10章の1
鬼の封印された所は見つかったけれど、さてどうしよう。
しかもその場で儀式らしき事をされた形跡があるのに全く目覚めないって……この寝ぎたなさなら放置しても良くない?と思う。ただ今後も動物が犠牲になるならば、なんとかしてあげたいけれど。
「駄目だ……わからない」
俺は自分の部屋で少し整理しようと分かった事を書きだしていたが、自分でも何をしたらいいのか分からなくなりベッドに転がった。
何か色々見落としている気がするけれど……それが分かれば苦労しない。
「そうだ。そもそも、何で鬼を復活させようとしてるんだろ」
世界征服?
いやいや。封印されちゃうぐらいだから、そこそこ強くても世界征服は無理でしょ。俺はあり得ない話に首を振った。夜も遅くなってきたし、そろそろ寝た方がいいかもしれない。
そう思っている時だった。こんと窓ガラスに何かがぶつかる音がして、俺は体を持ち上げた。
「いっちゃん殿ぉっ!!」
「うわっ。……何だ、ただのイッタンか」
窓ガラスに張り付いた白いものに驚いたが、すぐにそれがイッタンだと気がつく。夜中に彼はちょっと心臓に悪い。
「イッタンどうしたの?そんなところで張り付いて」
「いっちゃん殿!!ここには見えない結界がありますぞ。これはいっちゃん殿のお力ですか?」
「結界というか窓ガラスね。それは俺じゃなくて職人さんの力かな」
そんな魔法のようなお力があったら、もっと楽に事件とか解決できるんじゃないだろうか。そう考えるともしも俺が妖怪だったら、また違ったのかもしれない。でも座敷童と鬼って何ができるんだろう。
「いっちゃん殿。中に入れて下されぇ」
「あ、ごめんごめん」
考え事をしていた為、イッタンの事を忘れていた。俺は鍵を外し窓を開けた。
「どうぞ」
イッタンはするりと窓枠の隙間を通る。いつもながら、女性が羨むスレンダーさだ。
「そういえば、イッタンってどうやって飛んでるの?」
羽があるわけではないし……不思議な構造だ。
「それは難しい質問ですぞ。逆に聞きますが、人間はどうやって歩いているのですか?」
「んー……それは足を使ってだけど――。確かに難しいね」
どうやってと言われると、確かに難しい。それぐらい俺は自然に歩いているわけで、イッタンもきっと同じなのだろう。
「久しぶりだね。今日はどうしたの?」
「おいは情報交換しようと思って来たんですぞ。何か鬼に関する情報は掴めましたか?」
「あー、鬼塚は見つかったんだけどね……」
霊感少女な陽さんがなにも感じない旨や復活の儀式らしきものが行われたみたいだけれど、何も変わってない事を説明した。
話が進むにつれイッタンは器用にも眉間のあたり――といっても目の位置から推測した位置にすぎないが――に皺を寄せる。
「それはたぶん鬼塚には鬼が居ないと考えた方がいいんですぞ」
「えっ。やっぱりあんまり寝過ぎて死んじゃったとか?」
死因は寝過ぎ。うっかり心臓まで止めちゃったとか、ちょっと情けない死にざまだ。
「その可能性も否定できませぬが、おいは鬼をさらに別の場所に封印されているのではないかと思うのですぞ」
「そんな引っ越しみたいなことできるの?」
それが出来たら結構何でもできそうじゃないだろうか。あの石塚の前で復活の儀式をやろうなんて危険な橋を渡らなくてもすむ。
「理論的にはですぞ。しかしできるのは人間、しかもよほど大きな力があるものしか無理ですな。起こしてはいけないのですから、命がけの作業ですぞ」
「へぇ」
命がけって……そこまでして何で移し替たんだろう。もっとしっかり隠そうと思ったのだろうか。だったら、最初から持ち運びできるようなものに封印すればよかったのに。そうでなくても、もっとしっかり隠せよという気持ちだ。
俺の気の抜けた返事が、危機感が薄いようにとられたみたいだ。イッタンは小さな目を吊り上げると、声を荒げた。
「封じられているのは、大妖怪ですぞ?!もしも復活をすれば、天変地異が起こりますぞっ!!」
「天変地異?」
普段使わない単語だからか今一ピンとこない。すごく大変そうなのは雰囲気で分かるんだけど。
「鬼は地震や洪水などの災害を起こす事ができるんですぞ」
「地震を起こすって……鬼ってナマズの仲間なの?」
「違いますぞ。そもそもナマズは予知するだけで、自身は起こさないです……。ともかく鬼の一族は風神や雷神と呼ばれたもののように自然を操るのですぞ。もちろん何でも操れるというわけではないですが、それはとても巨大な力です」
つまり、テラチートということね。皆が鬼姫さんの事を怖がるのも分かる。
「うん。とりあえず、俺の親戚が大迷惑なことは良く解ったよ」
「いっちゃん殿は分かっておられませぬ。何故、あせらないのですか?!」
そう言われてもなぁ。
実際に目の当たりにした事がないからか、どうしても想像力が旨く働かない。俺はベッドの上に転がしてい置いた本を持ち上げイッタンにみせた。
「俺は、妖怪に関してはビギナーなんだよ。これで勉強中だし」
妖怪大辞典と書かれた本を図書館で借りるのはそれなりに勇気がいった。それを見たイッタンはがっくりと肩のあたりを落とす。俺のレベルを理解したらしい。
「それで他には学校には何か不思議な事はないのですか?」
「へ?不思議な事?」
「仮にも鬼に関わりの深い学校ですぞ。何か手掛かりがあるに違いないですぞ」
不思議な事ねぇ。俺の脳裏に浮かんだのは、アレぐらいだ。
「えっと、あの学校は七不思議があるけど。不思議なことといったらそれぐらいかな?」
全く鬼との繋がりは感じないけれどね。俺は心の中でのみそう付けくわえながらも、イッタンに説明する。そして色々話しているうちに時間は翌日になっていた。
俺も終わりがけは半分寝た状態で、あくびが出るのを隠す気もしなかった。しかしイッタンはさすが妖怪だ。夜は墓場で運動会するぐらいのアグレッシブさで俺に質問を何度もぶつける。
俺も頑張ったのだが、うとうとしながら校長室に飾ってある絵の事を話したあたりで、意識は夢の中にダイブした。