1章の2
「誰の家族なんだろうね」
「凄い美形集団だね」
「おい、あの和服の人すっげー、可愛くない?」
「俺はその隣のスーツの方が好み」
はいはい皆さん。すみませんねぇ。俺凡人で。そうですよね。俺とみんなが繋がるわけないですよね。血もつながってないですからね。
それと和服の人は可愛いって言ってもばーちゃんで、スーツのお姉様風は、男だからねっと、心の中でツッコミを入れた。
来なくてもいいとあの後も全員に言ったが、適当に流され、結果一緒に登校することになった。結果、彼らは親たちが座る席でとてつもなく目立っている。まあ良いんだけどね。
「なあ。お前、何処小出身?」
うちの家族ってすごいなぁと改めて感心していると、俺の前に並んでいた男子が振り向いた。俺より少し背の高い少年は、人好きする笑みを浮かべた。
「あー、桜南。隣の県だから知らないだろうけど」
「知ってる。野球の友達にそこ出身の奴いたからさ。俺は、青山小。ちなみにここの奴はほとんど青山か御岳だぞ。知った顔ばっかでつまんね―て思ってたんだ。あ、俺は小池良。よろしくな」
「俺は、幸田一郎。よろしく」
ぺらぺらしゃべる少年を、半ば尊敬しながら、俺も自己紹介をした。
「そういえば、あそこの美麗集団って一郎の家族?」
「……そうだけど、良く解ったね」
俺とは血のつながりが、鬼姫さん以外はないので、分かるとは思わなかった。
「なんか似てるんだよなぁ」
「そうかな」
悪いが、俺は結構平凡だと思っている。
それに一緒に暮らしてたのは半年程度なので、似る要素はない。もしかしたら、鬼姫さんと俺は遠い親せきだし、兄さん達も鬼姫さんと遠い親せきなのかもしれない。そのわずかな同じ部分を見分けたのだろうか。
「なんか、言い方悪いけど人間ぽくないっていうかさ」
「どこら辺か聞いていい?俺は普通だと思うんだけど」
確かにあの人たちの見た目は、普通から大きく外れている。俺は違うと思うんだけどなぁ。とりあえず、結構不幸な生い立ちはしているが、見た目は平凡だ。告白ひとつされた記憶はない。
「お前の場合は、落ち着きすぎてるのが、変って言うかさ。ほら結構みんなそわそわしてるだろ。あの美形集団を見ても何とも感じてないようだし。そうなると、美的センスの欠如か、家族かだろ」
「それは強引すぎない?外見じゃなくて中身を大切にするからかもしれないだろ」
「人間まずは見た目だって。中身を大切にしても、見た目は悪いより、良い方がいだろ。それにしても、お前の姉ちゃん、綺麗だよな。紹介しろよ」
「……う、うーん」
それは兄さんと鬼姫さんのどちらの事だろう。紹介ぐらいしてもいい。しかし何か色々と彼の夢やら希望やらキラキラしたものを壊してしまう気がするのは気のせいだろうか。
「なんだよ。シスコンなんて今どきはやんねーぞ」
「うーん」
この場合は、ブラコンとババコンどっちだろう。
まあ、愛は人それぞれか。年の差も、性別ももしかしたら乗り越えられるかもしれない。俺さえ巻き込まれなくて、みんなが幸せなら、常識にとらわれるべきではないだろう。
「じゃあ、後でね」
「絶対だぞ!!」
半ば強引に握手され、俺はから笑いした。うん。明るい性格みたいだし、たぶん大丈夫だ。
しばらくすると入学式が始まった。君が代を適当に口ずさみながら、俺は天井を見上げた。家族がいる手前、あくびをするわけにはいかない。
流石にあの席からは見えないだろうが折角来てもらっているのだ。完璧にしないと。
それにしても、天井に吊るされた電球が左右に揺れるから、余計眠くなってしまう。
「ん?」
ふと自分の思ったことに違和感を覚えた。
体育館は入学式が始まった事により、扉が閉められている。じゃあ、風もないのに何で揺れているんだ?
