと、一番大切な人だってちゃんと伝えておきたかったな――。

 かすんだ目で入口を見ると、ばんと大きな音とともに扉が吹っ飛んだ。

「えっ?……飛んだ?」



 


 




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