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台風一家  作者: 黒湖クロコ
本編
28/43

9章の3

「良って忍び込むとか、本当に好きだよな」

「冒険は男のロマンだろ」

 それはRPGだけにして下さい。

 現実世界で勝手に侵入してアイテムを拾ったら、ただの泥棒だ。もちろん今回は盗むなんて真似をしようとしているわけではないのだけど。


「無理そうなら、すぐに美術室戻るからね」

「大丈夫だって。職員会議は会議のための会議で、全然話が進まないって兄貴も言っていたし。それにこういう時じゃなけりゃ、校長室なんて入れないだろ」

「いや。そんなに頑張って入らなくていいから」

 俺たちは、無謀にも校長室に忍び込もうとしていた。というのも、良のお兄さん情報で美術室の変わる絵が今は校長室に飾られている事を知ったからだ。折角だから見に行きたいと言い出した良につき合っている俺も俺だけど。止められなかった時点で同罪だ。こうなったら絶対見つからないようにしなければ。


「何だよ、ノリ悪いな」

「だったもっとノリのいい奴誘いなよ」

「俺は一郎がいいの。というか、他の奴らと一緒だと絶対見つかるからな」

「何だよそれ」

 俺と一緒だって、同じだろうが。お前がいいなんてセリフ、彼女に言えよ。あー寒い。

 俺は自分の腕をこすった。

「ほら前の肝試しの時。俺ら以外のグループは皆先生に捕まってゲームオーバーだったんだよな。それなのに俺らのグループは誰にも会わなかったって凄くない?俺って、結構げんを担ぐ方なんだよね」

「へぇ」

 俺、もう少し社交性を上げた方がいいのかもな。そんな事になっていたのも、初めて聞いた。そりゃ肝試しで全然誰にも会わないわけだ。きっと皆は早々に捕まったのだろう。

 しかしどうして俺らだけが捕まらなかったのか。……ラッキーとか?


「おい、一郎隠れろ」

 いきなり腕を下に引っ張られ、俺はバランスを崩し倒れるようにしゃがんだ。良がそろそろと頭を上げ

窓の外をのぞく。

「どうしたんだよ」

「外に部活の先輩がいるんだよ。渡り廊下はかがんで走るぞ」

「ちょ、マジで?」

 いくら自習とはいえ、さぼりがバレたら部活で色々あるんだろうけどさ。見つかりたくないなら最初からやらなければいいのに。こういうのを自業自得っていうんじゃなかったっけ。俺は小さく息をはくと、諦めて良の後をついて行った。

 階段をできるだけ音をたてないようにして降りると一度職員室の近くの柱に身を隠した。校長室は、職員室よりさらに奥だ。


「やっぱりまだ会議してるみたいだな」

「どうして、分かるのさ」

「ほら、職員室の扉に何か貼ってあるのが見えるだろ。会議の時は、張り紙がしてあるんだよ。さてとどうやって行くべきか。匍匐前進――」

「は、やめてよ。普通に歩けばいいから。その方が見つかった時も言いわけしやすいし」

 走ったり、変な行動をとれば余計に目立つ。それぐらいなら、堂々とさも何でもありませんといった雰囲気を醸し出した方がいい。

「一郎って、頭いいよな。じゃあ行くぞ」

 ずる賢い事を褒められてもあまりうれしくないんだけど。


 職員室前をなんなく抜けた俺らは、校長室の前に立った。良がドアに耳をあてる。

「物音なし。たぶん大丈夫だ」

「オッケー。本気で忍び込む気なんだね」

「当たり前だろ。ここで引き下がったら男がすたる。じゃ、行くぞ」

 ガチャ、ガチャ。

 良がドアノブを回すがまわりきる様子はない。その事に俺はホッとした。やっぱり勝手に忍び込むのは気が引ける。

「鍵がかかってるみたいだね」

「くっそ――むぐっ」

「声が大きいってば」

 良の口を押さえ、俺は小声で注意する。一蓮托生なんだから、止めてくれ。


 分かったと良が頷くので、俺は口から手を離した。

「鼻まで塞ぐなよ。死ぬだろ」

「あ、ごめん。ちょっと殺意がわいて」

「……大声出して悪かったよ。でも悔しいよな。上の方とか見えないかな?」

 校長室の壁の上の方は窓になっており、そこから少しだけ中が見える。といっても、わずかだけれど。

「一郎君」

 良が俺の名前を呼んだ。後尾にハートマークがつくかと思うぐらいの猫なで声である。

「……台になればいいんでしょ」

「流石、一郎!愛してる」

「馬鹿な事言う暇があったら、さっさと終わらせるよ。それと声のトーンをもっと落として。見つかりそうになったら、俺一人でも逃げるから」


 いくら良が友達でも、家族に迷惑をかけるわけにはいかない。俺が四つん這いなると、背中にズシリと重みが加わった。

「何か、風景画が一枚飾ってあるだけだな。これってたぶんうちの学校の校庭じゃないか?花壇と校舎の位置が同じだし」

「分かったから、見終わったんなら早くどけって。職員室が、がやがや言ってるから」

「マズイ。会議が終わったみたいだ。逃げるぞ」

 良は俺の背中から降りると、俺の腕を引っ張って立たせた。俺らは、何事もなかったかのように、それでも少し早歩きで職員室前を通り過ぎる。そして階段まできたら一気に駆け上がった。バタバタと足音がしてしまうが、教師に追いつかれたら終わりだ。

「良につき合うのはっ……これで最後だからなっ!」

「またまた。こういうスリリングっ……は絶対、癖になるから」

 なってたまるか。

 次は流されないと心に決めて、俺は美術室まで全力疾走した。






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