「うぎゃっ」
どんっと言う地響きとともに、俺らは大きく揺れた。キャーキャーと悲鳴が至る所から聞こえる。倒れそうになった俺は、とっさにしゃがんだ。ギシギシときしむ音はなんの音だろう。考えると怖くなる。
学校なんだから、耐震とかしっかりしているはずだよな。
カシャンという音とともに、ステージに飾ってあった花瓶の破片が散乱した。それを見た生徒が連鎖的に叫ぶ。
「皆さん、その場にしゃがんで下さい。危険ですので、その場にしゃがんで下さい」
パニックになりかけてはいたが、繰り返される教師の声にしたがい、一人、また一人としゃがむ。
「マジやべーな」
「うん」
小池は周りに比べると落ち着いた様子で周りを見ていた。それでも、ペラペラしゃべらないところをみると、驚いてはいるのだろう。
「電気、ちょっと怖いね」
最初はゆらゆら揺れている程度だったのに、今ではぶんぶんと振り子のように揺れている。ちぎれて落ちてこない事を願いながら、俺は見上げていた。
「一郎って、冷静だな」
「小池君こそ」
冷静と言われるのは心外だ。これでも驚いているし、こんなに揺れる地震は初めてだ。
「良でいいよ。ってか俺の場合、一郎が冷静すぎるから落ち着いているんだけだけど」
「俺だってビビっているよ。電球とかバスケットゴールとか落ちてきたらやだなぁって思うし」
窓ガラスなんかはよっぽど大丈夫だと思うが、頭上にあるものが怖い。きっと防災ずきんをかぶっていたとしても、落ちてきたらトマトになるしかないと思う。
「そうやって周りを観察しているが、冷静なんだよ。それに先生が言う前にしゃがんだろ」
「立っていられなかただけだよ」
それはかいかぶりすぎだ。俺は運動神経がよくないから座ったにすぎない。
「これからどうするんだろうな」
「収まったら校庭に非難して……入学式は中止になるんじゃないかなぁ」
「そっか。そうだよなぁ。でも入学式に地震ってすごくない?」
「ははは」
いたずらっ子のような表情でにやりとする良をみて俺は小さく笑った。不謹慎だろうが、確かに凄い経験だ。たとえこれから何度転校したとしても、これと同じ体験はもう二度とないだろう。
良と喋っていると、次第に揺れは収まってきた。その事にほっと息をつく。
「担任の指示に従って、そのまま運動場に移動して下さい。一年生から移動します。他の学年は、その場で静かに座って待っていて下さい」
再びマイクを持った教師が、指示をした。
ドアに一番近い列から移動が始まる。俺もその流れに従って外へ出た。十分ほどしたころには、全ての移動が終わったようだった。
その後安全確認の為、今日はこのまま学校を休校する旨が伝えられた。パラパラと生徒たちは保護者の方へ歩いていく。俺も周りに合わせ移動した。
「良!!よかったっ!!」
近くを歩いていた良が突然、中年の女性に抱きしめられた。横にも縦にも大きい女性の腕の中にすっぽり収まった良は、じたばたと暴れる。
「ちょ、止めろよ母ちゃん。恥ずかしいだろ」
「良いじゃないかい。かあちゃんもう駄目かと思ったんだよ」
「大げさだろ。じゃあな、一郎!!また明日な!!」
恥ずかしいのか、すぐに別れを切り出され、俺は苦笑いする。別に気にしないんだけどなぁ。まあ俺も早く見つけたいしと思い、ぺこりと良のお母さんに頭を下げた。そして良に手を振った。
「うん。また明日」
そして俺は、自分の保護者を探すべく再び歩き出したのだが。
「あれ?」
一通り保護者が居るあたりは見た気がするのだが、俺の目当ての人物は一人もいなかった。
まさか先に帰ることはないだろうが、あの目立つ人たちが、一人も見当たらないとはどういうことだろう。少しずつ帰っているため、人も次第にまばらになてきた。そろそろ見つかってもいいはずだ。
「どこだろ」
さらに数分歩きまわったが、やはり見つからない。しばらくして校庭にはいないという考えにいたった。いくらなんでもこれだけ探して見当たらないなんておかしい。
だがそうだとしたら、一体どこにいるんだろう。
ぐるりと見渡して、探していない部分に思い当った。
「もしかして、体育館に戻ったとか?」
慌てていて荷物を置き忘れたのかもしれない。
このまま絶対いないであろう校庭にいても仕方がないと思った俺は、一人体育館の方へ戻った。