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台風一家  作者: 黒湖クロコ
本編
30/43

10章の2

 翌朝、目が覚めた時にはもうイッタンの姿はなかった。たぶん俺が寝てしまったから帰ったのだろう。

「悪いことしたかな」


 ピーチクパーチク雀が鳴き出した時間に起きた俺は、昨日を思い返しながら目玉焼きを焼いた。思い返すといっても、最後の方は記憶があいまいで、寝ボケた俺はちゃんと喋れていただろうか。どうも怪しい気がする。

 しかしこっちからの連絡手段がないので、イッタンには次回会った時に謝るしかなかった。覚えていればだけど。

 皆のお皿に目玉焼きとサラダを盛り付けると、自分の目玉焼きのみトーストののっけて半分にはさみラップでくるむ。

 そして電話の横に置いてあるメモ帳に、『レンジで温めて食べてね。すこし学校に行ってきます』と書くと机の真ん中にどんと置いておいた。

「これでよしと」

 すでに台所にスタンバイさせておいた自分の荷物を担ぐと、そのまま玄関へ静かに向かう。

「いってきます」

 小声であいさつをすると、俺は置き手紙通り学校に向かった。


 学校に到着した俺は、誰もいない校庭をずんずんと横切り、まっすぐに体育館へ向かう。今日は日曜日なので、好都合な事に部活の朝練もない。おれは迷うことなくすぱーんと障子をあけるような勢いで体育館の扉を開けた。

「いーくーさん」

 俺の声の後にしーんと耳が痛くなるほどの静寂が体育館に落ちる。しかし俺は辛抱強く待った。絶対いるはずだ。


「……一郎様?」

 数秒して蚊の鳴くような声が聞こえた。良く見れば舞台袖辺りに顔が転がっている。その顔は、少々引きつっているように見えた。

「なんだ。いるじゃん、イクさん」

「な、な何か、お、お、お、お、怒って……おられます?もしかして」

「うん。良く分かったね。もしかしなくてもだよ」

 俺はあえて笑顔をイクさんに向けた。すると、イクさんの顔色が青白くなる。まるでゾンビみたいだなっと他人事のように考えた。あれ、でもイクさんって、顔が取れているわけだし、元々ゾンビみたいなものか。

「お、お兄様に似てこられましたね」

「うっ……。そんな褒めても、許さないんだからね」

 家族に似てきたなんて、少し嬉しくなってしまったじゃないか。でも鬼塚の事黙っていて、俺を遠ざけようとしたのは変わらない。おかげで、凄く苦労したのだ。


「……褒めていません。いえ。そ、そうではなく。えっと、何を怒られているんでしょうか?」

 褒めていませんって、どういう意味かなという視線を向けたら、イクさんの首のない体が舞台袖から走り出てきてジャンピング土下座した。えっ。何、その見事な土下座。俺は驚きで一瞬呆けてしまった。

 しかしすぐに気を取り直すと、イクさんをまっすぐ見据えた。

「鬼塚のこと、黙っていたでしょ?この学校にあるなら、知っていたよね」

 にこにこにこ。

 俺が笑顔になればなるほど、イクさんの顔が恐怖で引きつっていく。これではゾンビではなく、惨殺された死体だ。ちょっと怖い。

「えっと。鬼塚とは……」

「学校の校庭に生えている、石の事。知ってるでしょ?」


「えっ。あれですか?!ま、まさか。一郎さまが探されていたのが、あれだとは思わなかったんですっ!!本当にすみません!!」

 ゴリゴリと頭を床に擦り付けたイクさんを見ていると、演技には思えなかった。あれ?演技じゃないの?

「でも知っていたんでしょ?鬼塚」

「は、はい。私が生まれて間もないころは、とても強い磁場を作り出していたので、忘れもしません。しかし、今は七不思議からも外されるぐらいただの石になってしまっています。なので、それの事だとは思わなかったのです!!申し訳ありません!!」

 おや?

 もしかして本気?

「あれって、俺を遠ざけようとした巧妙なわなだよね」

「いいえ。決してそのような事は!!この首に誓って!!」

「そもそも首ないよね……。あれ?俺に陽さん……。えっと、和栗神社の娘さんから情報をもらえって言ったんじゃなかったっけ?だからここまで調べるのに、すごく時間がかかったんだけど……」

 するとイクさんは体を起こし手を横に振った。

「ち、違います。人間ならば知っているかもと言っただけで、神社の娘から聞きだせなどという危険な事は言っておりませぬ」

 あれ?

 もしかして、俺の早とちり?


 しーんと静まりかえった空気が痛い。何で俺、朝練のない学校にこんなに早くから来てしまったんだろう。いや、もちろん、イクさんとしっかり話し合う為だけど。

 だらだらと冷たい汗が流れた。

「イクさん、俺こそごめんなさい」

 俺はイクさんのそばまで行くと正座をして頭を下げた。いわゆる、DO★GE★ZA★だ。しばらくそうしたがイクさんが何もしゃべらないので、俺は顔を上げた。そしててへっと笑ってみるが、イクさんの顔色は良くならない。

「そんでもって、もう一度知恵を貸して下さい」

「い、いいいいいいっ、ちろう様!!止めて下さい!!頭を下げないで下さいぃぃぃ!!」

 イクさんの悲鳴が体育館を揺らした。ギシギシと揺れるバスケットゴールに驚いたが、幸い正座していたので、無様に転ぶ事はない。


「イクさん、興奮しないで。今度こそ、本当に体育館が壊れるから」

 俺はどうどうとイクさんの背中を叩く。最初は震度五くらいあるんじゃないかという揺れだったが、次第に収まって来たことにホッとした。

 とりあえず、どれだけ怒っても言葉や行動には気をつけようと心に誓った。




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